第十七話 洗練された土下座

「やーよくやったな」


「そうそう。こういうので良いんだよ。こういうので」


 ゴブリンの群れの掃討が終わった後、ディオとトゥリスの2人が口を揃えてそう言った。

 しっかりと頷きながら、満足そうに。

 ……まるで今までが満足じゃないみたいな感じだが……実際そうなので、何も言えない。


「おーい! さっさと、手伝ってくれよ。お前らも金欠とか言ってただろ? ここでちゃんと魔石取っておかないと、金入らんぞ?」


「やっべー。返す分……いや、何でもない。とにかくやらないと!」


「そうじゃん。そうじゃん。早く返却……じゃなくて、やらんとやらんと!」


 すると、真っ先に魔石取りへと走ったエーナスが、2人に向かってそう声を上げた。

 それに思わず「えっ……」と言葉を漏らす俺を余所に、2人は口々にそう叫ぶと、ゴブリンの死骸へと一直線に向かう。

 そして、一心不乱に――どこか焦りも見える顔で、魔石を取り出し始めたのだ。

 しかも、わざわざ時間をかけてでも、慎重に正確に――まるで失敗は許されんとばかりだ。


「シャリア。なんか、不純な気持ちが混じっているように感じるのだが……気のせいかな?」


「……はぁ。彼らの自業自得です。ゴブリンの魔石ぐらい、くれてやりましょう?」


 必死そうな彼らを前に、俺はすすすーとシャリアの所まで移動すると、横からそう声を掛けた。

 すると、シャリアは心底呆れたといった様子で、そう言う。


「……ええ。悪い人柄の方ではありませんし……きちんと護衛していただいた暁には、少々報酬に色を付けるとしましょう」


 そして、なんとトラディスさんも、シャリアと似たようなことを口にした。


「……なるほど。なら、そうした方が良いんだろうなぁ」


 そんな2人からの言葉を聞き、俺は腕を組みながら、頷くのであった。

 その後、魔石を無事回収した俺たちは――


「「「お願いします!!!」」」


 エーナスたちから、必死の土下座&魔石沢山恵んでください宣言を受けていた。

 その土下座の、なんと美しいことか。

 どれほど強力な思いが、詰まっているのか。

 どれほど純粋な思いから、生まれたものなのか。

 俺はその洗練された土下座に、一種の極みのようなものを見出してしま……


「とはならんだろ」


 うん。確かに、いい土下座だ。

 何かを極めるという事の本質を、理解しているからこそ分かるもの。

 だが、それはそれ、これはこれだ。


「金欠については……詳しくは聞かない。答えられないんだろ?」


 その言葉に、暗に頷く3人。

 まあ、そうだろうな。

 全員の金欠理由は知らないが――ディオに関しては知っており、それが他人にあまり言えないという事も知っている。

 なら、下手に聞くのは悪手だろうからな。

 それよりも、聞きたいのはこっそりとシャリアに耳打ちされた、こっちの方だ。


「それで、それをする対価はなんだ?」


 何かを頼むのであれば、それ相応の返しをする。常識だな。

 まあ、俺個人としては可哀そうだし、護衛関連で色々と迷惑を掛けたから、これぐらいはタダでも良いんじゃないかと思ったのだが……それは、シャリアにバッサリと斬られてしまった。

 シャリア曰く、「3人共、一度ラクをすれば調子に乗るタイプです。こういう方に逃げ道を教えるのは、こちらにとっても相手にとっても、よろしくありません」らしい。

 うん。何故か納得できてしまうな。

 すると、その言葉に彼らは暫し固まった後、口を開く。


「死ぬ気で護衛依頼をします!」


「リヒトさんとシャリアさんが、働かなくても良いレベルで働きます!」


「その他雑用や野営の準備も、全てお任せください!」


 必死に――それはもう必死に、彼らは自らが出来る事を主張する。

 正直に言えば、どっちにしろ人手の問題で、こっちも動かなきゃならない事はそれなりにあるし、その他諸々を考慮すれば、ぶっちゃけそれは向こうに有利な気がしなくも無い。

 ただ、もう一度言うが、俺は護衛関連でそれなりに迷惑を掛けたからな。ある程度は向こうに有利でもいい筈だ。

 そう思い、俺はちらりとシャリアを流し見する。

 するとシャリアは、どこか呆れたような表情をしながらも、最終的にはこくりと頷いてくれた。


「ふぅ……た、助かった。これで返きゃ……いや、何でもない」


「良かった。本当に良かった……返すぶ……何でもない」


「本当にありがとう……これで2人に……何でもない」


 そして、その事には3人とも歓喜の声を口々に上げた。

 ただ、どういう訳か、この時だけ若干の不純さが混じっているような気が、するような、しないような……

 まあ、気のせいだな。


「じゃ、頑張って働いてくれ。緊急時は、当然こっちも手を貸すからさ」


「「「はい!」」」


 こうして、その後も順調に、王都へと向かって進んで行くのであった。

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