第十六話 護衛は成長する
少しトラブルがありつつも、宿に帰還した俺たちは、それぞれの部屋に戻って寝た。
そして、次の日の朝。
「あ~……っと。行くか」
スッキリ目を覚ました俺は、身体を伸ばした後、身支度を整えると部屋を後にした。
そして、下の食堂でシャリアと合流すると、そこで朝食を食べ始める。
「ああ、襲撃してきた昨日の馬鹿たちですが、昨晩に無事衛兵の詰め所で頭を冷やしてくれたそうです。今朝詫び金も回収してきました」
そう言って、硬貨が入った小さな革袋を揺らしてジャラジャラと鳴らす。
へー朝にそんなことしていたのか。
「そうか。それなら、良かったってことでいいか」
「はい。反省したかは知る由も無いですが、落とし前はしっかりとつけられましたので、もうこれ以上言うこともありません」
そう言って、水を飲むシャリア。
ドライな言い方だが、見ず知らずの人に対しては結構キツめなシャリアらしい考えだな。
「じゃ、もう忘れるか」
そう思いながら、俺は朝食を食べ続けるのであった。
その後、朝食を食べ終えた俺たちは、時間を確認しつつ、程よいタイミングで宿を後にした。そして、集合場所である南門へと向かう。
「お、リヒトじゃん。タイミングいいな」
すると、その道中でエーナスたち3人と合流した。
時間的にも場所的にも、ここら辺で合流するのは割と必然かもしれないな。
「あー……」
すると、目に入るのはやけに気分を落としているディオ。
何かあったのだろうか……?
「ディオ。かなり落ち込んでいるようだけど、何かあったのか?」
「いや、何でもない何でもない。ただの自業自得だよ」
俺の問いに対し、ディオはどこか食い気味にそう言うのであった。
この感じ……ああ、疎い俺でも流石に分かったぞ。
これ絶対、賭博で大負けしたな?
エーナスを宿へ送り届けた後、また地下賭博場へ行き、賭博する。
そして大損……もしそうだとすれば、ご愁傷様としか言いようが無いな。
まあ、流石に直接は言わないけど。
「いいかーリヒト。ちゃんと、俺らも護衛に参加させろよ? マジで、また言って置かないと、何度でもやりそうだからなぁ……お前は」
「それに関しては本当にすまないと思っているのだが……癖でなぁ……シャリア。止められる? 俺の事」
そう言って、俺はシャリアに話を振る。
「氷の槍で何度か貫けば、止まりそうですね」
「いやそれ、生命活動諸共停止するってー。怖いよ、シャリアさん……」
シャリアの至って真面目な答えに、トゥリスはぶるりと震えた。
それでも、トゥリスは冗談だと思っているのだろうが、実際シャリアだったらマジでやりそうなんだよなぁ……
まあ、別にそれをされても、何ら問題は無いんだけどね。
そう思いつつ、その後も雑談が続き、気づけば南門に辿り着いていた。
「おお、皆さん。おはようございます。本日も、よろしくお願いします」
すると、早速門の所にトラディスさんを発見した。
トラディスさんは、俺たちの存在に気付くなり、近づくとそう言って礼儀正しく頭を下げる。
「ああ、おはようございます。トラディスさん」
そんなトラディスさんに、俺も釣られるようにして頭を下げた。
その後、俺たちは形式に則って依頼の確認をしてから、馬車に乗り込んだ。
やがて、昨日のようにゆっくりと進みだした馬車は、そのまま門を潜り、スティキマの外に出た。
「……暇だなぁ」
そして訪れる暇時間。
いや、こればっかりは仕方ない。比較的魔物の少ない場所を通る際の宿命みたいなもの。
むしろ、これで金が貰える事に、喜ぶべきなんだ。
……でも、やっぱ暇だ。
そう思っていると、反対側の監視をしていたシャリアが口を開く。
「こちら側から、ゴブリン5匹来ました。後ろから、更に数匹来る感じもしますね」
「分かった。トラディスさん、馬車止めて」
シャリアの言葉で、俺たちは一斉に動き出した。
武器に手を掛け、馬車から飛び降り、森から出て来たゴブリンの群れを見やる。
「いいか、リヒト。護衛は基本的に、護衛対象からあまり離れちゃ駄目だ。だから、あともう少しだけ引き付けてから俺と共に行くぞ」
「分かった」
俺の自業自得によって生まれた、エーナスによる過剰なまでの忠告。
それに俺は短く頷くと、早く突撃したい気持ちを少しだけ抑える。
そして、それからものの数秒後。
「よし。行くぞっ!」
「ああ」
俺たちは、同時に走り出した。
「【氷の槍よ、穿ち抜け】!」
「【――炎の弾丸となれ、穿て穿て】!」
すると、待っていた数秒の間に詠唱を進めていたシャリアとディオがそれぞれ氷の槍と炎の弾丸を放つ。
「グギャアァ!!!」
「ギャア!?」
俺たちの上を掠めたそれらは、ゴブリンたちへ一気にダメージを与えていく。
相手がゴブリンということもあってか、それだけで群れは総崩れ。逃げの体勢に入っている。
「逃がすかっ!」
そんな奴らを、俺たちは一気に刈り取って行く。
特に手応えも無く、バタバタと倒れていくゴブリンども。
こうして、襲い掛かって来たゴブリンの群れは、あっという間に全滅するのであった。
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