第十五話 最近の対処法

「あ~……マジで飲んだ飲んだ……っと。そんじゃ、流石に俺は宿に帰ってさっさと寝ますわぁ……」


「お、おう……気を付けてな」


 冒険者ギルドの外にて。

 かなり酔っぱらった様子のエーナスは、そう言ってふらふらと立ち去って行く。


「あー……流石に今晩は我慢するか。おい、肩貸してやるよ」


「すまんわぁ……」


 すると、そんなエーナスの事を見ていられなくなったのか、ディオがエーナスに肩を貸した。


「んー……俺は必要なさそうだな。そんじゃ、行ってきまーす」


 そしてトゥリスはそう言って、颯爽とこの場から駆け出して行った。

 向かうのは……東の方か。


「トゥリス……どこ行くんだろ」


 エーナスがあんな調子なのに……と思っていると、シャリアが何とも言えない顔をしながら口を開いた。


「あの様子、あの方向……い、いえ。大丈夫です。もう、彼らへの疑いは晴れました」


「そ、そうか……なんでそんな急に……?」


 そんなシャリアの言葉に、俺は訝し気にそう問いかける。


「彼らは皆、自分の欲に少し忠実過ぎるだけの、普通の冒険者です。……それより、私たちも宿へと向かいましょう」


「……ああ、そうだな」


 俺の問いに、その答えとは言い難い言葉で返すシャリア。

 そして、話題を即座に逸らす。

 何とも気まずそうな雰囲気だ。

 ……まあ、言い出しっぺはシャリアな訳だし、そのシャリアが大丈夫だと判断したのなら、多分問題は無いのだろう。

 そう思った俺は、少し言葉に詰まりつつも頷くと、シャリアと共に昼の内に部屋を取って置いた宿へと向かって、歩き出すのであった。


「……んーにしても、この感じからして、王都に着くまでは大した魔物には出会え無さそうだな」


「そうですね。まあ、安全なのに越したことは無いのですが……」


「うん。なんか、身体が鈍りそうで若干怖いんだよなぁ……。勿論、強い魔物来いって願ってる訳では、ないんだけど」


 月夜の下で、俺たちは歩きながらそんな雑談を交わす。

 うーむ。それに鈍るのもそうだが、1日に何度かは斬られて慣らしておかないと、俺ってビビりだから、また恐怖心が芽生えてしまいそうで、怖いんだよな。

 んー……シャリアに斬って貰うよう頼むか?

 自分で斬るのは、いつもやってる訳だし。

 そんな事を本気で考え始めていると――次の瞬間、俺はあるものを感じた。

 俺が嫌いな、あの感覚を。


「シャリア、害意だ」


「!?……分かりました」


 俺の短い言葉に、シャリアはそう言って頷く。

 さて、見ているのは何者なのだろうか……?

 すると、そいつらが姿を現した。


「失礼っと!」


「おらっ!」


「はっ!」


 数は6人。

 1人はシャリアの下へ一直線。2人は俺の方へ突貫し、残る3人は後方で余裕ありげな表情を見せている。

 因みに武器は持っておらず、皆無手だ。


「なるほど」


 だが、見た感じ戦闘能力は然程高くない。

 昨晩戦った盗賊団の組員以上、首領以下の性能だ。


「遅い!」


「がっ!」


 俺はまず、シャリアの方へ向かっていた男の胸倉を掴んだ。

 そして、そこから勢いよく放り投げる事で、俺を狙っていた2人をいい感じに足止めする。


「沈んどけ」


 その後、投擲と同時に接近を開始していた俺は、怯む2人の頭をそれぞれ鷲掴みにすると、死なない程度に地面へと叩きつけた。

 流石に街で人を殺るのは躊躇われるし……それにこいつらからは、特に殺意は感じなかったからさ。

 多分、痛めつける程度だっただろうし、それなら俺も一旦はこの程度にして置こうって感じだ。


「ひっ 逃げろっ!」


 すると、その様子を見ていた3人は、一斉に逃亡を始めた。

 だが、それは――


 ヒュン――ザザザザザッ!!!


 氷槍が逃走経路を塞ぐようにして放たれ、地面に突き刺さることで出来た氷の針山によって、防がれる事となる。


「ナイスだ、シャリア」


 そう言って、俺は一気に距離を詰めると、そいつらを地面へひっ倒した。

 そして、残る3人はシャリアに任せ、脅は――事情聴取を始める。


「おい。何しに来た。 正直に答えなきゃ、マジで容赦しないぞ……?」


 威圧感はあまりない俺だが、いつでも殺せるんだぞアピールを、実際に人の命を奪ったことがあるその手ですれば、不思議な重みが生まれて来る。

 そのお陰か、彼らは簡単に吐いてくれた。


「かわいい子が、いたんだけど、その……隣に男が居るから、ちょっと脅して奪ってやろうって思いまして……」


「ごめんなさい。もうしません」


「自首します。自首しますんで、どうか命だけは……!」


 そんな感じで、事情説明と命乞いをしてくる3人。

 その言葉に、俺はどこか腑に落ちたような気分になった。


「ああ、舐めて調子乗って、突っかかってくる奴らか……」


 テレンザでも何度か、そういう目にあった。

 俺より年下の若い奴らが、可愛い子――シャリアを奪ってやろうとする、ふざけた真似の事。

 見れば、こいつらも俺と同じが、それ以下の若い衆。

 あっちでは、何度か潰したらいつの間にか来なくなったが……今思うと、俺が弱そうなのが原因なのかな。

 実際、舐められやすいし。

 行けるって思うんだろうね。


「まあいい。お前ら全員、自首しろ。明日になってもしてなければ……分かるな?」


 俺の精一杯の圧に、奴らはこくこくと高速で頷く。

 何だかんだで、殺意が無い相手にはこうするのが、一番効果的だというのが、最近分かって来たんだよね。

 無駄に時間を浪費する必要も無いし、罪を償わせられるし。


「シャリア、行くよ」


「分かりました、リヒトさん」


 そうして、俺たちはさっさとこの場から立ち去って行くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る