第十四話 酒場で飲むぞ

「ふぅ。なんだかんだ言って、あっという間だったな」


「そうですね、リヒトさん」


 夕日を背に、隣り合わせで歩きながら、俺たちはそんな言葉を口にする。

 うん。シャリアとのんびり過ごす時間は、やはりあっという間だった。

 例えるなら、研究実験に熱中している時ぐらいだ。

 ……いや、これは一般人には分かりづらいか。

 まあとにかく、時間を忘れてしまうぐらい、楽しかったって事だ。


「……で、着いたわけだが……エーナスたちはもう居るのかな?」


 やがて、冒険者ギルドに辿り着いた俺は、思わずと言った様子でそう口走る。


「分かりません。ですが、初日に集合時間よりも早く来ていた事を考えると、それなりに時間には厳しい方たちだと思います」


「なるほど」


 シャリアのしっかりとした受け答えに、俺はそう言って頷くと、冒険者ギルドの中へと入った。

 冒険者ギルドの中は、丁度依頼を終えた人が多く帰って来る時間帯という事もあってか、相当に混んでる。

 すると、酒場の方で見慣れた人物たちが目に入って来た。


「あ、もう居たんだ。エーナスたち」


「もう飲んでますね。そんなに飲みたかったのでしょうか……?」


 そこに居たのは、酒を飲み交わすエーナスたち3人組の姿だった。

 酒場はそれなりに混んでいるが、しれっと2人分の席を空けてくれている。


「ふー……お、来たか。こっちだこっち!」


 少し近づいた所で、エーナスが俺たちの存在に気づき、手を振りながらそう声を上げた。


「分かったー!」


 エーナスの言葉に、俺は反射でそう答えると、シャリアと共に酒場の席へ駆け寄る。


「いやー俺たちもさっき来たばっかなんだが、ちょっと今日は混み気味だな。何かあったのかな?」


「何も無いだろ。ま、取りあえず座ったらどう?」


 エーナスの言葉に、ディオはそうバッサリと切りつつ、そう言って空いている席をコンコンと叩く。


「ああ、分かった」


 俺はそう言って頷くと、シャリアと隣り合わせになるように席に座った。

 そして、いつものように注文を頼む。

 すると、ものの数分で食事と酒が届けられた。

 ああ、シャリアは酒じゃなくて、水だけど。


「あー……いいよなぁ。こういう酒場に出てくるような安酒も、それはそれで乙なものだ」


 そう言って、酒を飲むエーナス。

 ん? それにしてもエーナス、昼も酒飲むとか言ってなかったか?

 それで今も……見た感じ数杯は飲んでいる。

 俺が言うのも何だが、大丈夫なのだろうか?

 エーナスを見て、俺は内心そう思いつつも、串焼きを頬張って腹を満たす。


「あまり安酒などとは、言わない方がいいですよ。エーナスさん。これは一般的な価格ですし、聞く人が聞けば不快に思われますよ?」


 すると、シャリアが思わぬところを突いてきた。

 そしてそれに、エーナスは俺でも分かるレベルで動揺する。


「あ、ああ……すまんすまん。昨晩、トラディスさんから貰ったワインが、結構高くていいものだったからな。つい、言ってしまった……」


「いえ、こちらこそ少し言い過ぎてしまいましたね。実際、これよりも高い酒はいくらでもありますし、これからは気持ち気を付ける程度でいいと思います」


 動揺しつつもそう言うエーナスに、シャリアはそう言って話を締めた。

 その後、「注意されてやんのー」とばかりにディオとトゥリスの2人から小突かれるエーナスを見ながら、俺はシャリアの方を見やる。

 すると、申し訳ないとばかりに、小さく頭を下げた。

 んー結局今のは、トゥリスが安酒と言ったことについて言及したのか。

 それで、トゥリスが動揺したとなると、トゥリスは普段から高い酒を飲んでいるって所だろうか?

 別に高い酒を飲むぐらいなら、問題ないと思うけど……まあ、詳しい事は後でシャリアに聞いてみるか。

 そう思った俺は、そこで考える事を止めると、酒で喉を潤した。


「くっくっく。エーナス、どんまい」


「笑いやがって……こんな時は酒だ酒」


 ディオに煽られたエーナスも、そう言って酒を呷った。

 おーまさかの一気飲み。

 一気は普通に危ないから、止めた方がいいぞ……

 だが、エーナスはなんてことなく、全てを飲み干した。

 すげぇ。


「ぷはー……うめぇ。なーリヒト。お前はなんでSランク目指してんの~……?」


 若干酔い気味なエーナスが、テーブルの上に空となったジョッキをドンと置くと、そんな事を問いかけて来る。


「幼い頃、Sランク冒険者に命を救われたからだ。それ以来、俺はSランク冒険者に憧れ、ずっとずっと積み重ねて来た。これから何年かかろうが、必ずなってみせるよ」


 その問いの答えなど、決まっている。

 俺は反射的に、そう答えを告げた。

 すると、ひゅっと息を呑む3人衆。


「おー……前も思ったが、重いなぁ。今の言葉」


「それな。なんか、強すぎて敗北感すら起きねぇわ」


「俺、初めてマジもんの意志が強い人を見た気がする」


 そして、皆口々にそんな事を言った。


「あ、ああ。まあ……ありがと」


 俺からしてみれば、もはや当たり前の事なのだが……それでも褒められるのは、悪い気がしない。

 そう思った俺は、そんな何とも言えない礼をするのであった。

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