第十三話 似た者同士

 違法ギリギリな賭博場を出た俺たちは、気配をなるべく消しながら、大通りの方へと向かって歩いていた。


「なあ、結局ディオはいい奴なのか? 悪い奴なのか?」


 そう言って、俺はシャリアに話を振る。

 地味に人付き合いの乏しい俺には、自分に対する悪意や害意が無い限りは、そういうのは良く分からない。

 それに引き換え、シャリアはその経歴上、人を見る目が俺よりもずっと高いのだ。

 そんな俺の問いに、シャリアは普通に答えを告げる。


「そうですね。良くも悪くも人間らしい……と言った所でしょうか。本質は善ですが、人並みに楽な方向へ流れ、軽い悪に手を染める可能性も無くは無い」


「なる……ほど。つまり?」


「特に気にする必要は無いです。ああいった類の人は、何か企んでいれば直ぐに変化で気が付きますので」


「……そうか」


 中々深い事を言ってくれたが、取りあえず問題は無いって事で、いいだろう。

 そうなると、残るはエーナスとトゥリスという事になるのだろうか……?


「で、エーナスとトゥリスだが……流石に行方は分からないぞ?」


「まあ、それは仕方ありませんね。今日の夕食後など、タイミングはいくらでもありますし、その時々を見て、怪しいと思ったら行きましょう」


「だね。それまでは、普通に休息だ」


 こうして俺たちは、夕食までの時間をただのんびりと過ごす事になるのであった。


 ◇ ◇ ◇


「……はい、残念」


「クソおおおおお!!!!!」


 一方その頃。

 地下賭博場、ルーレットにて、ディオは1万セルを綺麗さっぱり失った。


「……仕方ない。ここで勝負に出るか」


 そう言って、ディオが指で弾くのは銀貨4枚――4万セル。

 それを重ねて摘まんだディオは、テーブルの上にパチンと置く。

 そこは――3rd 12。即ち、25~36の数字……だ。


「よし、以上だ」


「分かった。ノーモアベット」


 ここで、ディーラーが賭けの終了を宣言した。

 こうなれば最後、もう後戻りは出来ない。


「どうせなら、数字の方に置いても良かったのだがな」


「ほざけ。流石にそりゃヤバ過ぎだろ」


「違いない。だが、伝説の賭博王であれば微塵の迷いも無くストレートアップを選ぶぜ? 十万単位で」


「無理だ無理だ。ただでさえ、エーナスとトゥリスの財布から、2万ずつ盗ってんだ。これ以上盗ったら、流石にバレるって」


「……殺されんといいな、お前」


 そう言って、ディーラーは円盤ホイールに球を投げた。

 パチンコ玉程度の大きさのそれは、円盤ホイール内をくるくると回って行く。


「頼む、頼む、頼む、頼む……! ここで勝てば、2人への返却分含めても十分儲かる!」


 その前で、ディオは無意味に祈り続ける。

 すると、やがて球は動きを遅くしていき――カチッと窪みに嵌った。


「……24」


「ああああああ!!!!」


 3分の1で勝てた勝負に負け、ディオは地面へと崩れ落ちた。


「じゃ、貰うぞ」


 そんなディオを前に、ディーラーは無慈悲に賭けられた4万セルを回収する。


「で、続けるか?」


「ふぅ……勝つまでやる。勝つまでやれば、勝率100パーセントだ」


「そうか。まあ、頑張れ」


 そうして、ディオは賭博の沼に引きずり込まれて行くのであった。

 一方その頃。


「あー……美味いなぁ……」


 エーナスは1人、店で赤ワインを嗜んでいた。

 店内には落ち着いた雰囲気が漂っており、その感じは言うなれば、隠れた名店といった感じだ。


「……う~いいね。マスター、他に何かいいのあるかい?」


「そうですね……こちらの白ワインはどうでしょう? 程よい甘口、爽快な味ですよ。ですが少々お高く、1杯で5000セルになります」


 エーナスの言葉に、マスターはそう言って1本の瓶を取りだす。


「ああ、なら頼むよ。金はある」


 そう言ってエーナスはポンと5000セルを出した。

 それを受け取ったマスターは、直ぐに白ワインをグラスに入れると、エーナスの前に差し出す。


「おー……いい香りだ」


 エーナスは笑みを零しながらそう言うと、味わうように白ワインを飲み始める。


(いやー……ディオとトゥリスからそれぞれ2万セルずつ拝借したからな。最高だぜ。まま、借りるだけだ。借りるだけ。後で必ず返すから……)


 そんな事を思いながら、エーナスは白ワインを嗜むのであった。

 そしてまた、別の場所では――


「ふ~美味いな、ここの飯は」


「ありがとうございます。ご馳走して頂いて」


 大通りから外れた場所にある、とあるで飯を食べるトゥリスの姿があった。そんなトゥリスの横には、見目麗しい美女が居る。


「……ふぅ。美味かった。それじゃ、一発やるか?」


 やがて、食事を終えた所でトゥリスがそう言って、銀貨3枚をテーブルの上に置く。

 その後、その銀貨を手にした美女は、それを仕舞うと口を開いた。


「ふふっ 昼間からお元気ですね。では、行きましょうか?」


「ああ、そうだな。よろしく頼むよ」


 そう言って、2人は同時に席を立つ。


(……いやーマジですまん。エーナス、ディオ。銀貨2枚も盗っちゃって。まあ、ちょっとやりすぎた俺が原因だから……ね。うん)


 そして、2人はどこかへと向かうのであった。

 その後、とある建物のとある部屋から、元気な――そして艶めかしい声が薄っすらと聞こえたとか、聞こえなかったとか。

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