第十二話 ディオ……何をしているんだ?

「ああ、ディオか」


「どうやら途中で別れたようですね」


シャリアと共に、エーナスたちの後を付けていたのだが、どうやら途中で二手に分かれてしまったようだ。

エーナスたちの方は残念ながら見失ってしまったが、ディオの方は見えている。


「取りあえず、こっちの後を付けてみるか」


「そうですね」


こうして俺たちは、ディオの尾行を始めるのであった。


「あー疲れたぜ疲れたぜ。にしてもシャリアさん、可愛かったなぁ……。リヒトが居なかったら、マジでお付き合いしてください!って言ってただろうなぁ~」


「……だってよ。シャリア」


「……好意的に捉えて頂けているようで、大変嬉しいです」


ディオのぼやきに、俺はシャリアへそう話を振った。

するとシャリアは、我慢せずといった様子で、淡々とそんな言葉を述べた。

ああ、これ別に嬉しいとかは思っていないやつだ。

ただ、かと言って不快に思っている訳でも無い……といった感じか。


「……にしてもどこ行くんだ? 結構大通りから外れてるぞ?」


「そうですね。ここら辺に店なんて、余りないですし……」


「この街に知り合いでも居るのかな?」


「でもそれでしたら、彼らの様子からして皆で行きそうですし……ああ、でもその可能性も十分ありますね。それでも、ここは少し……」


俺らは気配を消しながら、小声でそんな事を口にする。

大通りから多少外れるぐらいなら、まあ良くあることだ。

だが、ここまで外れるのは珍しい。

しかも、見たところここらの治安はあまり良くない。


「おい。金よこ――」


「せいっ!」


一般人から金を巻き上げようとしたゴロツキを見つけるや否や、即座にそいつの喉を手刀で撫でてやって、気絶させた。

やれやれ。こんなことが日常的に起きる場所にわざわざ入って、一体何をするつもりなんだ?

確かにディオはそれなりに戦える故、そんじゃそこいらのゴロツキには負けないが……数で来られたらキツいだろうし、普通にディオよりも強い人は居る。

そんな事を思っていると、ある場所でディオが立ち止まった。


「む?……その様子、客か。何の用だ?」


そんなディオの前に立つのは、筋肉質な用心棒みたいな男。

そんな男に対し、ディオはすまし顔で口を開く。


「遊びに連れてってくれ。逸脱者いっぺいを目指す者だ」


「……そうか。行け」


意味の分からない言葉を言ったディオ――すると、それを聞いていた男はそう言ってすっと横に逸れ、そこにある建物へと入ることを許した。

そして、ディオはそのまま中に入っていく。


「おい、シャリア。なんか……ヤバそうじゃないか?」


「今のは何かの合言葉……怪しいですね」


今のやり取りは流石に不審過ぎた事もあってか、俺の中にディオを怪しむ思いが少しずつ積もって行く。


「シャリア。これ以上はどうする?」


「……突入ですね。リヒトさん、いい感じにお願いします」


「了解」


シャリアの言葉にそう言って頷くと、俺は自らの血をバレないように散布する。


「んぁ? ……ん、ううん……」


すると暫くして、男が急に地面へと崩れ落ちた。


「奴の脳へ、睡眠を命じる信号を送らせた。暫くは起きないよ」


そう言って、俺は物陰から出る。


「そんな器用な事も出来るんですね」


「ああ。というか、人体系なら大体できる。自分の身体は、大体弄ってるから」


「確かに、そう言ってましたね」


感心するシャリアに、俺はなんてことなさげに事情を説明すると、男が守っていたドアに手を掛けた。


「シャリア。ここからは、細心の注意を払っていくぞ。バレたら面倒だからな」


「了解しました。気配を隠すのは、人並み程度には出来るので、問題ありません」


そうして、俺たちは先へと進む。

ふむ……誰も居ないな。

これはありがたい。

で、逆に人が居るのは……地下か。

下から小さな振動が伝わって来る。


「……行くよ」


「はい」


歩いていると、直ぐに見えて来た地下への階段。

それを俺たちは何の迷いも無く下った。

そして、その先に見えて来たのは――


「頼む! 頼む! 頼む!……よし! 勝ったあああ!!!!!」


「負けたかっ! だが、まだ金はある!」


「よし、よし、よし……」


賑やかに遊ぶ、幾人もの人の姿だった。

そしてその中には、ディオの姿も見える。


「……なあ、これは何?」


「……賭博ですね。それも、結構アウト寄りの」


「……マジ?」


シャリアの飛んでもない発言に、俺は思わず聞き返してしまった。

賭博?

賭博ってあの賭博だよな?


「はい。あちらでやっているのはブラックジャック、あちらはルーレットですね。リヒトさんだと……サイコロのは知っているかと思います」


「あー……確かに村の荒れてる奴らが、やってたな」


シャリアの簡潔で解りやすい説明に、俺はなるほどと頷いた。

つまりディオは、ここで賭博に励んでいるという訳だ。

しかも、結構ガチ目に。

で……だ。


「これ、違法賭博じゃ無いの?」


「いえ……ギリギリですね。見た感じ、ほんとに違法スレスレ、グレーゾーンを通っています」


「そうか……なら、大丈夫……か?」


違法ギリギリなのは引っかかるが、違法では無いのなら、口出しする訳にもいかない……と思う。


「全然大丈夫では無いですし、苦言は呈したいですが……彼、一応最低限の節度は守っているようですので、何も言わないでおきましょう。それに彼がどうなろうと、これでは普通に自業自得ですので」


「ドライだなぁ……」


まあ、それは確かにそうだと思いながら、俺たちは踵を返すと、違法ギリギリ賭博場から退散するのであった。

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