第十一話 シャリアが抱く恐怖
2日目も順調に馬車に揺られ、昼を過ぎた頃。
何も無かった道の先に、ようやく何かが見えて来た。
それは――
「城壁……街か」
テレンザよりも一回り程小さい、街を囲う城壁。
間違いない。
あそこが、今日泊まる街――スティキマだ。
「ふ~やっと息抜きが出来るぜ~」
「それな~。楽しみだ」
それを見て、ディオとトゥリスがそのような声を上げる。
随分と嬉しそうだな。
そんなに疲れていたのだろうか?
「ああ。まー楽しんで来い」
そして、そんな2人をどこか含みのある顔をしながら見ていたエーナスは、どこか投げ槍な感じでそう言うのであった。
その後、この馬車は門まで辿り着くと、すんなりと中へ通される。
「ふぅ。それでは皆さん。本日はここで解散にしましょう。集合は明日の朝9時に、南門でお願いします」
すると、御者席に乗るトラディスさんが、こちら側に振り返ると、そんな事を言った。
おお、ここで解散なのか。
「はい。ありがとうございました!」
「それはこちらが言う言葉ですよ、リヒトさん」
俺の言葉に、トラディスさんはそう言ってニコリと笑う。
うん。言われてみれば、マジでそうだな。
なんか、反射的に言ってしまった。
俺は内心そう思いつつ、皆と共に馬車から飛び降りると、去り行く馬車を見送るのであった。
「さてと。自由時間だぜぇ~……リヒト。酒飲むか?」
「いや、昼間から飲むのはちょっと……」
直後、俺の肩に手を回しながらそんな誘いをエーナスがしてきた。
それに対し、俺は昼間から酒を飲むのはあれかと思い、反射的にそう言って断った。
「そうか。ま、昼間から飲むのは堕ちた奴が9割って相場で決まっているからな。代わりに皆で夜飲もうぜ」
「……ああ、いいぞ」
エーナスの誘いに、俺はシャリアの方をチラリと見て、視線で「いいかな?」って聞いてから頷くのであった。
「で、あいつらは……あーもうどっか行ってる」
「ああ、言われてみれば……」
エーナスと話していたら、いつの間にかディオとトゥリスの2人が居なくなっていた。
「つったく。……それじゃ、夕方になったら冒険者ギルドに集合な!」
そう言って、エーナスはどこかへと走り去ってしまった。
「……ふぅ。まあ、どうする?」
去って行ったところで、俺はシャリアにそう問いかける。
すると、シャリアから予想外の言葉が返って来た。
「なんだか引っかかるんですよね……あの人たち。何かやましい事でもあるような雰囲気でしたよ、あれは」
「やましい事……?」
シャリアの言葉に、俺は思わず首を傾げる。
「はい。その手の口調や雰囲気には、既視感がありますので」
「ああ、なるほどね」
シャリアの言う既視感とは、恐らく元家族に関する事だろう。
あまり掘り返されたくない話だという事は流石に理解できるため、俺はそこについて詳しく言及しないように気を付けながら言葉を投げかけた。
「じゃあ……調べたい?」
「はい。怖い……ので。すみません。こんな、人間不信で……」
「いや、いいよ。仕方ないって」
申し訳なさそうに頭を下げて頷くシャリアに、俺は心底気にしていないと思わせる様な口調でそう言った。
実際、気にしては無いからね。
「まあ、もし勘違いだったら謝り倒しておくか。それで……どこ行ったか分かる?」
「はい。全て見ていましたので……あっちです!」
そう言って、シャリアは若干斜め右方向を指差した。
なるほど。そっちか。
「じゃあ、散歩がてら行こうか」
「はい。リヒトさん」
こうして俺たちは、シャリアが抱いた”引っかかり”の正体を見るべく、歩き出すのであった。
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