第十話 あ……すみません

 盗賊団を殲滅した俺は、それを機に見張りを交代して貰い、自分は寝る事にした……が、実は寝たふりだけして、ある程度は起きていた。

 同業者も信用するなってグーラに言われたのを思い出したんだよね。

 まあ、今まで害意を一切感じられない事から想像できる通り、全くもって問題なかったが。

 そうしてなんやかんやありつつも寝て、次の日の朝となる。


「……朝か」


 瞼越しに差し込む日の光で目を覚ました俺は、むくりと起き上がるとそう呟いた。


「おはようございます、リヒトさん」


 すると、最後の見張りを担当しているシャリアが俺を見て、挨拶をする。


「ああ、おはよう」


 その挨拶に応えると、俺はよっこらせと起き上がり、辺りを見回す。

 見たところ、ディオとトゥリスは寝起きといった感じで朝食を取っており、トラディスさんは何もかも準備が完了しているような、余裕のある雰囲気。

 そしてエーナスは、この中で唯一の完全熟睡であった。


「まあ、1番遅く無くて良かった」


 そう思いつつ、俺はシャリアと共に朝食を食べ始める。

 今日の朝食は、昨日の昼、夜と同じくパンと干し肉。

 3回連続同じ飯となると、少し飽きて来るな。

 だが、かといって他の保存食は味が悪い。

 そう思いながら、俺は文句は言わず、黙々と食べ続けた。


「……ふぅ。シャリア、水を頼む」


「分かりました。【魔力よ、水となれ】」


 食べ終えた所で、俺はシャリアにそう頼むと、木製のコップを差し出した。

 すると、シャリアが水属性魔法を用いて、水を入れてくれる。


「ああ、ありがとう」


「どういたしまして」


 そう言って俺はシャリアに礼を言うと、淹れて貰った水で喉を潤した。

 ふう。すっきりした。


「さてと。それじゃ、片付けるか」


「そうですね」


 そうして朝食を取った俺たちは、野営を畳み、出発の準備を始める。

 気付けばエーナスも起き、爆速で朝食を食べたようで、なんだかんだ俺たちよりも早く準備を終えて、こちらに歩み寄って来た。


「よお、おはようさん。昨晩はなんか異常あったか?」


「因みにこっちは、特に無かった」


「ああ。実に暇で、平和だったよ」


 エーナスの言葉に、ディオとトゥリスがそう言って同調する。

 ああ、そういや俺はあったな。盗賊の襲撃。

 もう過ぎた事だが、彼らが言うなら、こっちも言っておこうか。


「私も大丈夫でした……リヒトさんは?」


「ああ。俺は盗賊団が居たから、潰した」


 そう思い、俺はフェリスの後に続いてそう言った。

 直後、場の空気が一気に凍り付く。

 ん? 俺何かした?

 すると、エーナスが口を開く。


「えっと……詳しい話を聞いてもいいか?」


「ああ。森に……大体20人規模の盗賊団が潜んでいたから、先手を打って全滅させた……以上」


「異常だよ!」


 エーナスの問いに答えると、そんな声を上げられてしまった。

 ここでふとシャリアの方を見てみると、なんだか頭痛いとでも言いたげな顔をしている。

 すると、ディオとトゥリスが言葉を続けた。


「あのなー俺らを起こせよ! 普通にその規模は危ないだろって!」


「昨日言ったよな? 1人で突っ込むなって!」


 その瞬間、俺の頬を冷や汗が伝う。

 ヤバい。


「いや、起こしたら貴重な睡眠時間を邪魔しちゃうかなと思って……」


「ご親切にどうもありがとうございます! ただ、命の方が貴重! 永眠したら洒落にならん!」


 そして、エーナスから雷が落ちた。

 その後、俺は出発の時が来るまで、3人から説教されるのであった。


「うう、酷い目にあった……」


 あれから少し経ち。

 馬車に乗り込んだ俺は、そう言って息を吐いた。


「今回のは、普通にリヒトさんの自業自得ですからね? ……擁護できませんよ?」


「うん。だよね」


 容赦なくバッサリと切って来るシャリアに、俺は小さくなりながらこくりと頷く。


「まー……次やらなきゃいいよ。結果的には良かった訳だし」


「だねぇ……てか、それしれっと流してたけど普通に凄くね?」


「うん。盗賊団を1人で壊滅って……普通に強くないと無理だと思う」


 すると、3人が口々にそのような事を言って来る。


「まあ、色々と頑張ったからな。あれぐらいなら1人でもやれる」


「……その頑張った事に色々詰まりすぎなんですけどね」


 そんな彼らの言葉にそう答えると、横からそんなツッコミが飛んできた。

 まあ、確かにそうだな。

 本当に……色々やった。


「いやー羨ましいわ。俺も強くなりてぇなぁ……」


「努力するしか無いよ。一応俺らも、今のところは順調だし。……今のところは」


「やめろよ。Bランク辺りでほぼ全ての冒険者が頭打ちする現象」


 すると、3人揃って頭を抱えだしてしまった。

 ああ、聞いたことあるな。

 伸び悩み、新人いびりしだすような冒険者に前出会ったが、あれのもう一段上で伸び悩む冒険者の方が多く、恐らくそれが今3人が話題に上げた現象だろう。

 グーラたちもそれになってしまったと言っていたし、こう見ると本当に、成功者と呼ばれるAランク――そしてSランクになれる人は、冒険者の中でもほんの一握りだと思わされるな。

 だが、それでも――


「何があろうが、どれだけ掛かろうが――俺は必ずSランク冒険者になる」


「「「っ……」」」


 そんな俺の言葉に。

 3人は同時に息を呑むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る