第九話 夜襲は瞬殺

 食事を終えた俺たちは、見張りの順番を決める事となった。


「んー取りあえず、シャリアさんは負担少なめな、1番最後にしていいよ」


 睡眠時間が分割される2、3、4番目の人の方が、睡眠時間が分割されない1、5番目の人よりも負担が少ない。

 そんな彼らも欲しいであろう枠の1つをシャリアに譲ってくれるとは……優しいな。

 その時、妙にそれを言ったエーナスの頬が赤いように見えたような気がしたが……多分ワインのせいだろう。


「ありがとうございます。エーナスさん」


「あ、ああ。気にするなって」


 シャリアの心からの礼に、狼狽したように声を上げながらそう言うエーナス。

 すると、そんなエーナスに両脇からキツめの視線が突き刺さった。

 痛そうだ。


「さて。それで、残りはどうする? 俺はどこでもいい」


「あー……じゃあ、いいや。じゃんけんにするぞ。これなら恨みっこ無しだ」


 俺の問いに、エーナスはそう言って拳を掲げる。

 まあ、確かにそれが現状1番無難な決め方だな。

 そう思った俺は、その考えに賛同するとばかりに拳を掲げる。


「いいぜ。絶対負けないわ」


「俺にじゃんけんで勝とうなどとは、100年早い……ってな」


 続けてディオとトゥリスも、そう言って拳を掲げた。


「じゃ、やるぞ。じゃーんけーん――」


 そして、運命の見張りじゃんけんをする。

 その結果――


「俺が1番で、エーナスが2番。トゥリスが3番で、ディオが4番。そしてシャリアが5番……か」


「くそおおおお!!!!!」


 結果を告げる俺の言葉に、トゥリスがドサッと地面に崩れ落ちた。

 あれだけ自信満々な言葉を吐いていたのにも関わらず、結果は恐らく最も負担の大きい3番目。

 まあ、どんまいとしか言いようがない。

 別に俺が変わってもいいけど……そしたらエーナスとディオが不公平だって怒るだろうからね。

 恨みっこ無しだし、今回は甘んじて受け入れてもらうとしよう。


「じゃ、そうと決まれば早速寝るぞ」


「だな。少しでも睡眠時間を確保しとかんと」


「寝るぞ~寝るぞ~」


 すると、皆口々にそう言って、超スピードで寝始める。

 時間的にはまだ早いけど……見張りで起きる時間を考えれば、割と妥当だ。


「シャリアも寝な。俺が守るから」


「分かりました、リヒトさん。それでは、おやすみなさい……」


 そして、俺の横にいるシャリアも、そう言って薄手の毛布を被ると、すやすやと寝始める。


「さてと……暇だなぁ」


 見張り……やる事無いなぁ。

 いや、そもそも見張りという役割を全うしなくてはならないのだから、他の事に現を抜かしてはダメか。

 でも、ずっと周囲を見張り続けるのは、精神的に怠いんだよ……

 だが、やるしかない。

 そう思いながら、俺はただひたすらに見張りという役割を全うし始めるのであった。


「……ふぅ」


 見張りをする事、約1時間半。

 皆完全に寝静まったのか、小さな寝息と草木を風が揺らす音しか聞こえてこない。

 魔物も夜は、余り活発には活動しないからね。

 無論、むしろ夜に活動する魔物も居るから、全く油断は出来ないけど。


「……む?」


 そろそろ交代しようかなと思っていた矢先、俺は周囲に違和感を覚えた。

 なんだか……視線を感じる。

 人間の……害意のある視線だ。

 気配も、いくらか感じられる。

 幼少期からの境遇で、その手の感覚には鋭いからこそ、容易に気付くことの出来た俺は、それが盗賊であると即座に判断した。

 盗賊なら、やることは1つのみ。

 そう――殲滅だ。


「やろう。【魔力よ。我が身に纏え。強化せよ】」


 その後、即座に詠唱を紡いだ俺は、森の方へと向かって勢いよく飛び出した。


「くっ 気づかれたか!」


 すると、向こうは狼狽したように声を上げた。

 うん。言い方的にも、完全に盗賊だ。

 そう思いながら、俺は剣で自らの心臓付近の大動脈を斬り裂くと、再び詠唱する。


「【血よ、穿て】」


 刹那、俺の下から飛び出る無数の血槍。

 それらはうねる様にして森中を飛び交い、盗賊どもの腹を音も無く串刺しにしてく。


「……ああ。やっぱり殺す感覚は嫌だな……」


 人を殺す感覚――独特の嫌悪感。

 それを露わにしながらも、やるしか無いと気を引き締めて、俺は自ら斬りに行く。

 向かう先は、ギリギリ血槍の猛攻を防ぐ盗賊団の頭らしき大男。

 このまま血槍でやろうとすると、逃げられる可能性があるからな。


「くっ うおおおっ!!!」


 俺の接近に気が付いた盗賊の頭は、血槍で脇腹を掠られながらも、戦斧を振り上げた。そして地を蹴ると、俺目掛けて斬りかかる――が。


「その程度なら、受けるまでも無い」


 俺はそう言って、奴の戦斧を半身になって躱すと、すれ違いざまに剣を振るい、男の首を斬り落とした。


「よし。他に盗賊は……居ないか。全滅だな」


 他に居ないか気配を探ってみるも、皆血槍の餌食となり、既に息絶えていた。

 こうして寝込みを襲いに来た盗賊団は、あっという間に全滅するのであった。


「……【血よ、絡め取れ】」


 ここなら、下手に埋めるよりも魔物に食わせた方が処理としては適切だ。

 そう思った俺は、盗賊団の死体を血で絡め取ると、念のため森の奥の方に送った。

 そして後処理まで済ませた俺は、気分の悪さを覚えながらも血を戻すと、皆の下へと戻るのであった。

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