第七話 3人衆の戦い方

 ゴブリンの襲撃を退けた俺たちは、王都へ向かって進み続ける。

 だが、魔物の襲撃があの程度で終わることなど、早々無い。

 故に――


「お、また森からゴブリンだ。数は……8かな?」


「そうか。さっさとや……」


 エーナスの言葉に、俺は咄嗟に外へ出ようとしたが、寸での所で動きを止めた。

 危なかった……また同じミスをするところだったよ。

 だが、流石にミスしかけたのを隠しきるのは出来なかったようで、皆に苦笑いをされてしまった。

 ちょっと恥ずかしいな……


「ま、まあまあ。取りあえず、俺ら3人で倒してくるから、2人はここで依頼主を守っててくれ」


「頼んだよ」


「頼んだぞ~」


 そうして、彼らは次々に停車した馬車から飛び降りると、向かって来る魔物の方へと向かって行く。そして、丁度馬車と魔物の中間地点で止まると、迎え撃つような感じで構えた。

 その間、俺とシャリアも遅れて馬車から飛び降りると、トラディスさんを守れるような位置にスタンバイする。


「どんな戦い方をするのか、興味あるなぁ……」


「リヒトさんの場合、戦い方が特殊過ぎて、あまり参考にならないと思いますけどね」


「いや、剣術は割と参考になる」


 すると、何故かシャリアにジト目を向けられる。

 何だか、「自覚無いんですね……」とでも言いたげな感じだ。

 いやいや、俺の剣術はまだまだだし、Dランクなら、全然参考になると思う。

 そう思っていると、やがて向こうから戦闘音が響き出した。


「はっ! はっ!」


 最も前線に出ているエーナスが、手始めに剣を振るい、2匹のゴブリンの胸元を斬り裂くと、大きく後ろへ跳んだ。

 直後、ディオが予め準備していた《火炎弾フレア・バレット》が放たれ、ゴブリンたちを包み込む。

 これで2匹は仕留めた――だが、まだ全然残っている。


「グギャア!!!!」


 そう思っていると、晴れつつある爆炎の奥から、3匹のゴブリンが飛び出してきて、ディオへと襲い掛かった。


「はっ!」


 だが、すかさず短剣を構えたトゥリスが、横からスライディングをかます事で、いい感じに足止めをした。


「はあっ!」


 そして、動きが止まったゴブリンへエーナスが接近すると、一気に腹を掻っ捌く。


「【――彼方へ飛べ】!」


 その間、再び詠唱をしたディオは後方へ《火炎弾フレアバレット》を2発放ち、最後尾に居た3匹のゴブリンがこっちへ来れないように足止めをしていた。


「はっ! はあっ!」


「はっ!」


 その後、3匹のゴブリンを倒したエーナスとディオが、一気に残り3匹のゴブリンへ強襲すると、2人がかりで一気に殲滅し、とどめを刺した。

 他に魔物の気配は無し……これで一旦、終わりかな。


「中々いい連携だったな」


「そうですね。それなりに長い時間、一緒に居たのでしょう」


 そう言って、俺たちは頷き合う。

 連携の難しさというのは、身に染みて分かっているからな。

 俺たちもそれなりに上手くはやれるが、やればやるほど色々な欠点に気付く様になってきてしまって……ね。

 まあ、欠点に気付けるようになったというのは、良い兆候なのだろうけど。


「……それにしても、なんでもう少し前に出ないんだろう?」


 接近戦を仕掛けるエーナスとトゥリスの2人とゴブリンが斬り合う際の距離が、広すぎると感じた。

 もう少し縮めていれば、初撃で仕留められた筈だ。


「これは言った方がいいかな? ……いや、でもお節介かな?」


 人から口出しされるのが、嫌な人もそれなりに居る。

 だが、普通にこれは命が関係する事。

 どうしようかと、魔石を回収する彼らを尻目に悩んでいると、呆れて言葉も出ないとばかりに息を吐いたシャリアが口を開いた。


「それはリヒトさんだから、出来るんですよ。普通の人は、ギリギリまで距離を詰めません。リスクが高すぎるので」


「いや、治せば……あ」


 ここで、俺はようやく気付いた。

 ああ、そうだった。

 沢山使い過ぎて、もはや当たり前になってしまったが、普通の人は怪我を直ぐに直せないんだった。

 だから、怪我をするリスクを考えて行動する。


「……なるほど。これも、さっき参考にならないと言った理由か?」


「はい。本来戦闘とは、なるべくダメージを抑えながら、相手にダメージを与えるというものです。ダメージをいくら喰らっても構わないから、とにかく相手を倒せればいい……というのが根本にあるリヒトさんとは、何もかもが違います」


「だねぇ……」


 これでもダメージを喰らわないよう意識しているんだけどなと思いながらも、俺はシャリアの言葉に息を吐きながら頷いた。

 すると、やがて魔石の回収を終えた3人が、こっちへ戻って来る。


「ふ~てことで、やってきたぜ。ほれっ!」


 そう言って、エーナスは3個の魔石を俺目掛けて放り投げる。

 俺は、それらをささっと空中で掴み取ると、リュックサックの中に放り込んだ。


「じゃ、乗るか。……この調子だと、今日だけでも何回魔物に遭遇するんだろうな?」


「5回は遭遇するのではないでしょうか? まあ、ここは”魔の森”の最南端ですので、先へ行けば徐々に減少するかと思いますけど。ただ、代わりに盗賊が出て来る可能性が高くなります」


「うわぁ。それは面倒だ」


 シャリアの言葉に、俺は面倒くさそうに顔を歪めながらも納得すると、馬車へと乗り込んだ。

 そして、また先へと向かって進みだすのであった。

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