第六話 ちゃんと”護衛”をしようね

「行こう」


 その言葉にいち早く反応した俺は、素早く馬車から飛び降りると、剣を構える。

 うん……まだ少し距離はあるが、確実にこっちへ向かって来ているな。

 数は6。


「……やろうか【強化せよ】」


 そう言って、俺は地面を思い切り蹴った。

 そして、彼我の距離を一気に詰めると、すれ違いざまに一閃する。


「「グギャ!」」


「「ギャア!」」


 それだけで、両脇にそれぞれ2匹ずつ居たゴブリンが、醜い断末魔と同時に首を地面に落として死んだ。

 これで残るは2匹。


 ヒュン! ヒュン!


 刹那、俺の左右を掠める2本の氷槍。

 それは、正確に俺から5メートル程先に居たゴブリンの頭を穿ち、絶命させる。


「ナイスだ」


 そう言って、俺は後方で杖を構えるシャリアに、グッと親指を立てる。

 すると、シャリアはどこか呆れたようにため息を吐きつつも、俺に倣って小さく親指を立ててくれた。

 和むね。


「で、他に魔物は……居なさそうだな」


 その後、俺は念のため周囲を見回し、他にこっちへ来ている魔物が居ないかを確認してから、停車している馬車の方へと戻った。

 すると――


「おーい。リヒトさんや。急に飛び出さないでくれ」


「護衛なんだから、あんまり遠くへ行くなって」


「今回は良かったけど、流石に単独行動は危険だから、止めとけって。それにこっちも、急にお前に合わせるのは無理だからさ」


 3人から総バッシングを喰らった。

 酷い。

 ただ、割と正論なので、反論できない。


「……リヒトさん。自業自得です」


 挙句、シャリアにも見捨てられてしまった。

 泣きそうだ。


「……はい。すみません。初めての護衛依頼だったので、いつもの癖で、反射的に殺りに行ってしまいました」


 最終的に、俺はそう言って素直に謝罪した。


「まあ……うん。でも取りあえず、ゴブリン程度だったらリヒト1人でも余裕で何とかなるってのは分かった。ただ、こういう護衛は運が悪いと、連戦続きになって結構キツいから、なるべく消耗は避けるようにした方がいい」


 すると、どこか拍子抜けしたような感じになりながらも、いい感じ助言をしてくれるエーナス。


「そうそう。よくある依頼と違って、護衛依頼は退きたい時に退けないからな」


「初めてなら、まあしゃーないか。次から頑張れ」


 そこに、同調するように言い、頷くディオにトゥリス。

 なるほど。確かに、護衛依頼は退きたい時に退けないな。

 いや、退けない事は無いが、それ即ち依頼人を見捨てる事と同義だ。

 そんな残酷な事したくないし、すれば信用を失って、Sランク冒険者への道が遠のいてしまう。

 二重の意味で、退くという選択は出来ないな。

 まあ、俺なら基本的に大丈夫だと思う。

 怪我で撤退する事は基本無いし、戦闘能力も、この前Aランク冒険者上位クラスの実力を持つ犯罪者――エンデに勝てた事で、結構自身が持てたから。

 無論、俺が目指しているのはSランク冒険者――故に慢心は一切していない。


「話が終わったようですね。リヒトさん。先ほどの動き、見事でしたよ。グーラさんからある程度話は聞いておりましたが、大変努力されたのですね」


 すると、御者台から降りていたトラディスさんが、そう言って笑みを浮かべてくれた。


「ありがとうございます」


 そう褒められると、こちらも自然と笑みが零れて来る。

 俺はそう言って、思わず頭を下げた。

 それにしても、グーラ……俺に鍛錬を付けた事、トラディスさんに言ってたんだな。

 依頼を受けた事以外、特に接点が無いと思っていたから……少し驚いたな。

 そんな事を思いつつも、俺はシャリアと共に馬車へ乗り込んだ。

 魔石の回収を忘れていたのだが、エーナスたちが「そっちは俺らがやるから」と言って、ささっと回収してくれた。

 先ほどの忠告と言い、同じDランクでも、冒険者としての経験値は、向こうの方がずっと上だな。


「よっと。ほれ、2個はこっちが貰っとくぜ」


 すると、魔石の回収を終えたエーナスが、馬車に乗り込むとそう言って、俺に魔石を4つ放り投げた。


「ああ、分かった」


 俺はそれらを、片手で2つずつ、指で挟むようにして受け取ると、シャリアが持つ空間拡張機能が付いたリュックサックの中に入れる。

 その後、全員乗り込んだことを確認したトラディスさんが、再び馬車を前方へと向かって走らせるのであった。


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