第五話 馬車の護衛

「おーこれじゃね? すみませーん! あなたがトラディスさんですか?」


 トラディスさんとの話にひと段落が付き、馬車横でシャリアとのんびりとした雑談に花を咲かせていると、そんな声が耳に飛び込んできた。


「他の護衛かな?」


「そのようですね」


 互いにそう言って、声が聞こえて来た方に目線を向けてみれば、そこにはシャリアと同じぐらいの歳――16、7歳程度に見える、若い3人組の男性冒険者が居た。


「ええ、そうです。貴方たちは、Dランク冒険者のエーナスさん、ディオさん、トゥリスさんですか?」


「ああ、そうですそうです」


 そして、トラディスさんと名前の確認をし合う。

 どうやらあの3人が、俺たちの他に雇われた護衛と見て、間違いないようだ。


「はい。それでは、全員集まりましたので、皆さん馬車に乗ってください。早速、出発しましょう」


 そう言って、トラディスさんは馬2頭が引く、以前の物より大きな馬車に乗るよう促す。


「お、あの子めっちゃ可愛くね?」


「それな」


「ちょっと話せねぇかな?」


 彼らの所から、小声で紡がれたのであろう言葉が、俺の耳に飛び込んでくる。

 可愛いのは同意するが、あまり変な目では見ないで欲しいな。

 シャリア、そう言うのは本当に好まないからさ。


「……大丈夫です、リヒトさん。ただ、度が過ぎるようでしたら、遠慮なく潰してください。細かい事は、私が何とかしますので」


 すると、俺の内心を読んだのか、シャリアが小声でそのような言葉を口にした。


「ああ、分かった」


 度が過ぎるのであれば、それ相応の制裁は大事。しなければ、基本的に人は付け上がる。

 それを、冒険者生活で身に染みて理解している俺は、一切の迷いも無く頷いた。

 その後、馬車の荷台へと乗り込んだ俺は、荷台の半分程を埋めている鍵付きの木箱を一瞥すると、馬車の隅にシャリアと隣り合わせで軽く胡坐を掻く感じで座った。

 その後、続けて他3人の冒険者が乗り込んできて、こっちとは反対側の壁に背を付けるように座り込む。

 こうしてみると、案外狭いな。動くスペースがほとんど無い。

 ただまあ、馬車の護衛は基本的に馬車に沿って歩く方が主流なので、それに比べたら楽だからいいか。


 ガタガタガタ――


 すると、やがて馬車がガタガタと音を立てながら、進み始めた。

 既に荷物検査は済ませているのか、門で大した足止めを喰らう事も無く、無事にテレンザの外へと出た馬車は、草原と森に挟まれた道をそこそこの速度で進んで行く。


「……な、なあ。俺はエーナス。これから10日間、よろしくな!」


 馬車の中、魔物が来なけりゃ基本暇だし、何をしようかと思った矢先、前に居る茶髪の男――エーナスが、意を決したかのような表情をすると、元気よくそう言う。


「ああ、俺はディオな」


「俺はトゥリス」


 そして、そんなエーナスに続くようにして、他2人――赤髪のディオと紫髪のトゥリスも己の名前を口にする。

 こういう時、自分から話し掛けるのは苦手な俺だが……相手が先に話してくれれば、流石に話せる。


「俺の名前はリヒトだ。10日間よろしく」


「私の名前はシャリアです。10日間、よろしくお願いいたします」


 なるべく優しげな口調を心掛けながら、俺は自己紹介をした。すると、続けてシャリアも丁寧な自己紹介をする。相も変わらず、めちゃくちゃ距離感を感じる話し方だが。

 だが、向こうは特に気にはならなかったようで、どこか安心したかのように息を吐くと、口を開いた。


「ああ、それで俺たちは全員Dランクの冒険者だ。俺が剣で、ディオが火属性魔法師、トゥリスが短剣って感じ。そっちはどんな感じだ?」


「俺は普通に剣士で、シャリアは水と氷の魔法師。ランクは同じくDだ」


 戦い方とランクは、最初に共有しておいた方が確かに良い。

 そう納得した俺は、相手に倣って、俺とシャリアの主な戦い方とランクを教える。

 すると、エーナスの目が若干ながら見開かれた。


「へえ、Dランクだったんだ。なんかこう、圧的にもう少し上かと思ってた」


「圧とは……」


 そんな圧のある人間じゃ無いぞと、思わず頬を引き攣らせながら思う俺。

 すると、ずっと話をエーナスに任せ、黙っていたディオが口を開く。


「なあなあ。ちょっと気になるのだが、お前とシャリアさんって、付き合……いえ、なんでもないです」


 前屈みになり、小声で話を始めるディオ――だが、シャリアの方に視線を向けた途端、急に敬語になって縮こまる。

 何を言いかけたんだ?

 何があったんだ?

 まあ、なんでも無いなら、これ以上追及するのは止そう。


「おーい。あと、ここから馬車の外を監視する順番を決めるぞ」


 すると、一通り話が終わった所で、あれからずっと馬車の外を見ていたトゥリスがそんな言葉を口にした。

 ああ、確かにそれは必要だな。

 荷台をすっぽりと覆うように、雨よけの屋根があるタイプの馬車だが、小窓がちゃんとある為、この中に居ても普通に外の様子は見える。だから、そこから外を監視して、魔物や盗賊が居るかどうかを見張る必要があるのだが……全員で外を監視し続けるのは、効率が悪い。それよりも、交代制の方が集中力が続くから良い……という訳だ。


「監視は……まあ、俺ら3人がやるのと、そっち2人がやるのを交互に繰り返すという感じでいいかな? 交代のタイミングは勘でやるけど、こっちの方が人数多いから、俺らは少し多めにやるよ。それでいい?」


「ああ、俺はそれで構わない……シャリアは?」


「はい。私も、それで構いません」


「おけおけ。それじゃ、先に俺らがやるから、そっちは休憩してていいよ」


 そう言って、彼らは馬車の外の監視を始めた。

 すると、程なくして――


「あ、森から何匹がゴブリンが出て来た」


 そんな声が、聞こえてくるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る