第四話 トラディスさんとの再会
次の日は、王都へ向かう前日という事もあってか、”魔の森”へは行かず、1日休息を取った。
美味い飯を食べたり、グーラたちに別れを告げたり、荷物の最終確認をしたりと、久々に戦いが一切無い1日を過ごした。
そして今日。
基本的に朝が早めな俺たちは、普段と変わらない時間帯に2人で朝食を食べていた。
「今日出発かぁ……どういう日程で行くんだろ?」
宿の食堂で、朝食のパンを食べながら、俺はそんな疑問を零した。
すると、その疑問にシャリアが答える。
「王都までは、基本的に10日かかります。野営は1、3、7日目の夜。それ以外は、街で泊まる事になるでしょう。道中は、そこまで強い魔物は現れず、強くてもCランク程ですので、護衛対象が居るとは言え、特に問題は無いでしょう」
「流石だな……ありがとう」
すらすらと分かりやすい説明をしてくれるシャリアに、俺は感心したようにそう言葉を漏らすと、礼を言った。
シャリアは元伯爵子女という事もあってか、一点特化の俺とは違い、有用な知識を幅広く持っている。
戦闘能力も含め、本当に頼りになるな。
「んー……それで、王都に行ったらやっぱダンジョンだな」
「そうですね。”魔の森”とはまた違った魔物が出ますし、何より上振れした時の稼ぎがとても大きいです」
俺の言葉に、シャリアはそう言って微笑した。
そう――これから向かう、ヒラステ王国の中心とも言える場所――王都イリオンには、かの有名なダンジョンがある。
ダンジョンとは、複雑奇怪に地下に広がった巨大遺跡の事で、同時にそこは魔物の巣窟になっている。
これはこの国問わず、世界中のあちこちに存在しているが――何故あるのか、いつからあるのかは今だ解明されていない。ただ、その内部の構造から、幻とされている古代文明の遺跡であるという説が、最も有力な説となっている。
「ああ。いい感じの宝を手に入れられれば、それだけで1000万稼げるかもしれないしな」
そう。ただ魔物の巣窟というだけなら、種類が豊富で撤退も簡単な”魔の森”の方が圧倒的に良い。
だが、ダンジョンには”宝”が隠されているのだ。
どういう原理かは分からないが、ダンジョン内には至る所に宝箱が設置されており、その中には宝石や短剣、金塊など、多種多様な物が入っている。
しかもそれらは、取ると宝箱がダンジョンに取り込まれるようにして消え――そして、気づけばまたどこかに現れるというのから、マジで驚きだ。
謎過ぎて、不気味だという人も一定数居るが、俺は別に何とも思わない。
だって、それについては考えてもどうしようも無いし、謎だろうが無かろうか、命の取り合いをする危険な場所である事に、変わりは無い訳だし。
そんな感じで、王都イリオンについて色々と考えつつ、シャリアと話をしていたら、もう集合の時間が迫っていた。
「さて、そろそろ行くか」
「そうですね。行きましょう」
宿の時計で時間を確認した俺たちは、そのまま宿を後にすると、集合場所である南門へと向かって歩き出した。
そうして南門へと向かって歩く事、十数分後。
俺たちは、南門の前に辿り着いた。
「さて、トラディスさんは……あ、居た居た。あっちだ」
「分かりました」
周囲を見回し、やがて依頼主であるトラディスさんを見つけた俺は、シャリアと共にそこへと向かう。
「トラディスさん、こんにちは」
そして、早速声を掛けた。
すると、俺の事に気付いたトラディスさんが、口を開く。
「おお。リヒトという名前を聞き、もしやとは思っていましたが……まさか、本当に貴方だったとは。短い間に、大変成長されましたね」
そう言って、トラディスさんは子の成長を喜ぶ親の様に笑う。
「はい。少し前に、Dランク冒険者になりました。あ、彼女が俺のパーティメンバーです」
そんなトラディスさんに対し、俺はそう言うと、シャリアの紹介をした。
すると、その場でシャリアは頭を下げ、口を開く。
「ご紹介にあずかりました。Dランク冒険者のシャリアと申します。これから10日間、よろしくお願いいたします」
そう言って、シャリアは軽く会釈する。
ただ……やはりシャリアの性分というか、生い立ちのせいか、どうしてもそこに警戒心が宿ってしまっているのが見て取れる。上手く隠しているが、流石に1か月一緒に居れば、俺との対応の差から、分かってしまうんだ。
「ご丁寧に、ありがとうございます。リヒトさんとは、
だが、トラディスさんは気づいていないのか、はたまた気にしていないだけなのか、変わらず丁寧な物腰でそんな言葉を口にした。
すると、一瞬シャリアの身体がピクリと震える。
「っ!……はい。リヒトさんには、いつも助けられてばかりです。ですので、私は私にしか出来ない事で、リヒトさんを助けられるよう、頑張っております」
だが、なんてことない様にそんな言葉を口にして、話を締めた。
今、シャリアの頬が赤く染まったように見えたのだが……まあ、恥ずかしく思うような場面でも無かったし、気のせいか。
そう思い、俺はその思考を宇宙の彼方へとペイッするのであった。
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