第三話 上達しつつある動き
「ふぅ……それじゃ、魔石……っと」
その後、俺は即座に《
「じゃ、纏めて入れるか」
「はい、どうぞ」
俺はポケットに入れていたゴブリンの魔石も合わせて、血の手で絡め取ると、シャリアが背負っている、ついさっき買った空間拡張機能付きのリュックサックの中に放り込んだ。
うん。楽も出来て、鍛錬にもなる。
こういう一石二鳥な事が出来ると、なんだか得した気分になって来るな。
「さてと。それじゃあ……む?」
「これは……」
もう少し鍛練兼金稼ぎをしてから帰ろうと思った矢先、突如として森が騒がしくなった。
ざわざわと木々が揺らめき、だが周囲はまるで死んだように静かだった。
ああ、これは……また、あれだな。
「来るぞ、オリジントレントだ」
「はい。分かりました」
グーラたちと一緒に居る時に遭遇した、”魔の森”の主、オリジントレント――その根。
あの日以降も、俺とシャリアは数回出会っており、しぶといなと思いつつも、全て撃退している。
ズザザザザザ――
すると案の定、10メートル程先の地面から、いくつもの木の根が飛び出て来た。
「……ざっと30本といった所か。少し多いな」
”
本体では無い以上、あの数で来られるとより一層しぶとくて、厄介に思えて来るが……しぶとさなら、俺も負けてはいない。
ザザザザ――
「はあっ!」
俺は勢いよく向かってきた5本の根を、半身になって躱すと、素早く剣を振るって斬り刻む。
「【――激流よ、渦巻け】【凍てつけ、永劫に】」
直後、後方に居るシャリアが渦巻く激流を砲撃の様に放ち、いくつもの根を絡め取ると、そのまま一気に凍らせる事で破壊する。
やはり、植物という事もあってか、凍らされるのには弱いっぽいな。
そんな事を思いながら、俺はそんなシャリアの攻撃に合わせるようにして一気に距離を詰めると、5本の根を根本から切断する。
グサッ!
直後、俺の腕を貫き、切断する1本の根。
「よし。【血よ、斬り刻め】
だが、これはあえてやった事。
直後、傷口から大量の血が流れ出たかと思えば、無数の刃となって根を細切れにしていく。
「普段ならこれで終わるのだが……数が多いから無理か」
流石に30本をこれだけで捌ききるのは不可能だったようで、血の刃で傷を付けられながらも、他の根が盾になった事で、そこまで傷ついていない5本が俺へ、5本がシャリアの方へ伸びて行った。
「はああああっ!」
それに対し、俺はすかさず体勢を立て直すと、剣を右下から左上目掛けて振り上げ、根を真ん中部分から纏めて斬り落とした。
こんな風に、俺は全く問題ない。
だが、シャリアの方は……いや、こっちももう、大丈夫だ。
「【氷の障壁よ、我が身を守れ】!」
冷静に短縮詠唱を行い、発動させる分厚い氷の壁。
それによって、根は尽く防がれてしまった。
しかも、氷の壁に突き刺さってしまっている事により、ものの数秒とは言え、5本の根は一切動けない状況となる。
そして、その状況を見逃す程、俺は甘くない。
「はああっ!!!」
俺は素早く根元へと向かうと、それらの根を根本から断ち切った。
すると、まるで限界を迎えたかのように、ボロボロと崩れ落ちていく根。
原型をとどめている根も、それに伴いシュルシュルと地面へ帰って行く。
「ふぅ……終わったぽいな」
あの不気味な雰囲気が完全に消え去った事を確認した俺は、小さく息を吐くとそう言って、シャリアの下へ駆けよる。
「はい。少し多かったですが、案外何とかなりましたね。【砕き、放て】」
そう言って、シャリアは展開した氷の壁を礫サイズになるまで砕いた。
そして、明後日の方向へそれらをぶっ放す。すると、森の奥の方から、「グエエエ!?」と、魔物の悲鳴が聞こえて来た。
「おー……今の、芸術点が高い気がする」
「芸術点って……まあ、何となく言いたい事は分かりますが」
俺の感心の言葉に、シャリアは呆れたように息を吐くのであった。
その後も、俺とシャリアは引き続き夕日が見えるまで、”魔の森”で魔物を殺し続けた。
そして、午後4時半を過ぎた頃、俺たちは無事テレンザに帰還すると、手にした魔石を換金すべく、冒険者ギルドへと向かう。
「おー混んでるなぁ……」
「まあ、並ぶしかないですよ」
「だよなぁ……。まあ、いつもの事か」
冒険者ギルドに入ると、そこは俺たちと同様に依頼を終えて帰って来た冒険者で溢れていた。当然、受付にも相応の人数が並んでいる。
俺はその光景にため息を吐きつつも、シャリアと共に並んだ。
そして、30分程で順番が回って来ると、受付の上にドカッと魔石を置き、査定するよう頼む。
「……はい。それでは、報酬金は5万4000セルになります」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
昼と、1000セルしか金額変わらないなぁと思いながら、俺はその金を受け取ると、足早に受付を去った。そして、今度は宿へと向かって、歩き出すのであった。
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