第二話 王都へ行く為の護衛依頼

「あー凄い買い物したなぁ……」


「そうですね。私も、ここまでの買い物をした事は……10回ほどありますね」


「10回もあるんだ」


 合計690万セルという大金を、10回は払った事があると言うシャリアに、俺は思わず目を見開きながらそう言った。

 元伯爵家の長女とは言え、それほどの大金をそんなに払った事あるんだ……

 何か、凄い。

 何か……凄い。

 そんな感じで語彙力が崩壊していると、シャリアが話題を本筋に戻してくれた。


「一先ずこれで、物資は揃いましたね。保存食は、少しでも持たせる為に出発日に買うとして……後は、王都へ行く馬車の護衛依頼が無いか、探しましょう」


「ああ、そうだな。金も貰えるし、ランクアップの礎にもなるし、王都にも行けるで一石三鳥だ」


「守り切る自身がある人に、限りますけどね」


「違いない」


 そうして、俺たちはまたもや冒険者ギルドへと向かうのであった。

 ……これだったら装備品店に行く前に、依頼を受けておいた方が距離的に効率的だったという邪念は、ペイッとしておく。


「さてと。それで、Dランクで受けれて尚且つ、丁度いい護衛依頼は無いかな……?」


「そうですね……いくつかありますが……どれにしましょう?」


 冒険者ギルドに戻った俺たちは、依頼票が貼り付けられた掲示板を眺めながら、どの依頼にしようかと頭を捻らせていた。

 んー……どれにするか。

 こういうのは商会や個人が依頼を出している関係上、報酬や日程がそれぞれ異なる。

 そして、ものによっては無茶だと言いたくなるようなものが、普通に含まれているし、酷いものでは途中でバックレられる事もあるのだ。

 今回は、王都へ行く事が目的なので、報酬よりも信頼できるかどうかが重要だな。

 すると、俺の目にある依頼が目に入る。


「これは……トラディスさんのか」


 なんと、その中にトラディスさんが出している依頼があったのだ。

 報酬は標準。日時は明後日の午前9時。ランクはD以上。人数は4~6人で、現在3人埋まっている。


「知り合いなのですか?」


「ああ。俺の村へ偶に来ていた行商人で、俺がテレンザに来た時も、この人の馬車に乗せて貰ったんだよ」


 こてんと小首を傾げるシャリアに、俺は事情を詳しく話す。


「そうだったんですか。でしたら、信用できそうですし、それにしましょう」


「ああ、そうだな。知っている人の方が、話しやすいし」


 シャリアの言葉に、俺はそう言って頷くと、その依頼票を手に取った。

 その後、受付へ行ってササッと依頼を受けた俺たちは、足早に冒険者ギルドを後にするのであった。


「さてと。護衛依頼も受けたし、今日は……何する?」


 やる事を終え、暇になったなと感じた俺は、シャリアにそう問いを投げかけた。


「そうですね……まあ、無難に森へ行って、少しでも金を稼ぐとしましょう。それで明日は、普通に休暇です」


「なるほど。そうするか」


 シャリアの言葉に、俺はいい考えだと思いながら頷くと、早速”魔の森”へと足を運んだ。

 そして、それなりに深い所までは急ぎめに向かう。


「グギャア!!!」


「【血よ、穿て。絡め取れ】」


 道中、ゴブリン等の魔物が襲い掛かって来たが、そこは俺が《血殺武具ブラッド・ウェポン》を用いて右胸を穿ち、魔石を強引に絡め取る事で殺した。

 1か月前、《血殺武具ブラッド・ウェポン》を用いた全力戦闘をした事もあってか、練度が目に見えて上がった気がする。

 相変わらず、細かい動きや速度出すのは難しいが、それでも昔と比べれば大分良くなった。現に、ゴブリン相手とは言え魔石を絡め取るという複雑な動作が出来ているのがその証拠だ。


「……シャリア。そろそろだな」


 暫く走り、今のレベルに合った場所まで来たところで、俺はシャリアにそう言った。


「分かりました……あ、来ます!」


「了解っ!」


 俺は短くそう言うと、地を蹴り単身剣を構えて突撃した。


「「「グフォオオオ!!!」」」


 直後、森から姿を現す、3体の牛頭人型のCランクの魔物――ミノタウロス。


「はあっ!」


 出て来た瞬間、俺は肉薄すると剣を横なぎに振るい、1体の脇腹を深々と斬り裂く。

 刹那、右横から振り下ろされるこん棒。


「ふっ!」


 それを感知した俺は、冷静に身を後ろへ引くことで、躱して見せた。

 それにより、こん棒は俺の眼前で空を斬る。


 ヒュン!


 直後、攻撃直後の隙を突くようにして放たれたシャリアの《氷槍アイスランス》が、ミノタウロスの頭部を完全に破壊した。


「グフォオオオ!!!」


 すると、唯一無傷のミノタウロスが、身を引いた俺目掛けて左横からこん棒を振るう。

 それに対し、俺はすかさず剣を構え直すと――


 キン!


 防ぐ――のでは無く、受け流して見せた。

 その後、俺はその勢いを利用して即座に体勢を立て直すと、そのミノタウロスの首目掛けて剣を振り上げる。


 ザン!


 それは、容赦なくミノタウロスの首を胴を泣き別れにさせた。

 これで、残るは脇腹を斬り裂かれ、大きく力を削がれているミノタウロス1体のみ。


 ヒュン! ヒュン!


「グ、フォ……」


 ミノタウロスは、何とかこん棒を振り上げようとするも、それよりも先にシャリアからの追撃を頭部に受け、地に沈むのであった。

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