第二章
第一話 テレンザを発つ準備
エリス教国某所にて。
「おい、ターフォス。教祖アロネス様から任務の命だ」
「ええ……少し待ってよ。今、手入れしているんだから」
ここは、とある墓地。
そこで、神官服を纏う初老の男、”欺罔の使徒”――ファラシーが、墓の手入れをしている若い男の背後に立つと、そう声を掛ける。
だが、その男――ターフォスは、そう言って手を止めなかった。
そんなターフォスに、ファラシーは呆れたように息を吐くと、口を開く。
「なら、そのまま聞け。日時はまだ未定だが、ヒラステ王国の王都を混乱に陥れろとのお達しだ。その隙に、目的の物は私が回収する」
「なるほど。確かに俺なら適任だ……皆。また、力を貸してもらうよ」
ファラシーの言葉に、ターフォスはそう言って、墓石を愛しそうに撫でる。
「ふん。死者を尊びながら、その骸を冒涜する貴様の気が知れぬ」
そんなターフォスを見て、ファラシーはそう吐き捨てた。
すると、ターフォスはくるりと後ろを振り返る。
そして、長めの銀髪をたなびかせながら、その蒼の瞳でファラシーを射抜くと、言葉を紡いだ。
「俺が丹精込めて作った墓に入れられて、皆幸せなんだ。俺はそんな彼らに、任務を手伝って貰っているだけだよ。彼らは皆、生者たる俺たちと変わらない。正当な取引だ。ほら、俺が快適で特別な家を無償で提供し、その対価として偶に働いてもらう……と言えば分かるかな?」
「……ふん。精々、エンデみたいに失敗しない事だな」
「勿論だ。彼らの帰る場所を守る義務が、俺にはあるんだから」
そう言って、ターフォスはすくりと立ち上がった。
そして、眼前に広がる広大な墓地を前に、両手を大仰に広げると――
「”墓守の使徒”――ターフォスの名において!」
そう、言うのであった。
◇ ◇ ◇
「こちらが、報酬金5万5000セルになります。それでは、お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
冒険者を始めてから、2か月が経過した頃。
俺たちは普段の様に依頼を終え、報酬金を受け取ると、受付を後にした。
”救世教団”のエンデと激闘を繰り広げてから1か月程が経過したが、あれから特に劇的な変化は無い。時期尚早過ぎるという理由で、話し合いの結果、あの件を解決したのは領主側だけだという事になっているからだ。
まあ、強いて言うなら、互いにEからDランクへランクアップした事だが……ここまでなら、ぶっちゃけ大体の人がそこまで時間を掛けずに到達できる為、特に驚きは無い。
問題は、この次であるCランクだ。
「Cランクになるには、やっぱり魔物と薬草採取だけじゃ駄目か……」
「詳しい基準が分からないので、何とも言えませんが……恐らく、出来なくは無さそうですが、効率は良くないかと」
「だよねぇ」
歩きながら、俺はシャリアの言葉を聞くと、息を吐いた。
冒険者に求められるものと言われれば、1番に来るのは当然強さだ。
ただ、強さだけ……という訳でも無く、高ランクになるにつれて、色々と求められるものは多くなっていく。
まあ、大体は自然と身についていくものだから、特に気にする必要は無さそうだけどね。
「じゃあ、丁度いい機会だし、そろそろテレンザから出るか」
「そうですね。私も、そう思ってました」
俺の言葉に、シャリアはニコリと笑うと頷いた。
俺の目標は当然、Sランク冒険者になる事。
だが、その過程で色々な場所へ、冒険者らしく冒険してみたいとも思っているのだ。
「よし。そうと決まれば、早速準備しようか」
「そうですね。時は金なりと言いますし。では、行きましょう」
こうして、即断即決でテレンザから出る事を決めた俺たちは、その為の準備をするべく、動き出すのであった。
「まずは、道具を揃えましょう。金ならこの前の件で沢山手に入りましたし」
そう言って、最初に入るのは冒険者御用達の、ややお高めな装備品店。
初期の頃は絶対に手が届かない代物しか無いが、色々あって地味にお金持ちとなった今なら話は別。
沢山使うのは、少し勿体ないと僅かながらも思えてしまうが、装備をケチって死んだ冒険者は山ほど居るので、嫌でもケチれない。
「えっと……ああ、ありました。これですこれ。前々から、目を付けていたのですが、やはり高くて……」
「これは……ああ、空間拡張機能付きのリュックサックか」
店内の、ひと際高級品が置かれているコーナーにあったのは、ぱっと見普通のリュック。だが、実は空間拡張機能が付けられており、これの場合は……本来の4倍入るといったところか。
だが、その分お値段が680万セルと、めちゃくちゃ高い。
今の俺では、買うという選択肢にすら入らない代物だ。
「本当は1か月前に買おうかと思っていたのですが……もう少し実力をつけてから買わないと、盗難が怖いですからね。一応、こういった品には大体、盗難防止の持ち主登録機能が付いているのですが、それでも……ですね」
「だな。こんな高い物を盗まれたら、ショックで数日寝込みそうだ」
シャリアの言葉に、俺はそう言って同意を示す。
その後、俺たちはそれ以外にも野営の為の革シートや苦無等の装備品を買った後、店を後にした。
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てことで、第二章開幕です!
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