第四十七話 シャリアの隠し事
「はい。実は私、現ガーランド伯爵家当主の元長女なのです。今まで隠していて、すみません」
「……ああ、なるほど。そうだったのか……」
意を決したように紡がれるシャリアの告白に、俺はどこかストンと腑に落ちたような気がした。
確かにシャリアの所作は、平民にしては逸脱しており、初対面の時点で既に育ちの良い人かな……と思っていた。まあ、それでも流石に貴族なのは想定外だったけど。
でも、”元”長女……という事は、もしかして――
「はい。もう分かるかもしれませんが、私は婚約破棄等の様々な要因が重なった事で、当主の命により勘当されてしまいました。ですので、今の私はリヒトさんと同じ平民です」
「……そうか」
ああ、やはりそうだったのか。
それは、本当に不憫としか言えないな。シャリアの事だし、きっとシャリアが何か悪い事をして勘当された……という訳では無いのだろう。
「シャリアの名誉の為にも言うが、その件についてシャリアにこれといった落ち度はない。シャリアはただ、家族ほぼ全員に嵌められてしまったのだ」
すると、レリック侯爵が補足説明をしてくれた。
やはり、シャリアは悪くなかったのか。
それにしても、家族ほぼ全員に嵌められてしまうなんて……流石に酷すぎる。
俺は目尻を下げながら、心底同情した。
「はい。確かに嵌められ、勘当されてしまった事は悲しいですが……もう過ぎた事ですし、今の生活が好きなので、もう実家に未練はありません。ですが、私とリヒトさんが冒険者として活動し、いずれ高ランク冒険者に至った時、このままでは何かしらの干渉をされる可能性が高いです。私を嵌めた根本的な理由が、気に喰わないから……なので」
「なるほど……確かにそれは、予め手を打っておいた方がいいな」
シャリアの言葉を聞き、俺はそう言って納得したように頷いた。
確か、シャリアの実家は伯爵家らしいし、それよりも上の侯爵家――それも当主であるレリック侯爵に守って貰えば、何とかなる……という訳か。
「ああ。テレンザを守ってくれた以上、私にはシャリア――そしてリヒトを守る大義名分がある。それに、ガーランド伯爵家には不穏な噂もあると耳にするし、これを機に改めて調べてみるとしよう。私は、不正が本当に嫌いなのだ」
「ありがとうございます」
レリック侯爵の言葉に、シャリアはそう言って頭を下げた。
そこに、俺も釣られるようにして頭を下げるのであった。
その後はいくらかの雑談や、後ろ盾に関する細かい取り決めをした後、屋敷を後にするのであった。
「はー……最初は緊張したけど、慣れたら多少はマシになったな」
「そうですね。リヒトさん、最初はものすごく緊張してて、見ていてなんだかひやひやしましたよ」
大通りを歩きながら、俺とシャリアはのんびりと雑談に花を咲かせる。
「それにしても、シャリアってマジで元貴族様だったのか。腑には落ちたが、普通に驚いた」
「まあ、今思えばあまり隠せていませんでしたからね」
「だな。初対面の時から、”あ、なんか普通の平民じゃなさそう”……って思った」
「あの時、そのような事を思っていたんですね……」
「まあ、ね」
そう言って、俺たちは互いに薄く微笑み合う。
シャリアも会ったばかりの頃は、凄く警戒心が高かったのだが……今ではここまで仲が良くなった。
今思うと、シャリアは家族ほぼ全員に嵌められ、勘当されたという過去があったからこそ、あそこまで警戒心していたのだろう。
「……それで、色々あったけど、取りあえず今日は何する?」
「そうですね……今日はのんびりしましょう。褒賞金を沢山貰ったので、少しばかり食事も豪華に出来ますよ?」
「お、いいね。楽しみだ」
そうして、俺たちは街の散策を続けるのであった。
◇ ◇ ◇
ヒラステ王国の隣国、エリス教国某所にて。
薄暗いその部屋には、大きな円卓があり、そこを囲うように5人の人間が座っている。
「教祖アロネス様からのご報告だ。”終焉の使徒”――エンデがテレンザで龍脈石回収の任務中に殺害された。構成員も例外なく、な」
その中の1人――銀髪翠眼の白い法衣を纏う神官のような初老の男――”欺罔の使徒”、ファラシーが、厳かにそのような報告をした。
「そうか。万全の用意をし、更に教祖アロネス様から《
「死した者を侮辱するな。例え死体が無くても、エンデは墓守であるこの俺が、丁重に弔ってあげよう」
そんなエンデに対し、侮辱する者もいれば、悼む者。無言を貫く者など、その反応は三者三様であった。
だが、全員が唯一共通している思い――それは、作戦失敗に対する悔恨の念だった。
すると、ファラシーが口を開く。
「もう何を言おうが、結果は変わらん。なら、我々がすべき事は変わらない。これからも変わらず、教祖アロネス様の意に従い続けるだけ――分かったな?」
その言葉に。
4人は無言で頷くのであった。
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これで、第一章は終わりとなります。
リヒトの日記を挟んだ後、第二章へと移る予定です!
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