第四十六話 説明求む
「しゃ、シャリア。いいのか? あんな吹っ掛けて」
俺は思わず、小声でシャリアにそんな問いを投げかけた。
すると、その問いにシャリア――では無く、レリック侯爵が答える。
「言ったではないか。街と私たちを救ったと。なら、この程度の謝礼、むしろしない方が問題だ。私は不誠実が嫌いなのでな」
「そうですよ、リヒトさん。リヒトさん、普通に凄い事してるんですからね? 自覚してくださいよ?」
そして、そんなレリックの言葉にシャリアがそのように補足をする。
いや、確かに結構凄い事をしたという自覚はあるよ。
ただ単に、レリック侯爵相手にそんな大きな事言えないってだけで……
すると、シャリアから呆れたような視線が飛んでくる。同時に小声で、「戦闘時はあんなに大胆なのに……」という声が耳に入って来た。
うん……なんか、すまん。権力者にビビッて。
「まあ、報酬は至急用意させてもらうとしよう。それで1つ聞きたいのだが……リヒトは何なのだ?……シャリア。答えてくれると嬉しい」
え、何その質問。
まるで、俺が得体の知れない何かみたいな言い草じゃないか。
いや、でも流石に考え過ぎか……と思っていると、その問いにシャリアが答える。
「自己回復魔法を極め過ぎた結果、ほぼ不死身になってしまった、色々と凄い人です」
「なるほど……少しおかしい気もしたが……息子が若干のトラウマを抱えてしまうぐらいにはおかしかったが……」
「誠に申し訳ございませんが、そういうものだと思っていただけると、幸いです。あと、あまり流言や詮索もしないでください」
「……そうか。であれば、この件は大々的に発表しない方が良いな」
「はい。私たちはまだDランク。時期尚早が過ぎますし……」
え、なんでそんな言われようなの……てか、何で俺のせいで息子さんがトラウマ抱えるん……?
普通、エンデたち”救世教団”のせいじゃないの?
どういう事だ?
……解せぬ。
そうして、会話の内容がよく理解できず混乱していると、俺の視線に気づくような素振りを見せたレリック侯爵が、俺の方を見ると口を開く。
「いや、別に責めているつもりは無い。今の話は、特段気にする必要は無い」
「は、はい……分かりました」
レリック侯爵のどこか気まずげな言葉に、俺はよく分からないが取りあえず頷いておいた。
すると、コンコンと客室のドアがノックされる。
「入りなさい」
ガチャリ。
やがて、レリック侯爵の許可を得て、中に入って来たのは壮年の執事らしき男だった。
彼は、そのまま真っ直ぐレリック侯爵の横に控えると、手に持っていたお盆をテーブルの上に置く。
「……おお」
お盆の上には、キラリと光る硬貨が入った革袋2つに、2枚の藍色のカードが置かれていた。
ああ、もしかしてこれがさっき言ってた報酬かな?
ドアの向こうで聞き耳を立てている人が居るのは知っていたが……用意速いな。
もう全部準備し終えたのか。
すると、レリック侯爵がこれに関する説明を始める。
「まず、これが褒賞金だ。それぞれ360万セル、計720セルが金貨、小金貨、銀貨として入っている筈だ。後ほど確認するといい。そして、そのカードが”第一級魔法道具購入許可証”だ。基本的には、王都で使う事が出来る」
「はい。分かりました」
「承知いたしました」
レリック侯爵の言葉に俺たちは口を揃えて頷くのであった。
いやー褒賞金も当然嬉しいけど、やはり”第一級魔法道具購入許可証”――これが結構大きい。
これは文字通り、魔道具や魔法書といった魔法系に関する道具を購入する事が出来るようになる許可証の事だ。
勿論今までも普通に買ってはいたが、これがあると店頭では見る事の無い、特別な魔法道具を購入する事が出来るようになるのだ。そして、等級によって買う事の出来る品も異なり、特級、第一級、第二級、第三級、第四級と5段階に分けられた内の、上から2番目である第一級なので……まあ、大体は買えるな。
てか、特級に指定されるようなものは、そもそも売りに出される事すら稀だしね。
「……あと、シャリア。後ろ盾が欲しいと言う話だが、それは実家……ガーランド伯爵家についての事か?」
「え、ええ……はい。その通りです……」
すると、突然レリック侯爵がそのような問いをシャリアに投げかけた。
そして、シャリアはその問いに、俺の方をちらちらと見ながら、どこか気まずげに頷く。
ん? 実家? ガーランド伯爵家?
情報の連投に、一瞬思考が停止する。
そんな中、レリック侯爵は何かを察したような顔をすると、小さく息を吐いた。
「もしかして、リヒトには秘密にしていたのか?」
「そのつもりは無かったのですが、言うタイミングを逃してしまいまして……」
「そうか。今後もパーティを組み続けると言うのなら、今この機会に言った方がいいだろう」
「そう、ですね……」
そして、完全に置いてけぼりとなってしまう2人の会話。
やがて、状況を多少なりとも理解できた俺は思わず。
「えっと、すまん。説明求む」
と、声を上げるのであった。
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