第四十四話 救世教団
あれから裏路地を通り、ひっそりと宿に帰った俺は、宿の女将に服装のせいで訝し気な視線を送られつつも、シャリアに上手い事言いくるめて貰った。そして、そこでシャリアと別れ、部屋に入った俺は即座に服を着替えると、ベッドにダイブし、死んだように眠るのであった。
そして次の日。
昨日は夜遅くまで起きて戦っていた事もあってか、普段より遅めに起床した俺は、宿の食堂でシャリアと共に朝食を食べていた。
「はー……それにしても、昨日のあれ、何だったんだろうな?」
パンを食べ、水を飲みながら、俺はふとシャリアにそんな問いを投げかけた。
すると、シャリアは周囲を確認した後、口を開く。
「昨日の相手は、世界最大のテロ組織とされ、隣国エリス教国と繋がりがあるとも噂されている”救世教団”です。」
「……なる、ほど?」
神妙な面持ちでそんな事を言うシャリアの言葉に、俺は首を傾げながらそんな言葉を零した。
ここヒラステ王国の西側にある隣国、エリス教国は流石に知っている。だが、”救世教団”は知らないな……。
冒険者に関係する事以外の知識は、基本的に知ろうとすらしなかったからさ。
だから、世界最大のテロ組織と言われても、なんとなく凄いのかな……と思う程度だった。
そんな俺の内心を悟ったのか、シャリアは小さく息を吐く。
「知らないですか……まあ、村出身なら無理もないでしょう」
そう言って、シャリアは詳細を話し始める。
「”救世教団”は”世界を救うためには、あらゆる犠牲も辞さない”という事を信条に活動していて、ヒラステ王国を中心に、貴族の暗殺や秘宝の強奪などのテロ行為を繰り返している。ただ、その行為が何故世界の救済に繋がるのかは、王国側も構成員も一切把握していない。何故なら構成員の多くは、幼少期からそれが正しいと教育された者か、ただ単にリスクを抑えて犯罪行為をしたい人ですから」
「……ただのヤバい奴らだった……」
想像の数倍ヤバそうな連中――”救世教団”の情報を聞き、俺は引き気味にそんな言葉を零した。
「そして、昨日戦ったエンデは”救世教団”の中核を担う6人組――”円卓の六使徒”の一角。Aランク冒険者でも、勝てるのは上位の者のみとされています」
「……マジか」
エンデ……そんなヤバい奴だったのかよ。
道理でシャリアが、あそこまで心配する訳だと、俺は改めて思った。
「まあ、リヒトさんは勝ってしまいましたけどね……」
「まあな。50回ぐらい殺された気がするけど」
「本当に見てて、ひやひやしました。そして、本当に凄かったです。それに引き換え、私はあまり役に立てませんでしたし……」
「いやいや。シャリアが上手く立ち回ってくれたお陰で、領主様たちが人質にされるという最悪の展開は免れただろ? 俺にはまだ、ああいう巧い立ち回りは無理だから、本当に助かった」
急に目尻を下げて落ち込むシャリアを、俺は咄嗟にそう言って擁護する。
シャリアは、十分やってくれた。これは、本当だ。
シャリアが居なくても、勝てはしただろうが……代わりに今言ったような、厄介な事になり兼ねなかったからさ。
そうならなくて、本当に良かったよ。
「だから、そう自分を卑下しなくていいよ」
「はい……ありがとう、ございます」
俺の言葉に、シャリアはそう言って軽く頭を下げた。
これで直ぐに落ち込みが戻るかどうかは分からないけど、少なからず心の支えになれたならいいなと思う。
「さてと。取りあえず今日はどうするか?」
「そうですね……今日は、”魔の森”には行かず、街でのんびりしていればいいと思います。それに、そろそろ来る頃合いだと思いますし」
「来る? それは一体どういう……」
その言葉の意味が分からず、オウム返しにそう問いかけた――次の瞬間。
宿のドアが開かれ、2人の衛兵らしき男が入って来た。
こんな所に衛兵が来るなんて珍しい……なんて思っていると、その2人は俺たちに視線を向けるや否や、一直線にこっちへと向かって来る。
「あれ? 何かしたっけ? 俺」
「何かって……」
思わずそんな言葉を口にする俺に、シャリアは呆れの表情を見せた。
なんで顔されるんだよ……と、内心で嘆いていると、衛兵2人が俺たちの前に立った。
そして、揃って軽く頭を下げると、口を開いた。
「冒険者のリヒトとシャリアで、間違いないだろうか?」
「あ、ああ。そうだ」
「はい。私がシャリアで、彼がリヒトです」
衛兵の言葉に、俺たちはそれぞれそう答える。
すると、衛兵の片方が懐から1枚の封筒を取り出し、俺に手渡してきた。
「こちらを、お渡しするよう領主様から言われまして。それでは、失礼しました」
そう言って、2人は足早にどこかへと去って行った。
一方、俺は手渡された封筒をまじまじと見つめながら、口を開く。
「領主様……ああ、昨日の件か」
「恐らく、そうでしょうね」
俺の言葉に、シャリアはそう言って頷いた。
なるほど。これが、シャリアが”来る”と言っていた理由なのか。
俺はそう納得しつつ、手紙を開けて中身を確認する。
「えっと……はいはい。なんか、礼をしたいから今日の午後2時に来て欲しいって書いてあるよ」
そう言って、俺はシャリアに手紙を手渡した。
「……そうですね。1時過ぎぐらいに、領主館へ向かいましょう」
シャリアも手紙をまじまじと見ると、そう言うのであった。
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よし。てことでギリギリ10万字達成ー
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