第四十二話 エンデとの戦いに決着を――

「はっ!」


 エンデの肩目掛けて、俺は剣を振り下ろす。

 だが、それは半身になって避けられ、逆に攻撃後の後隙を狙った剣撃が、俺の脇腹を深く斬り裂いた。


「はあああああ!!!!!!」


 そして、腹の半ば辺りまで漆黒の大剣を進めたところでピタリと止めると、勢いよく上へと上げる事で、俺の上半身と下半身を完全に引き離してきた。


「おおっ!」


 この前、ケインズが俺の再生を少しでも遅らせようとやった事と、全く同じやり方だ。

 ただまあ、当然無意味、と。


「よっと」


 俺は下半身を即座に再生すると、不要となった元の下半身を破裂させ、小さな血刃や骨牙による猛攻をお見舞いしてやった。


「うぐぐっ!」


 エンデは急所を守りながら、その猛攻を防ぐ。

 その隙に、俺は地面へ降り立つと、再度剣を構えて突撃した。


「ぐっ……はぁ、はぁ……なんだ、これは……?」


 すると、突然エンデが苦しそうに胸元を押さえ、荒い息を上げ始める。


「ああ、ようやく効いてきたか」


「なっ 何をしたのですか?」


 そう呟く俺に、エンデはその真意を問いただそうとする。

 そんなエンデに対して、俺はただ一言告げた。


「お前、どれだけ俺の前で空気を吸った?」


「……っ!?」


 抽象的な俺の言葉――だが、エンデは直ぐにこの言葉が意味する事を察し、顔面蒼白となる。

 そう。この場には、気化した俺の血が散布されており、吸えば当然体内――それも肺に入る。流石に気化した血と俺本体の接続は途絶えているが、代わりにその血には僅かとは言え、細胞破壊の特性を予め持たせてある。

 魔力量の多い相手程効き辛いせいで時間が掛かってしまったが……症状として現れてしまえば、それは大きな隙となるし、治療を怠れば普通に死に至る危険なものだ。


「はあっ!」


 ザン!


「ぐあっ!」


 肺が死にかけ、呼吸が荒くなったせいで生まれてしまった隙――俺はそれを的確に突く事で、遂にエンデの左腕を切断する事に成功する。


「ごほっ ごほっ 【終われ終われ終われ】!」


 それでも尚、エンデは攻撃直後の隙を突く様に魔法を放って来るが、俺は当然のように再生して無力化すると、斬りかかる。


「がはっ! あああっ!」


 そして、軽鎧ごと胸を斬り裂いた――だが、これは浅い。

 すると、エンデが再び糸を俺に巻き付けて来る。


「なっ!?」


 だが、今回は拘束だけ――斬り刻まれる事は無かった。

 でも、これでは動けない……俺の弱点である拘束をされたか。


「が、何も対策してない訳じゃ無い! 【爆散】!」


 そう吠え、俺は即座に魔法を唱える。

 直後、爆発四散する


「ふぅ。はああっ!」


 そうやって強引に拘束から抜けた俺は即座に身体を再生させると、体勢を立て直そうとしていたエンデへ斬りかかる。


「なあっ!?」


 流石に身体を自ら爆破し、肉片になることで、拘束を解いてくるとは思わなかったのか、あれほど傷ついているのにも関わらず、場違いな声をエンデは上げた。

 まあ、流石にこれは想像できないよな。

 俺はそう、内心で同情しつつも剣を構えると、血槍を一斉掃射しながら斬りかかった。


「が、あっ……!」


 遂に全ての軽鎧が破壊され、更に全身の傷口から血を噴き出させるエンデ。

 だがそれでも、エンデの攻撃が衰える事は無かった。


「うっ……【全てよ、終われ】!」


 大量に吐血しながらも、エンデは終わりを告げる魔法を唱えた。

 あれ程追いつめられていると言うのに――いや、追いつめられているからこその、破壊力か。

 勢いが強く、そのせいでその場に留まらざるを得なくなった。


「ぐっ はあっ!」


 その隙に、エンデは恐らく最後と思わしき回復薬ポーションが入った瓶を割り、気休め程度の治癒を行うと、糸をこちらへ向かわせ、拘束しようとしてくる。

 確かに対処できるところは見せたが、それでも現状一番の有効打である事に違いは無いんだし。

 だが――流石に来ると分かっていれば、あれだけ技を見たんだし、手負いの奴の動きぐらいなら読み取れる。


「【血よ、吹き荒れろ】!」


 そして、前方に現れる血嵐が、向かってくる糸を巻き込み、進路をぐちゃぐちゃにした。


「【血よ、貫け】!」


 直後、俺はその血を槍状にすると、四方八方からエンデに襲い掛からせる。


「【終われ終わっ……れ】ええええ!!!!」


 それに対し、エンデは終わりの呪文で完全に相殺した。

 だが、それで手一杯。


「はああああっ!」


 続く俺の攻撃には――


「がはっ……!」


 対応、出来なかった。


「あ、がっ……」


 遂にドサッと地面へ膝を付いたエンデ。

 今にも倒れそうに見えるが――その瞳に諦めの文字は一切見られなかった。


「ご……ほぁっ!」


 大きな血塊を吐きながら、エンデはボロボロと崩れる漆黒の大剣を、俺に向かて刺突する。だがその一撃は、”遅速左眼スロービジョン”を使おうが使わまいが関係ないぐらいには……鋭く遅かった。

 俺はそれを容易く回避すると、剣を振り上げる。

 人殺しは嫌だ――だけど、流石にこいつ相手に躊躇う事は出来ない。こいつは――強すぎる。

 それにまだ、こいつは戦う気でいる。

 故にここで躊躇えば、最後に残った力で何をしでかすか分からない。

 すると、何かを悟ったような顔をしたエンデが、最期に唇を震わせた。


「僕は、多くの命を、奪った……だから殺されても、恨みは、しな、いっ……」


「……分かった」


 そう言って、俺は目元を伏せると剣を振り下ろすのであった。

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