第三十九話 サイコロステーキ
迫り来る無数の血槍による波状攻撃と、それに隠れるようにして遅れて飛ばされる5本の《
「おおっと。危ない危ない」
それを、エンデはくるりと宙返りするように上へと飛んで、回避する。
「【血よ、穿て穿て】!」
だが、空中に居る状態なら回避できない。
そう判断した俺は、飛ばした血槍を即座に上へと向かわせる。
「やはり、こっちに来るか」
その様子を、エンデは空中で冷静に見据えると、右手を素早く振った。
直後、エンデの身体が右側の地面へ勢いよく飛んで行った。まるで何かに引っ張られているような感じだ。
「……ああ、なるほど。糸か」
よくよく見てみると、エンデの手に超極細の糸が巻き付けられてるのが見えた。恐らくあれを何らかの方法で地面に引っ付け、引き戻すことであそこから離脱したのだろう。
「さて、やるよっ!」
直後、エンデが勢いよく地面を踏み込み、俺の方へと駆け出した。
血槍では間に合わない。
だが――俺の横にはシャリアがいる。
「【――穿て穿て穿て】!」
続けて詠唱を始めていたシャリアが、向かってくるエンデ目掛けて先ほどのものより威力の高い《
どれもこれも、俺から見れば非常に正確に放たれている――だが。
「甘いね」
エンデはそれを正面から、左右にズレる事で躱して見せた。
強い――多分、グーラたちよりも、ずっと。
「やるか」
幸いな事に、エンデにはまだ《
なら、それを用いた奇襲が最低でも1回は出来る。
そう思った俺は、1歩前へと出た。そして、左目に意識を集中させる。
直後――周囲全ての動きが、遅くなった。
これは、右目の”
その名も、”
効果は純粋に、視認速度を通常の3倍にまで上げる事――ただし、使い過ぎると精神的な負担が大きくなる為、乱用は出来ない。
「はあっ!」
彼我の距離が5メートルになった瞬間、俺は足のホルダーから取り出した2本の苦無を投げると同時に剣を構えると、勢いよく地面を蹴って駆け出した。
この苦無の投擲術は、ケインズが対人戦で使えるからと、鍛錬の合間に教えてくれたものなのだが……さっきと言い、もう使う機会が来るとは思いもしなかったな。
「甘いよ」
そんな事を思っていると、エンデが半身になって2本の苦無を躱した。
直後、俺の剣がエンデへと振り下ろされる。
「危ないなぁ」
だが、一瞬の内に糸で剣を巻き取られたかと思えば、綺麗に横へと逸らされてしまった。
ブチッ
同時に、糸の斬れる音が聞こえてきた。
まあ、そりゃそうだ。弛んだ糸ならともかく、ぴんと張られている状態なら斬れる。
だが、逸らされた事による隙は――このレベルの戦いにおいては、もはや致命傷だ。
「では」
そう言って、エンデは両手の指を巧みに動かし、糸で俺の両腕を斬り飛ばした。
だが次の瞬間――両腕が元の場所へと戻る。
「なっ!?」
その状況を目の当たりにし、思わず声を上げるエンデ。
だが、俺はそんなの無視して剣を構えると、”
「うおっと」
しかしそれは、顎先に切り傷を付けながらも、寸での所で身を退かれてしまった事で、躱されてしまう。
だか、こちらの攻撃はそれで終わりでは無い。
「【――穿て穿て】!」
後方で待機しているシャリアが3本の《
それは、真っ直ぐエンデの下へと向かって行き――
「があっ!」
身体を捻って回避したようだが、流石に避けきれず、腹に大きな傷を負って、血を噴き出させた。
「くっ――【闇弾よ爆ぜよ――爆ぜよ爆ぜよ】」
だが、紡がれる詠唱。
直後、拳大程の闇の弾丸が5発、俺たち目掛けて撃ち込まれた。
「ぐっ シャリア!」
「はい!【氷よ、守れ】!」
ドオオオオオン――!!!
そして、派手に爆発した。
白煙では無く闇煙が立ち込める中、俺はまだ接続を残していた自身の血をこちらへ勢いよく戻す。
「……はぁ。流石に驚いたよ」
やがて、闇煙が晴れた先に居たのは、血を体中に浴びながらもほぼ無傷で佇むエンデの姿だった。ちらりと地面を見てみると、そこにはからの小瓶が転がっている。恐らく
「腕、確実に斬ったと思ったんだけど……もしかして、幻術魔法の使い手かな?」
「さあ、どうだかな。【血よ、纏え。広がれ】」
エンデの問いに答える義理は無い。
そう思いながら、俺は引き戻した血の一部を自身の身に纏わせ、鎧にした。また、余った部分は地面に薄く延ばすように広げる。
「【闇雷よ、迸れ】!」
すると、エンデはこれ以上こちらの好きにはさせないとばかりに黒い雷を迸らせた。直後、俺の身体を無数の黒い雷が巡る。
痺れるのでは無く、どちらかと言えば身体を引き裂かれるような感じだ。
だが、そんなものは全くの無意味。
そう思いながら、俺は駆けだす。
「効くと思ったんだけど――ね!」
直後、今度は四方八方から糸が迫って来て、俺を絡めとろうとする。
”
だが、避けられるかどうかはまた別問題。
「ちっ!」
見事に全身を上手く絡めとられ、身動きが取れなくなってしまった。
直後、その糸が漆黒の光を帯びたかと思えば――
「バラバラになるといい」
勢いよく締め付けられ、俺の身体はサイコロステーキが如く細切れになってしまうのであった。
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