第三十五話 次回、リヒト死す()

「グエエエェ……」


「おうっ!? なんだあれは!?」


 当然地面から這い出て来た、黒くて醜悪な人型の魔物に、俺は思わず目を見開く。

 鳴き声、姿、動き――全てにおいて生理的嫌悪感を覚えて来るそいつらは、俺たちを視認するなり、地面を這うようにして駆け寄って来る。


「ちっ 【魔力よ。我が身に纏え。強化せよ】――はああっ!」


 それを見て、俺は即座に《身体強化ブースト》を発動させると、向かってくる奴らに斬りかかった。


「【――穿ち抜け】!」


「グギャアァアア!!!!!」


 続けてシャリアが背後から援護射撃をしてくれた事で、何とか全滅させる事に成功した。


「ふぅ……それにしても、今の魔物は何なのでしょう?」


 シャリアは俺の下へ駆けよって来ると、若干顔を青ざめさせながらそんな問いを口にした。


「見るのは初めてだが、多分”邪神窟”の魔物だ。特徴があそこに居る魔物と一致している」


 そんなシャリアの問いに、俺は即座に答えを告げた。

 ”邪神窟”――ヒラステ王国三大魔境の一角たるそこは、巨大なすり鉢状の地形と、その中心部から地下へと続く巨大な洞窟によって構成されている場所で、そこ固有の魔物のみが住まう特殊な場所だ。

 それで、今さっき倒した黒くて醜悪な人型の魔物は、Cランクのクリーチャーだろう。


「”邪神窟”……ですか。何故ここにその魔物が……」


「この結界に読み取れない場所があったが、恐らくそこに”邪神窟”の魔物を召喚する術式が組まれていたんだろうな……っと。来るぞ」


 次の瞬間、再び地面から複数のクリーチャーが這い出て来た。


「シャリア。ここでずっと戦ってても埒が明かない。中心へ急ぐから、ついてきてくれ!」


「はい!」


 そうして、俺たちはこの状況を打破するべく、この結界の核がある中心へと向かって走り出した。


「「「グエエェェエェェエェ……」」」


「はっ! はっ! はっ!」


 中心へと走り出した途端、中心へは行かせないとばかりに俺たちの前から出て来る魔物たち。以前なら《血殺武具ブラッド・ウェポン》を使わない限りはそれなりに手こずったであろうが、グーラたちの指導を受けた今なら、こうやってすれ違いざまに斬り刻む事が出来る。


「ふぅ。この程度なら、俺だけで十分だな」


 ただ、この程度で終わる訳が無いのは、薄々分かっている。

 大した根拠は無く、言ってしまえば勘なのだが、魔法陣の解析が得意な俺の勘なのだから、少なくとも的外れな物ではない……と思いたい。

 すると案の定、今度は地面から半分ドロドロに溶けたような、黒くて体長3メートル程の、ゴリラ型の魔物が4匹姿を現した。

 Bランクの魔物――アグリゴング。


「やはり、あれより強い奴も出て来るか――シャリア、援護任せた」


「はい!【魔力よ。氷の――】」


 俺はシャリアに援護射撃を頼むと、自身は即座に剣を構え、アグリゴングへ斬りかかった。


「ゴグェェェェ!!!!!」


 それに対し、アグリゴングはその体躯を生かし、上段から俺目掛けて両腕を振り下ろした。


「はっ」


 それに対し、俺はギリギリまで引き付けてからの回避を選択。

 直後、真横からドオオオオン!と大きな音が聞こえてくるが、そんなの無視して俺は無防備となっているそいつの脇腹を掻き斬った。


「グェェェェェ!!!!」


 おどろおどろしい漆黒の血を噴き出させるアグリゴング。死んでは無いが、それなりに致命傷だ。

 直後、そんな俺に他2匹のアグリゴングが迫って来た。


「【槍となりて彼方へ飛べ、飛べ、飛べ】!」


 だが、それと丁度同時に終わるシャリアの詠唱。

 そして、12本の《氷槍アイスランス》が3体のアグリゴングへ襲い掛かった。


「「ギャェェエェエ!!!」」


 当然、アグリゴングは迫り来る脅威たるシャリアの《氷槍アイスランス》を迎撃しようと、俺から一瞬、完全に意識を背けた。

 その隙に、俺は一気に片方のアグリゴングへ肉薄すると、右胸に剣を突き刺して魔石を破壊する。


「「グギガエエェェェェェ!!!!」」


 一方その頃、残る2匹のアグリゴングはシャリアが放った《氷槍 アイスランス》によって、いい感じに蜂の巣にされていた。

 シャリアの魔法も、1週間前と比べると大分威力精度共に上がっている。

 頼もしい限りだ。


「じゃ――とどめっ!」


 流石はBランクの魔物と言うべきか、俺の攻撃で致命傷を喰らっていた方は流石に死んだのだが、無傷の方は上手いこと迎撃していた事も相まってか、そこそこのダメージで終ってしまった。

 だが、続く背後からの攻撃には対応できず――


「ギャウェエエェェェェ!!!」


 背中を深々と斬り裂かれ、絶命するのだった。


「よし。走るぞ!」


「はい!」


 アグリゴングを撃退した俺たちは、一切の猶予を持つことなく、走り出す。

 当然だ。ここで立ち止まろうものなら、たちまち地面から這い出てきた魔物に取り囲まれてしまう。

 そうなっても負ける気はさらさら無いのだが、それでも厄介なことに変わりはないし、もたもたしていたらこの結界を展開したであろう、あの集団が直接襲いかかってくる可能性だって大いにあるのだから。

 で、それはそうとして……


「……なんか多くね?」


「多いですね。普通に、洒落にならないです」


 やがて立ち止まった俺たちの周りに出現するのは、数え切れない程の魔物の群れだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る