第三十四話 邪悪な漆黒の結界

 その瞬間。

 俺たちは即座に動いた。


「【魔力よ。我が身に纏え。強化せよ】!」


 俺は駆けながら剣を抜くと、男に向かって斬りかかった。

 殺意を向けて来る相手に躊躇していたらこっちが殺られると、グーラたちからよく言われていた俺は、迷う事なく男の腕を斬ろうとする。

 こんな所で、終わる訳にはいかないからな!


「この距離で首狙わないのは、ちょっと甘いかなぁ」


 だが、男は素早く振り返ると、呑気にそんな事を言いながら後ろへ軽く跳ぶことで、その一撃を躱した。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン!


 その直後、シャリアが放った3本の《氷槍アイスランス》が、俺の頬を掠めて飛んで行った。

 おーナイスタイミング。

 だが、それは――


 キン!


「僕は、失礼させてもらうよ」


 男の背後から姿を現した、全身黒づくめの暗殺者のような風貌の人間3人よって、防がれてしまった。

 そして、その隙に男は暗闇へと消えて行く。


「ちっ だが、その前にこっちを何とかしないとな」


 咄嗟に男の行方を追おうと思ったが、それよりも今そこに居る3人を倒す方が先決だ。


「「「世界救済の為に――死ね!」」」


 直後、両手に短剣を持つ3人が、多方面から俺に襲い掛かって来た。

 それに対し、俺は近場の1人目掛けて横なぎに剣を振るう。


 キン!


 しかしそれは、クロスするように構えられた短剣によって、防がれてしまう。


「んがっ!?」


 だが、力は俺の方がずっと上。

 結果、一瞬の均衡の後に、そいつは派手に後ろへ飛ばされ、背中を地面に打ち付ける。


「死ね」


「死ねぇ!」


 直後、左側の死角から這い寄るようにして出て来た2人が、その短剣を思いっきり突き上げた。


 グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!


 右脇腹に2本、太ももに1本、そして首に1本。

 どうやら毒も塗られてあるようで、普通の人間なら致命傷だ。

 だが、俺には何ら問題は無い。むしろ、これは狙ってたこと。

 だって、刺しに来てくれたおかげで――


「凄く斬りやすくなった――なっ!」


 お馴染みの《血殺武具ブラッド・ウェポン》で血液を操作し、突き刺さっている短剣を抜けないようにしてやると、2人に向かって思い切り剣を振るった。


 ザザン!


 嫌な手応えと同時に、深く腹を斬られて地面に倒れ伏す2人。


「同胞を、よくも!」


 直後、地面に吹っ飛ばしていた1人が再起し、立ち上がると、俺に向かって斬りかかって来る――だが。


 ヒュンヒュンヒュン!


「がはっ……!」


 戦闘音で隠れるように、密かに詠唱をしていたシャリアの魔法が放たれ、男の腹を穿つのであった。

 バタリと倒れる男。

 そいつを一瞥した俺は、周囲に敵が居ないかを確認する。


「……他に敵意は感じないな」


「ただ、あの嫌な気配……違和感は感じますね」


「ああ。俺も殺り合ったせいか、何となく感じて来た」


 やがて、後方に居たシャリアと合流すると、周囲を警戒しながら話し合う。

 うーん。一体何をするつもりなのやら。

 情報が断片的すぎて、皆目見当が付かない。


「シャリアは何か分かる? 向こうの目的」


「いえ。ただ、様子からして組織的で計画的な犯罪行為をしようとしているように見受けられました」


「なるほど……。ああ、確かにこいつら3人の服装と武器、統一されてるな」


 シャリアの見解に、俺は呻き声を上げながら転がる3人を一瞥しながら、納得の意を示した。


「取りあえず、これは一旦衛兵に――っ!?」


「!?」


 一旦衛兵に通報しよう――そう言おうとした瞬間。

 前方から、膨大な魔力を感じた俺は、シャリアと共に即座に身構える。

 すると――


「なっ!?」


「っ!」


 突然、周囲一帯が漆黒に包まれた。

 夜の黒さとかじゃない。何もかもを塗りつぶしたかのような、漆黒。

 だが、どういう訳か視界はちゃんと確保出来ている。

 漆黒なのに。


「……結界って感じか。シャリア、大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。ですが、ここは一体……」


 俺の言葉にシャリアは頷くと、焦燥感を露わにしながら、周囲をぐるりと見回す。

 ああ。本当にここはどこなのだろうか。

 そもそもここは路地裏だった筈なのに、今や開けた漆黒の空間。

 術式的には結界のように見えたのだが、異世界に飛ばされたと言われた方が、まだ納得できるレベルの光景だよ。これは。


「取りあえず、さっさと出ないとな。それで、やるとすれば、壁を壊すか術者を倒すかって所だが……」


「そうですね。ただ、その前にこの結界の術式をやれるだけ解析しておいた方がいいかもしれません」


「だな。じゃ、早速やるとするか。シャリアは周囲の警戒を頼む」


 シャリアと軽く話し合いをした結果、一先ずこの結界らしきものの術式を解析する事になった。

 そうして、俺は特殊な右目――”解析右眼アナライズ”で、この暗黒空間の解析を始める。

 これでも俺は、術式解析が得意だ。何せ、《不死の奇跡イモータル》を開発する過程で、めちゃくちゃそれをやったからな。

 自分の分野では無い属性の魔法でも、どのような魔法かぐらいまでなら、余程隠蔽でもされない限りは、大丈夫だと思う。


「……ああ、なるほど。なるほど。……はいはい、そういう事か」


 やがて、解析を終えた俺は納得したような顔でシャリアの方に視線を向けると、結果を告げる。


「どうやらこれは、条件起動式の封印系結界のようだ。ただ、一部読み取れない所もあった。で、解除方法はこの結界内の中心にある核を破壊するのが確実っぽいな。というか、少しでも効力を上げる為に相当厳しい条件をセットしているようで、術者の実力も相まってか、多分そのやり方以外でやると、時間が掛かりすぎて先にシャリアが餓死すると思う」


 顎に手を当てながら、解析して分かった事を、なるべく簡潔で分かりやすく説明していく。


「そうですか。となると、急いで中心へ向かい、最優先で破壊する他ありませんね」


「そうだな」


 俺の説明に頷くシャリアの言葉に、俺は同感だとばかりに頷いた。

 そして、直ぐにでも破壊しようと、歩き出す。

 そんな時だった。


「グエェェ――!」


「グォオオオ――!」


 悍ましい呻き声を上げながら、醜悪な魔物たちが漆黒の地面から這い出て来たのは。

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