第三十三話 死出の旅

 夜の帳が降り、月が天に浮かんだ頃。

 打ち上げを終えた俺たちは、食堂の外に出ていた。


「ま、色々あったが、取りあえずお疲れさんだな。お前たちがSランク冒険者になる事、応援してるぜ」


「ああ。1週間、ありがとうございました」


「1週間、ありがとうございました」


 軽快にそう言うケインズの言葉に、俺とシャリアはそう言って、3人に頭を下げる。


「おいおい。そんな硬い言い方する必要はないって。ま、Sランク冒険者になったら、俺らに指導してもらったとでも言ってやれ。そしたら俺らの知名度は爆上がりして、老後は安泰だな」


 すると、グーラは冗談めかすようにそのような事を言った。

 そうだな。Sランク冒険者になったら、大々的に発表するとしよう。

 それが、彼らに対する恩返しだ。


「ああ、そう……うっぷ……うえぇ……き、気持ち悪い……ヒック……」


 そして、トランもグーラの言葉に乗るようにして言葉を紡ごうとしたが、途端にバタリと地面に膝を付いて倒れると、心底気持ち悪そうに口元を押さえていた。

 トラン、酒にやられたんだよなぁ……

 原因は十中八九、間違えて俺が頼んだ酒を飲んでしまった事だと思う。

 俺の酒、とんでもないぐらい度数高いし。

 まあ……ご愁傷様としか言えないかな。


「おい、トラン。こんな所で吐くんじゃねぇぞ。……こりゃ駄目だな。しゃーない。担ぐか」


 一方、そんなトランを気の毒そうに見ていたグーラはそう言って、トランを肩に担ぐ。強化魔法を使っているようで、負担になっている様子は全然見受けられない。


「それじゃあな。ま、この街に居る限りは割と会うだろうけど


「まあ、頑張れよ。応援してる」


「うっぷ……う、吐きそう……」


「吐くな! 絶対に吐くな! 死ぬ気で我慢しろ!」


「そうだぞ! マジでやめろよ? めんどいから!」


「う……でも、げん……」


「黙れ! 限界とは、超える為にあるんだあああ!!!」


「取りあえず吐いても問題ない場所まで、限界を超克し続けろ!!!!」


 そして、騒がしくその場から去って行くのであった。


「トランさん、大丈夫でしょうかね?」


 すると、シャリアが心配そうにそんな言葉を口にした。


「あー……まあ、大丈夫じゃないかな。トランだし」


 それに対し、俺は希望的観測を口にする。

 うん。多分大丈夫。トランって、シャリア曰くAランク冒険者に匹敵する強さらしいし。

 多分、きっと、恐らく、酒に対しても強いはずだ。


「さてと。それじゃ、俺たちも宿に戻るか」


「そうですね」


 そうして、俺たちは並んで歩き出した。

 あれから、俺とシャリアは同じ宿に泊まるようになった。そのお陰で、朝合流するのが随分とスムーズになったんだよね。

 こうやって少しでも効率化するのも、Sランク冒険者を目指す上では欠かせない……なんてな。


「……あれ?」


「ん? どうした?」


 宿に向かって最短経路で歩いていたら、突然シャリアが不思議そうに上げると同時に立ち止まった。

 そんなシャリアを見て、一体どうしたのだろうかと疑問に思っていると、シャリアがぼそりと口を開く。


「なんか、嫌な気配がするんですよね。ぞくりとするような、そんな感じの……」


「ぞくりと……か」


 シャリアの言葉を聞きながら、俺は周囲を見回す。

 んー俺って五感は鋭いけど、第六感とやらは対魔物を除けば人並みだから分からんな。

 ただ、ここは領主館の直ぐ近くにある、大通りから逸れた脇道。領主館から近いとは言え、人通りはあまり無いし、不審者が居てもおかしくは無い。


「様子見た方がいいかな?」


「そうですね。誰かが危険な目に遭っているようでしたら、助けに行きたいですし。勿論、無理そうでしたら直ぐに撤退しますけど」


「だな」


 俺たちは互いに頷き合うと、気配を感じ取れているシャリア案内の下、歩き出した。

 すると――


「ほう。君、随分と勘が鋭いんだね。褒めてあげる。ただ、悪いけどそれ以上先には行かないで欲しいな。別に行っても大丈夫だろうけど、何事にも万が一ってのがあるし」


「なっ!?」


「!?」


 角を1つ曲がった瞬間、前方から男の声が聞こえて来た。

 直後、俺たちは即座に戦闘態勢に入る。


 カツ、カツ、カツ


 やがて、足音と同時に暗闇から姿を現したのは、黒髪金眼、長身痩躯の若い男性だった。

 そいつは俺たちの姿を一瞥すると、くるりと背を向ける。


「ああ、安心して欲しい。君たちと戦う気はさらさら無いから。ただ、見てしまったとは――ついてないね。君たちも、になってしまうとは」


「待て! 一体どういう意味だ!」


 何の脈絡も無く紡がれる男の言葉に、俺は思わず声を上げる。

 それに対し、男はちらりとこちらを一瞥すると、笑みを張り付けながら口を開いた。


「ああ、説明不足で悪かったね。だけど、実のところ説明する必要は無いんだ」


 だって――


「もうじき君たちは、死出の旅に出るのだから」


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