第三十二話 1週間お疲れ様~!

 夕焼けで空が染まった頃。


「つー訳で、乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 テレンザへと帰還した俺たちは、”1週間の鍛錬お疲れ様&目標達成おめでとう”として、少し高めの食堂で打ち上げをしていた。因みに飯代は、全てトランの奢りらしい。

 なんかの詫びだとか言ってたけど、俺には良く分からなかった。

 まあ、ごちそうさまです! トラン!


「やれやれ。それにしても、1週間で見違えるぐらいに強くなったな、リヒト!」


 酒が入ったジョッキを片手に、バンバンと俺の肩を叩きながら、グーラはそんな事を口にした。


「うん。自分でも自覚できるぐらい、強くなった気がする」


 そんなグーラの言葉に、俺はこの食堂で一番度数の高い酒を飲みながら、こくりと頷く。

 成長とは、意外と自分では実感しづらく、自己回復魔法の研究実験の時も、数年前を振り返って初めて、成長できたと分かる程度だった。

 だが、これは元が悪すぎたのが原因か、たった1週間なのにも関わらず、結構成長できたと実感出来たんだよね。

 なんだか急成長し過ぎて、奇妙な感覚を覚えて来る。


「だな。教えを、確実に己の物にしようとする執念が感じられた。教えてて、楽しかったな」


 向かい側の席に座るケインズはそう言って、ごくりと酒を流し込む。


「……それで、シャリアの方はどんな感じだったの?」


 俺は串焼きを頬張りながら、そう言って、左隣に座るシャリアに話を振る。

 すると、シャリアはジョッキに注がれた水で喉を潤してから、口を開いた。


「そうですね。基本的には視野を広く持つ鍛錬を主にやりました。というか、広く持たないとトランさんの魔法に対処できないので、絶対に目標がクリアできなかったと……」


「へ~てっきり魔法の命中精度向上や手札の出し方とかを重点的にやったのかと思ってた」


 自分の事にかかりっきりだったせいで、初めて聞くシャリアの鍛錬に、俺は意外だな~と声を漏らした。


「そこは、やっていく内に自然と良くなっていくような感じでしたね。というか、トランさんにそこは1週間で仕上げられる場所じゃ無いと言われました。それよりも、最初の内に叩きこんでおいた方が良い視野を広く持つ方を鍛えるという話になりまして」


 すると、続けてシャリアがより詳しい説明をしてくれた。

 なるほど。確かに1週間という限られた期間で、魔法そのものを完璧にするのは、いくらシャリアに才能があるとは言っても、無茶が過ぎるからな。

 だったら、それをサブで鍛えつつ、今必要なものを先に手に入れる方が効率的だ。


「いや~1週間楽しかったぜ。何せ、美少女につきっきりで指導出来たんだからな~」


 すると、若干呂律が回らなくなっているトランが、ジョッキを片手にそんな事を言って笑った。

 ん? そのジョッキは俺が追加で頼んだ酒の筈だが……まあ、いいか。

 トランの奢りだし。


「ふぅ。それで、そっちは何の予定があるんだ?」


 鍛錬の期間が1週間だと決められていたのは、グーラたちにも予定があるからだ。

 そこで、なんの予定があるのか、俺は興味本位で問いかける。

 すると、ケインズが真っ先に口を開いた。


「ああ。実は、”魔の森”の浅い部分で新人冒険者を狙った盗賊行為が、最近また増えててな。情報も集まって来た事だし、これを期に一網打尽にしようと、高ランク冒険者が集められているんだ。あ、一応秘匿って感じだから、言いふらしたりはするなよ」


 そう言って、ケインズは再びグビッと酒を喉に通した。


「ああ、あの件か」


「あれ、大変でしたね~……」


 一方俺は、シャリアとあの日の事を思い出しながら頷き合う。

 確かにあの時、衛兵が最近増えてるとか言ってたな。

 まあ、これを期に一網打尽にされるのであれば安心だ。


「さてと。それで、明日からはどうする?」


「どうすると言われましても……まあ、普通に鍛錬の成果を出すように魔物を討伐して、後はランクアップの為に、普通の依頼もこなした方がいいですね」


「だよな。魔物だけを倒してても、ランクアップはしないし」


 鍛錬は終わったが、結局やる事はそんなに変わらない。

 ある程度冒険者生活をして慣れるまでは、テレンザで引き続き活動し続けるとしよう。


「そしていい頃合いになったら、ここを出てみたい。やっぱ、色々な場所を冒険してみたいからさ」


「そうですね。1つの場所に留まり続けるよりもその方が、冒険者らしいですからね」


「違いない」


 そう言って、俺たちは和やかに笑い合うのであった。


 ◇ ◇ ◇


 テレンザ某所にて。

 そこでは数人のローブを羽織った人間が佇んでいた。

 すると、やがてそこに1人の人間が現れる。


「準備が、整ったようだね」


 黒髪金眼、長身痩躯の若い男性。髪は少し長めであり、後ろで小さく纏められている。また、装備は黒を基調とした軍服のようなものを着用していた。

 その男は、佇む人間を見据えると、言葉を続けた。


「今夜、確実にを手に入れるとしよう。そうすればテレンザは危機に立たされてしまうが、世界救済の礎になってくれたんだ。笑顔で見守ってやろうじゃないか」


 そう言って、男は大仰に両手を広げながら、邪悪に笑う。


「「「「はっ ”世界救済の為に”」」」」


 その言葉に、彼らは一斉にひれ伏すのであった。


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