第三十話 1週間の成果

「はあっ!」


 声を上げながら、駆け出した俺がまず最初に狙うのは、やはり武器を持つ手。

 また同じ戦法だが、一般的な前衛である2人を相手にするのであれば、今までの経験上、それが現状1番安定するのだ。


「ふんっ!」


 キン!


 それに対し、ケインズは大戦斧を盾にするように構えて、俺の木剣を防いだ。しかもこの防ぎ方、完全に俺の木剣を折ろうとしていたな。


「はっ!」


 直後、俺は剣を僅かに後ろへ下げると、素早く下へ屈んだ。

 そして、ケインズの懐目掛けて大地を蹴る。


「はあっ!」


「ぐっ」


 だが、即座に右足が蹴り上げられ、俺は少し後ろに飛ばされてしまった。

 その間に、ケインズは大戦斧を構え直すと、地を蹴り、攻め込んでくる。


「くっ」


 退きながら、この攻撃を受けるのはマズい。

 そう判断した俺は、重力に逆らってでも、無理やり前へと身体を向けた。


 ザン!


 だが、それにより隙が生まれ、俺は左腕を斬られてしまった。

 これでも、避けられるだけ避けたつもりなんだけどね……


「はあああっ!」


 だが、この程度問題ない。

 俺は刹那の内に左腕を元通りにすると、流れるようにしてケインズへ剣を振り上げた。


「ぐうっ!!」


 それに対し、ケインズはすかさず大戦斧を引き戻すと、さっきと同様盾にして、俺の木剣を防ぐ。


「はあっ!」


 直後、ケインズは即座に1歩踏み込むと、至近距離から俺の腹を木剣ごと上下に両断せんとばかりに、斬りかかって来た。


「はっ!」


 それに対し、俺はすかさず木剣を大戦斧の軌道上から離脱させた。


 ザン!


 そして、甘んじて腹の両断を受け入れる。

 だが、ここで少し想定外の事が起きた。


「おお!?」


 なんと、ケインズは完全に大戦斧が腹に入った瞬間、勢いよく腕を振り上げたのだ。

 直後、俺の上半身は後ろ方向へ宙を舞いながら飛んでいく。


「考えたなぁ」


 確かに切断部位を離せば、切断された上半身と下半身を繋げるという方法で、即座に再生するのは不可能。

 だが、甘い。

 だって、その方法での再生は、あくまでもなんだから。


「はっ!」


 刹那、宙を舞う上半身だけの俺から、下半身が復元された。

 服までは再生出来ない故、視覚的に終わってるが、そこはすかさず《血殺武具ブラッド・ウェポン》で深紅の戦闘衣バトルクロスを下半身に纏わせる事で、事なきを得る。

 あ、何気に《不死の奇跡イモータル》以外の魔法使っちゃったな……まあ、これくらいならいいか。


「よっと。はあっ!」


 直後、俺は地面に着地すると、勢いよく地面を蹴って、ケインズとの距離を詰める。


「んぐ!? ――はあっ!」


 ここまで大きく再生するのは初めて見せたのもあってか、ケインズから同様の声が漏れた。だが、流石と言うべきか直ぐに反応してきて、俺の木剣に大戦斧を合わせてくる。


「はっ」


 それに対し、俺は冷静に木剣を傾け、大戦斧を受け流した。

 そして、今度こそケインズの両手をぶっ叩く。


「ぐうっ」


 大戦斧を合わせるのに精一杯だったケインズでは、その攻撃を防ぐ事は出来ず、痛みと衝撃で大戦斧を手放してしまった。

 こうなれば、流石に勝てる。

 俺はそのままの流れで、痛みで動きが鈍っているケインズの首へ剣を突き付けると、勝負を終わらせた。


「これで、終わりだ」


「ああ、だな……」


 ケインズは振り上げた拳をだらりと降ろすと、そう言って小さく笑うのであった。


 ◇ ◇ ◇


シャリア視点


「んー向こうもいい感じだな。期限日である今日、ちょうど終わりそうだ。ならこっちも、終わらせられるといいね。【矢よ、穿て。穿て、穿て】」


「くっ【魔力よ。氷の障壁をここに】」


 佳境に入るリヒトさんとグーラさんの戦闘を呑気に眺めながら、トランさんは魔力で出来た矢――《魔力矢マジックアロー》を上空へ無数に出現させると、一斉に私目掛けて放って来る。

 それに対し、私は半球状の氷の壁――《氷結障壁アイス・シールド》を展開し、それらを全て防ぎました。


「おー随分と仕上がって来たねっ! 【槍よ、穿て】」


 直後、私が飛来する《魔力矢マジックアロー》を防ぐ隙に紡がれた《魔力槍マジックランス》が斜め上空から、一直線に放たれた。


「はっ」


 それに対し、私は横へ大きく跳んで、回避する。


「当たら、ない」


 この戦いにおける私の勝利条件は、トランさんに一撃を与える事。

 たったこれだけの筈なのに、全然当たらない。

 トランさんが守りに特化した魔法師である事を差し引いても、これはBランク冒険者を逸脱しているとしか思えません。


「おいおい、弱気になったら駄目だぞ。リヒトの事、支えたいんだろ? 【矢よ、穿て。穿て、穿て】」


「っ――!」


 トランさんの言う通りです。

 リヒトさんのお陰で、今の私がある。リヒトさんが居なければ、私は自分の可能性にも気づかぬまま、無残に朽ち果てていた。

 恥ずかしくて、表立っては言えませんが――私はリヒトさんを支えたい!

 リヒトさんの夢を、応援したい!


「【氷の礫よ、彼方へ飛べ。穿て穿て】!」


 その想いを胸に、私は長杖を握り締めると、詠唱を唱えた。

 直後、杖先から放たれる無数の氷の礫。

 それは、飛来する《魔力矢マジックアロー》を正確に迎撃し、更に残った一部がトランさんに迫る。


「うおっと。【障壁をここに】――ここで覚醒って感じかな?」


 そうなるのは、さしものトランさんも想定外のようで、慌てたような声を上げる。

 ですが、即座に《魔力障壁マジック・シールド》を展開され、難なく対処されてしまいました。

 ですが、それは私にとって、想定の範囲内。


「【穿て】」


 私はその間に距離を詰めると、極限まで詠唱を短縮した《氷矢アイスアロー》を3本放ちました。


「なあっ!」


 魔法を発動した直後。詠唱は間に合わない。

 ですが、トランさんは長杖を振るって、2本の《氷矢アイスアロー》を叩き落しました。

 しかし、残りの1本が――


「なっ……」


 トランさんの頬を、掠めました。

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