第二十九話 1週間の鍛錬生活

 あれから、俺は来る日も来る日もグーラとケインズにフルボッ……鍛錬させて貰った。

 基本的には、午前中に前日の鍛錬の成果を発揮するような感じで金稼ぎを兼ねた魔物討伐をして、午後に鍛錬をする……といった生活の繰り返しだ。

 夜に直してはいるが、それでも一体どれほどの服を、駄目にしたのだろうか……


「はあっ!」


「狙いが甘い!」


 ――首チョンパ。


「はあああっ!!!」


「おっと。フェイントも――入れてみなっ!」


 ――首チョンパ。


 ……首だけでも、これまでで何回斬られたのだろう?

 20を超えたあたりから数えるのを止めたから、もう分かんないや。

 だが、俺はその都度的確に言われる2人の指摘を、全て取り込もうと躍起になった。

 全ては、俺の”憧れ”を”現実”にする為に――


「さてと。最初と比べると、だいぶ辛くなってきたなぁ……。いやーお前は本当にタケノコみたいに良く伸びる」


 グーラは大剣を構えると、感慨深いとばかりにそう言った。


「もっと、もっとだ。俺はグーラもケインズも超えて、Sランク冒険者になる!」


 そんなグーラに対し、俺はそう言うとを構えた。

 俺が真剣では無く木剣を持っている時点で、彼我の戦闘能力がどこまで縮んだのかは明白だろう。

 まあ、冷静に考えれば、純粋な素の身体能力は肉体改造している俺の方が上。なら、この勝負は順当に行けば、最初から勝つのは俺だったはず。

 だが、技量と経験。この2つの差によって、俺は負け続けていたのだ。


「……不思議だ。何故か、負ける気がしない」


「はっ。それで負けたらくっそ恥ずかしいぞ?」


 俺の呟きに、グーラはそう言って俺をからかう。

 そんなグーラに、俺は「それもそうだな」と肩を竦めると、グーラを正面から見据えた。


「はっ!」


 そして、突貫する。

 まず狙うのは、大剣を持つ手。


「おらあっ!」


 グーラの間合いに入った瞬間、横なぎに振られる大剣。

 俺はそれを寸での所で屈んで躱すと、手目掛けて木剣を振り上げた。


「はっ はあっ!」


 だが、グーラはそれを読んでいたかのように小さく後ろへ跳んで躱すと、それによって生まれた時間を利用して、素早く大剣を引き戻す。

 そして、屈んでいる俺の脳天をカチ割らんとばかりに振り下ろした。


「はあああああっ!!!!」


 それに対し、俺は木剣の柄から左手を離すと、振り下ろされる大剣に向かって伸ばした。


 ザン!!!


 直後、耳に流れ込んでくる斬撃音。最近飽きる程聞いてきた、人の肉や骨が切断される音だ。

 だが、俺はただ左腕を斬らせるのでは無く、これまでの経験を上手く活用して斬らせる事で、大剣の軌道を大きく逸らした。


「はあっ!」


 そこに、俺は大剣の軌道を逸らしながら準備していた木剣を斜め上方向に振り上げた。

 狙うは当然、大剣の柄を握る両手。


「おおおうっと。はああっ!」


 直後、グーラは寸での所で大剣を手放し、後ろへ跳ぶ事で躱した。

 だが――それは想定内だ。


「はああっ!!!!」


 俺は勢いよく地を蹴ると、後ろへ退いたグーラを間合いに居れた。

 そして、先ほどの攻撃で振り上げた木剣を、斜め下方向へ横なぎに振るう。


「ぐはっ!」


 直後、強烈な一撃が右脇腹に入り、グーラはドンと手と膝を地に付けて、四つん這いになった。


「これで、勝負あり……だな」


 流石にここまでくれば、強化魔法を使っていないグーラでは、どうしようも無い。

 俺は勝敗が付いた事を明確に示すべく、木剣をグーラの首に突き付けた。


「……もうちょっと、やれると思ったんだが……こんなあっさり決まるとは……てか、普通に痛いな……」


 勝敗が付いた直後、グーラはそう言って、痛そうに右脇腹を手で擦る。

 木剣とは言え、全力で振ったからな。俺って見た目以上に力あるし、もしかしたら肋骨が折れているのかもしれない。


「一応、やっておくか。【魔力よ。我が願いに応え、生命へと干渉し、復元し、再生せよ。あるべき姿へ帰せ】」


 そう言って、俺は《超回復ハイ・ヒール》をグーラに使った。

 すると、骨が癒えていく感覚を、感じる事が出来た。どうやら予想通り、本当に折れていたのか。


「何となく、負ける気してたんだよなぁ……。だってお前、不死身だし。ある程度上手くなったら、あの戦闘条件じゃどうやっても、勝ち目無いし……」


「おい、唐突に弱気になるなよ、グーラ。負けた後にそれ言ったら、負け惜しみにしか見えんぞ?」


 すくりと立ち上がりながら愚痴を零すグーラに、背後からやれやれと苦言を呈するケインズ。


「だがよ~。ちゃんとした技量と経験を身に着けたこいつに、負けるビジョンはともかく、勝つビジョンは全然見えなくね?」


「まあ、否定はしない」


 そんなケインズに、グーラは問いを投げかけた。

 それに対し、ケインズは嘆息しながら、しぶしぶといった様子で頷く。

 確かに、俺は魔力が尽きない限り、基本死なない。だから、ある程度力を付け、まともな戦いが出来るようになった今なら、最低でも負ける事は無くなる。

 それは、前々からずっと思っていた。

 まあ、冒険者になる前の俺はその事について、随分と甘く見ていたんだけどね……


「……さてと。まあ、グーラを倒せたからと言って、俺もやすやすと倒せるとは思わない事だな。さあ、いつでも来い」


 その後、ケインズはそう言って大戦斧を手に取り、構えた。


「よし。やるかっ!」


 そう言って、俺も木剣を構えると、大地を勢いよく蹴るのであった。

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