第二十七話 化け物だああああ!!!!!

「おー痛てて。……うえ、地味に深いなーこの傷」


 戦闘後、大戦斧を地面に降ろしたグーラは、血が噴き出る左腕を見るや否や、そう言って顔を歪める。


「頑張って避けろよ、グーラ」


「いや、リヒトの戦い方って普通じゃねーじゃん。首斬ったら、普通は無意識に殺ったと思って、そいつへの警戒を解いちゃうんだよ!」


 やれやれと言いながらため息を吐くケインズに、グーラは傷口を右手で塞ぎながら、ケインズへ文句を言い放つ。

 まあ確かに、俺は普通の人間とは少し違うからな。

 戦闘力はまだまだ弱いが、その一点に関しては、十分強いと自覚している。

 すると、左腕を抑えるケインズが、俺の方を向くと声を上げた。


「すまん、リヒト! ちょっとこの腕治せるか?」


「ああ、それぐらいなら問題ない」


 グーラの問いに、俺はそう言って頷くと、グーラの下へ駆け寄った。

 そして、《超回復ハイ・ヒール》を唱えて綺麗さっぱり完治させる。


「おー凄いな。流石の回復魔法」


「まあ、自己回復魔法に特化させ過ぎているから、技量に対する効果は低いけどね」


「あーやっぱそんな感じの事してんだ」


 どうやらグーラは今の言葉で、俺が特化させる用の魔法陣を身体に刻んでいると見抜いたようだ。流石、Bランク冒険者って所なのだろうか。


「……1つ疑問に思ったのだが、Sランク冒険者になりたいのであれば、回復術師になった方が良かったのでは無いか? その方が、多分確実だと思うのだが……」


 直後、唐突にケインズから正論が飛ばされた。

 その正論に対し、俺は真っ向からケインズを見据えると、口を開く。


「俺は、あの日見た憧れ――ロバートさんのようなSランク冒険者になりたいんだ。自ら剣を振って、強大な魔物を倒すようなね」


 俺は、ロバートさんのように自分で強大な相手と戦えるSランク冒険者になりたいんだ。そしてそれが、俺の原動力なんだ。

 14年間、それの為に突き進んできたんだ。

 今更それを曲げるだなんて――絶対にしたくない。


「……そうか。眩しいな」


「だな。これだから、応援したいって思ったんじゃないか」


 俺の、決意を全力で込めた言葉に。

 グーラとケインズは、まるで眩しいものを見るかのような目で、俺を見ながらそんな言葉を漏らした。

 ……そんな目で見られるの、なんか……恥ずかしいな。


「……と、取りあえず今のはどう?」


 羞恥心を思いっきり中へと飲み込んだ俺は、2人に問いを投げかけた。

 すると、「そうだなそうだな」と言いながら、グーラが口を開く。


「まず、注意された所を直ぐに直そうと積極的に動いたのは、マジでいい。実際、それで腕を斬られちまったからな。ただ、やっぱ未熟っつーかなんと言うか……とにかく色々、詰めが甘いって感じか?」


「概ねそんな感じだろう。色々と、技量が足りず、経験も足りず……。まあ、新人冒険者なら足りなくて当然だが、お前が目指しているのは化け物揃いのSランクだ。この1週間で、《不死の奇跡イモータル》込みの戦闘でいいから、俺らを超えろ。出来なきゃ、お前はSランク冒険者になれないだろうなー?」


 そして、補足するようにケインズがそんな言葉を口にした。

 そうか。超えろ……か。

 出来なきゃ無理……か。

 いいだろう。絶対に超えてやるよ!


「ああ。……それで、この鍛錬の鍵となって来るのがお前の回復魔法なのだが……どれぐらい魔力が持つんだ? 結構大事だから、ここで教えて欲しくてな」


 思いっきり意気込み、さあ今すぐやろう!って感じになっていたら、突然ケインズからこんな問いを投げかけられた。

 ああ、そうか。確かに魔力が切れちゃったら、使えなくなってしまうな。

 だが、この鍛錬においてそれを心配する必要は無いと思う。


「普通の回復魔法はものにもよるが、3日間ぶっ通しで使い続けたら流石に枯渇しちゃうけど、《不死の奇跡イモータル》なら1か月は使い続けられる。これ、結構最適化したからさ」


 そう。俺はもともとの才能に加え、魔力量を増やす鍛錬と改造をしまくったんだ。

 その結果、Sランク冒険者を目指す者として恥じない程の、莫大な魔力量を獲得したんだ。

 因みに余談にはなるが、シャリアはこのまま鍛え続ければ、4年ほどで俺の魔力量を超えると思う。普通にエグい。

 そんな事を呑気に思いながら、俺は2人に視線を向けた。

 すると、その2人は目を見開いたまま、絞り出すように言葉を紡ぐ。


「え……もしかしなくてもお前、相当魔力持ってんの?」


「ああ。そりゃ、Sランク冒険者を目指すのに欠かせないものだからな。抜かりなく鍛錬したよ」


 まず紡がれたグーラの問いに、俺はさも当然の事のように頷く。


「因みに、直近の魔力測定は何色?」


「えっと……出発前にしれっと測ってて、黒紫色だった」


 続いて、ケインズの問いにも答える。

 そうそう。魔力測定とは、その名の通り魔力量を測定する検査の事で、上から順に、


 黒色

 紫色

 青色

 緑色

 黄色

 赤色


 ……と、なっている。

 それで、俺は黒紫色だから、黒と紫の間って感じだな。

 すると、「すー……」と、息を吸うような音が2人から聞こえて来た。


 直後。


「「化け物だああああ!!!!!」」


 なんか失礼な言葉を叫ばれた。

 酷い。

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