第二十六話 欠点を踏まえてグーラと戦闘

「さてと。次は俺の番でいいか?」


 立ち上がり、剣を拾うと、今度はグーラが前に出て来てそう言った。


「ああ、そうだな。だが、お前は地味に甘いから、気持ちやりすぎなくらいでやった方が、リヒトの為だぞ?」


「んあーだけどな。そんな、お前みたいに躊躇なくやれねぇって……。まーやるけどよ。さっきの見ちまったら、躊躇は必要ないって分かったし」


 そして、ケインズの助言に後ろ髪を掻きながら頷くと、背中の大剣を抜き、両手で構えた。


「取りあえず、見てて思ったが、お前はあの化け物じみた回復魔法持ってんのに、戦闘に限って俺たち以上に傷つくのを恐れんな。あ、傷つく事を前提に動くのは駄目だから、そこんとこ間違えんなよ。そんで、あれに頼り切りになりたくないって気持ちは分からなくも無いが、それはちゃんと動けるようになってからだ。今は、あの魔法を鍛錬を効率的にやる道具として使え」


 俺の内心を見抜いた言葉に、俺は若干目を見開く。

 凄いな。言ってないのに、動きだけでそこまで分かっちゃうのか……

 いや、俺が分かりやすい人間なだけなのだろうか?

 まあ、そこについて考えるのは不毛だな。


「ああ、分かった。――やるよ」


 そう言って、俺は剣を両手で構える。

 今、ケインズとグーラから与えられた有益な助言。

 これを最大限自身の動きに反映すれば、確実に強くなれる筈!

 よし。そうと決まれば――早速実戦だ。


「はあっ!」


 俺は早速地を蹴ると、今度は正面からグーラに向かって突撃する。


「ほう……」


 そんな俺に対し、グーラはそんな声を漏らすと、大剣を少し右斜めに傾けた。

 こうなると、左側に行きたくなるのが俺だが――ここはで行こう。


「はっ!」


「甘い!」


 相手の間合いに入った瞬間、俺は左側へ1歩前進した。

 直後、左側へ振られる剣を視界に収める――が、即座に身体の向きを反転させると、姿勢を低くし、グーラの懐へと突き進んだ。


「おうっと」


「がっ!」


 だが、視覚外からの回し蹴りを喰らい、俺は後ろへ飛ばされてしまった。


「ほーあの一瞬でよく考えたな。だが、ちと視野が狭いってもんよっ!」


 そして、そんな俺に追撃とばかりに大剣を構えながら距離を詰めて来た。

 速い。

 俺は顔を歪めながら、すかさず大剣を受け流す。


「おーやれるじゃん!」


 だが、それでもグーラは直ぐに対応してきた。

 一方、グーラの大剣を受け流す事だけに意識が向いていた俺には、その対処は不可能だった。

 結果――


 ザン!


 寸での所で逸らしたとは言え、右脇腹をやや深めに斬られてしまった。


「はあああっ!」


 だが、俺は痛みに屈しない――というか、屈しようが無い。

 俺は斬られた事を無視して、グーラに斬りかかった。


「うお!? ……っと。さっき見たより対処速いな~」


 この対応速度は想定外だったのか、グーラは目を見開きながら勢いよく後ろへ跳んだ。

 そんなグーラの装備を見ると、僅かに新たな傷があるのが見える。どうやら今の一撃は、ちゃんと届いたようだ。


「いいな――」


 気付けば、俺は再び突撃していた。

 怪我する事を前提にした動きはやりすぎれば読まれやすい――故にやらない。

 だが、怪我する事を恐れず、躊躇の無い動きをするのは、実に効果的なんだ!


 キン!


 直後、大剣と剣がぶつかり合う。


「っ――そうだよ。飲み込み速えぇなぁ!」


「ぐっ!」


 強化魔法無しの、純粋な力勝負なら、ぶっちゃけ肉体改造をしている俺に分がある。

 それなのに、上手くバランスを崩され、後ろへ弾き飛ばされてしまった。

 やはり、技量と経験が俺には無さ過ぎる。

 だがな。


「それは――手にすればいいんだ!」


 俺は、追撃を仕掛けようと急接近するグーラを、真っ向から迎え撃つべくちょっと強引に剣を構えた。そして、相手の大剣の動く方向をこの眼でよく観察しながら、上手い事大剣の側面を打てるように狙いを定め、横なぎに振るった。


「おっと。流石にそりゃ視線が――露骨過ぎ!」


 だが、グーラはそれを読んでいたかのように、すっと流れる様な動作で後ろへ身を引いて、俺の剣を躱した。そして、俺の剣が空を斬った直後、即座に肉薄すると、大剣を俺の首目掛けて横なぎに振るった。


 ザン!


 そんな音を立てて、宙へ浮く俺の首。

 まあ、次の瞬間にはシュルリと元あった場所へ戻り、くっついたけど。


「はあっ!」


 そして、逆に攻撃動作直後のグーラ目掛けて、隙を突くとばかりに剣を振り下ろした。


「ぐおっ!? ……っと。えげつねーな。それ」


 グーラは寸での所で身を引いたが、流石にこの距離で避けきれる筈も無く、左腕から血を噴き出させた。


「はっ!」


 ここでやめるな。動きを止めるな。

 俺は即座に次の行動へと移り、躊躇なく剣を振るう。


「なんで俺になった途端、こんな容赦ねーんだよっ!」


 キン!


 そして、再び大剣と剣がぶつかり合う。

 だが直後、グーラが予想外の行動に出た。


「よっと」


 なんと、その状態で大剣を手放したのだ。

 そして、手放した大剣を避けるかのように姿勢を低くすると、俺の懐へと素早く潜り込む。


「やば――」


 俺はすかさず身を引こうとしたが――間に合わない!


「はあああっ!」


「がっ!」


 直後、顎に強烈な裏拳が襲い掛かった。

 不安定な姿勢だった事もあってか、俺はその衝撃で後ろへと体を崩す。

 その隙に、グーラは畳みかけるようにして俺の首を握り締めると、ケインズと同じように、思いっきり地面に叩きつけた。


「がはっ」


 剣は手放さなかったものの、肺の空気を思いっきり吐き出される。


「お前の場合、終わりの基準が良く分からんのだが……まあ、取りあえずこれで終わりだ」


 そう言って、グーラは俺の首から手を離すのであった。

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