第二十五話 若干のスパルタ教育

 酒場で楽しく昼食を取った俺たちは、冒険者ギルドを出ると、東門へと向かった。

 そして、門を潜って街の外に出ると、そこから以前シャリアと鍛錬をした辺りまで足を運ぶ。


「……よし。ここら辺なら、邪魔にはならねぇだろ」


 辺り一面平原のこの場所で。

 グーラは立ち止まると、そう言って俺たちの方を見た。


「そうだな。この前シャリアと鍛錬した時も、この辺だった」


 俺はシャリアと共に周囲を見渡しながら、そう言って頷く。


「お~ちゃんとここで鍛錬してたの、いいね。……ったく。最近の若者はよぉ、すーぐ魔物と戦いたがるんだ。で、死ぬっていうね」


「いや、トラン。俺らまだ20代だから若者だろ……」


「グーラ、現実を見ろ。後少しで30代――世間一般では、もう若者では無いのかもな」


「おい、ここで現実押し付けて来るなよ……」


 トランの言葉にグーラがツッコミを入れ、そこにケインズが肩をポンと叩きながら現実を突き付ける。

 なんかよく分からないけど、楽しそうだからいいか。


「ま、まあ、取りあえずだ。俺とケインズはリヒトを鍛える。で、トランがそっちの嬢ちゃんを鍛える。俺らの経験を踏まえた実戦重視のやり方で、鍛える期間は……まあ一先ず1週間ぐらいで」


「ま、妥当だね~」


 急な話題転換をするかのように咳払いをしてから、簡単な予定を説明してくれるグーラと、頷くトラン。


「ああ、分かった。よろしくお願いします」


「はい。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします」


 そして、俺とシャリアはそう言って頭を下げた。

 すると、前方から「シャリアちゃん、すっごいカッチカチの言葉で、俺ついていけねぇ……」とか、「それには同意するが……まあ、美少女相手ならやれるだろ」てな感じのひそひそ声が聞こえて来た。

 まあ、シャリアの言葉遣いは冒険者にしては丁寧過ぎるし、そう思うのも無理ないよね……


「おし。そんじゃ、早速やるか。……が、その前にちょっと離れるぞ」


 そう言って、グーラとケインズが歩き出した。


「あ、シャリア。頑張れよ!」


「はい。リヒトさんも、頑張ってください」


 別れ際、俺はシャリアにそう言ってから、俺は背を向け、2人を後を追うのであった。


「……よし。この辺でいいだろう」


 100メートル程歩いた所で、グーラは立ち止まるとそう言った。

 そして、続いてケインズが口を開く。


「取りあえず、具体的に何をやるかだが……まあ、俺たちと交互に強化魔法無しの模擬戦だ。それで、お前の弱点を徹底的に直す。理論的な説明は、あまり得意では無いからな」


「いや、お前は教えるの結構上手いだろ? 頭良いし」


「はいはい分かった分かった……まあ、一先ず俺と戦え。あの化け物じみた回復魔法があるから、手加減はするが躊躇は一切しないぞ?」


「分かってる」


 ケインズの詳しい方針に、俺はそう言って頷く。

 うんうん。躊躇されないのは、俺としてはありがたい。

 だってそっちの方が、絶対強くなれるからね!


「じゃ、構えな」


 そう言って、ケインズは背中から大戦斧を取り出すと、両手で構えた。

 直後、ピリピリっと空気が弾けたような感じがした。

 普段陽気な雰囲気を醸し出しているケインズだが、この時ばかりはBランク冒険者としての存在感を、これでもかって程感じられる。


「ああ」


 俺は短く答えると、腰から剣を抜いた。

 極々普通の、一般的な長さの剣だ。

 俺はその柄を両手でしっかりと握り締める。


「んじゃ、基本的にリヒトの方から来い」


「分かった。――はあっ!」


 俺は即座に地を蹴ると、右下段から振り上げるようにして、ケインズに斬りかかった。


「甘い!」


 だが、逆手に構えられた大戦斧の斧部分に引っかけられるような形で、防がれてしまう。


「はあっ!」


「ぐっ!」


 直後、そのまま勢いよく大戦斧を振り上げられ、俺は後方に弾き飛ばされてしまった。そして、その隙を突くかのように、大戦斧を構え直しながら俺へと急接近してくるケインズ。


「ぐっ はあっ!」


 それに対し、俺はすかさず剣を構え直すと、左側から横なぎに剣を振るった。だが、それは虚しく空を斬ってしまう。


「焦るな!」


「ぐっ」


 やばい……と思ったのも束の間。

 俺の頭部が、上下半分に両断されてしまった。


「はっ!」


 だが、退くわけにはいかない。

 俺はすかさず《不死の奇跡イモータル》で再生すると、そのまま攻撃直後のケインズへ肉薄した。

 そして、剣を振り上げる――が。


「おらぁ!」


「がっ……!」


 今度は鳩尾に強烈な膝蹴りをお見舞いされ、俺は肺の空気を吐き出されながら、再び後方に吹き飛ばされた。


「がっ!」


 そして、飛ばされ空中に居る状態で俺は首を掴まれると、地面に思いっきり叩きつけられ、その衝撃で剣を手放してしまった。

 痛みは、一定以上の痛覚はほとんど感じないように身体を弄っているが故に無かった……だが、

 恐らく、視覚情報から、そう感じてしまったのだろう。

 そうして、自分でも驚く程、冷静に分析する中、俺の首から手を離したケインズが口を開いた。


「今ので分かった。お前は戦い方を知識として知ってるだけで、ほとんど身に着いてない。搦手にも弱い。視野が狭い。前動作が大きすぎる。だがまあ、やり続けるぞ。知ってるのなら、後はそれを引き出せるように、ひたすら殺し続ければいいだけだからな」


「お~怖いなーあいつ。まあ、叩いても叩いても死なないから、やりがいはあるんだろうなぁ……」


 中々怖い事を言うケインズと、呑気にそんな事を言うグーラ。

 いやはや、まさかここまでやって来るとは……

 だが、それは――


「凄く、いいな」


 俺は嗤った。

 さあ、これからも容赦なくやってくれ。

 弱い俺を殺してくれ。

 俺は強くなりたいんだ。

 Sランク冒険者になりたいんだ。

 そんな思いを胸に、俺はゆっくりと立ち上がるのであった。

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