第二十四話 思わぬ提案と初酒場
「いい……のか?」
ややあって、俺は言葉を絞り出した。
すると、言い出しっぺのグーラが、トランとケインズの2人に視線を向け、俺には分からないアイコンタクトを取ったような気がした。
それに対し、2人は揃って小さく頷く。
「だが……俺に返せるものないぞ? 足りない装備とかをちょくちょく揃えているせいで、まだ金欠だし……」
「無償で私を助けたリヒトさんが、それ心配するんですね……」
そんな彼らにそう言うと、横からシャリアの呆れたような声が聞こえてきた。
いやーそれは逆に心配するのが俺ってものなんだよ……
すると、グーラが口を開く。
「別にいいって。そもそも俺らは趣味でやってるようなものだからな~」
「ああ。一応Bランク冒険者だからな。これでも昔は色々頑張ってたんだが……頭打ちして、気が付きゃ確実に達成できる依頼で、それなりの金を得る、冒険者(笑)な生活になっちまたんだ。だから……何と言うか、手ぇ貸したくなったんだよ」
「やめてくれ、ケインズ。その言葉は俺に効く」
グーラの言葉にケインズが補足説明をし、そんなケインズの言葉に頬を引き攣らせるトラン。
どうやら彼らも、相当苦労していたんだなぁ……
「ま、そーゆー訳だ。俺ら全員、才能はちょっとある程度だが、ひよっ子に教えるだけなら朝飯前だぜ? ……あ、そっちの嬢ちゃんにも教えるぞ……トランが」
「俺かぁい!」
そして、最後にグーラが締めの言葉を言い、そこにトランがツッコミを入れた。
うん。俺としては、正直対価を払ってでもこの教えは受けたいものだ。
Sランク冒険者を目指す者として、現役の高ランク冒険者から直々に教えてもらうという事は、とても大きな意味を持つ。
「……俺は是非受けたいんだが、シャリアはどうしたい?」
「そうですね……。私も、彼らのご厚意に甘えさせていただこうかと思います」
どうするか、シャリアに話を振った所、シャリアはほんの少しだけ顎に手を当てて悩んだ後、丁寧な言葉遣いでそう言った。
よし。シャリアも頷いてくれたのなら、グーラたちに言う事は1つだけだ。
「うん。そのお誘い、是非受けさせてください」
俺は丁寧な口調で、彼らに答えを告げるのであった。
すると、トランが真っ先に口を開く。
「あははっ そーんな硬くなるなって。精々こいつら2人から、何もかも搾り取ってやれ」
「おい。お前、必然的にそっちの嬢ちゃん担当になるからって、ひでぇ言い草だな」
笑いながらそんな事を言うトランに、なんだよこいつはとでも言いたげな様子で、抗議するグーラ。因みにケインズはため息を吐いていた。
「じゃ、そうと決まれば早速……と、言いたい所なのだが、そっちって依頼とか終わってるのか? 終わってないんだったら、そっちを優先しなきゃだし」
その後、グーラがこちらを気遣うようにそんな問いを投げかけてきた。
「いや、今日……というか、ここ最近はずっと常設の魔物討伐の依頼しかしていないから、いつでも帰れるよ……そうだよな?」
「そうですね。ここに来る過程でそれなりに稼ぎましたし、問題ありませんね」
グーラの問いに応えながら、俺は途中でシャリアに話を振った。
すると、シャリアはこくりと頷いて、そう言う。
「そんじゃ、戻るか。ギルド行って、昼飯食ったら、東の平原に行くぞ」
グーラの言葉に俺たちは小さく頷くと、テレンザへと向かって一直線に歩き出した。
そうして、グーラたちが居るお陰もあってか、なんの問題も無くテレンザへと戻る事が出来た俺は、冒険者ギルドに入った。そして、そこで手早く魔石を換金すると、グーラたちに連れられ、冒険者ギルドの酒場に腰を据える。
「ここの……ってか、酒場全般が初めてだな」
「そうですね。互いに良い思い出がありませんし……」
「だね」
俺とシャリアにとっては、初めてとなる酒場。
いやまあ、仕方ないじゃん。
俺は初日に酒場に居た面倒な奴に絡まれたし、シャリアもシャリアで以前酒場で似たような事があったらしいからさ。
他に選択肢が無いのならともかく、いくつも選択肢がある状況で、わざわざ酒場を選ぶ理由が無かったんだよね……
確かに価格は結構良心的だけど、同じぐらいのやつが、当然他にもちらほらあるし。
すると、全てを察したかのようにグーラが「あー……」と、声を漏らす。
「なるほどな。そりゃまあ、災難だったな」
「まー……仕方ないよね。あれは」
「まあ、その様子なら、なんとか解決出来たのだろう」
3人から同情の眼差しを受けて、俺はあの日の事を思い出し、「はぁ」と軽くため息を吐く。
「ま、冒険者だったら細かい事に一々悩んでないで、飯だ飯」
「まあ、割と正論だな」
グーラの言葉に俺は小さく頷くと、カウンターの上にあるメニュー表を眺め、何を頼むか決める。その後、店員を呼ぶと、俺たちはそれぞれ品を注文した。
そして数分後、注文の品が運ばれてくる。
「はいよ、ごゆっくり」
勝気そうな女店員がそう言って、テーブルに品を置いていく。
「お、来た来た」
俺は自身の前に置かれた、酒とするめ、4本の串焼きを見やると、少し笑みを浮かべてそう言った。
いやーやっぱ酒場といったらこれだよね。
「ん? ……リヒトさんって酒を嗜まれるのですね。それも、相当度数の高いものを。てっきり、好みでは無いのかと思っていましたので……」
すると、俺の横に座るシャリアが、心底不思議そうに問いを投げかけてきた。
「ああ、そういや冒険者になってから飲んでなかったな。実際の所、気分転換みたいな感じで、たまに飲むって感じだ。度数が高いのは……まあ、諸事情でね」
「ああ……それはまた……凄い、ですね」
俺の返答に、シャリアは何かを察したかのように言葉を濁してそう言った。
まず、俺は害が出ない程度の肉体改造を施している。その結果、毒にも耐性があり、その毒にアルコールも該当してしまうんだ。そして、そこに《
なるべく美味しく飲めるように《
因みに、後悔は一切していない。
結局優先するのは、Sランク冒険者になるという夢なのだから。
「ま、折角だ」
すると、グーラがそう言って酒が入ったジョッキを掲げた。
それを見て、何をするのか察した俺たちは、皆それぞれ酒なり水なりが入ったジョッキを掲げる。
お、シャリアもこれに乗るんだ。ちょっと意外かも。
「……んじゃ、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
そして、皆でジョッキをぶつけて恒例の乾杯をするのであった。
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