第二十三話 オリジントレント
グーラを筆頭に、ついさっきまで恐れ慄いていたトランとケインズまでも、武器を構えながら険しい顔で辺りを見回していた。
「ん? 目を付けられたとはどういう事だ?」
グーラのイマイチ要領を得ない言葉の真意を知るべく、俺はそんな問いを投げかけた。
すると、ケインズが代わりに口を開く。
「”魔の森”には世界で3体しか確認されていないSSSランクの魔物が居るってのは知ってるだろ? そいつに目を付けられたんだよ」
「ああ、そう言う事か……」
ケインズさんの言葉で、俺は全てを理解した。
「えっと……すみません。リヒトさん。何が起きているのでしょうか……?」
だが、シャリアは知らないようで、グーラたち3人の表情も相まってか、不安そうな顔でそう問いかけてくる。
「ああ。まず、ここ”魔の森”の最深部には、樹木に擬態して生物を襲うトレント種の頂点、SSSランクの魔物――オリジントレントの本体があるんだ。で、そいつはそこを起点に数多の根を伸ばしているのだが、その内の何本かが俺たちに目を付けたって訳」
「SSSランク……! そ、それは流石にマズいのでは……?」
SSSランクの魔物に目を付けられたと言われ、流石のシャリアも動揺する。
だが、俺はそんなシャリアを落ち着かせるように、言葉を続けた。
「いや。ただ無意識的に伸ばしている根なら、そこまで強くはない。ここは最深部から相当離れているから、余計にだ」
「そうそう。ま、直接相対しちまったら、終わりだけどな」
俺が補足説明をし、そこにトランがついでとばかりにそう言った。
「そうですか……。ありがとうございます。分かりました」
俺の説明を受けて、大丈夫だと分かったのか、シャリアは安心したように息を吐いた。
すると、グーラが声を上げる。
「とは言っても、Bランク並みの強さはあるから気を付けな――来るぞ!」
直後、前方の地面から5本の木の根が飛び出してきた。
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
飛び出てきた木の根は、まるで蛇のように動きながら、俺たちに向かって襲い掛かって来る。
「【炎を纏え】――おらあああ!!!!」
直後、炎を纏わせた大剣をグーラが横なぎに振るい、3本を燃やしながら切断して見せた。
「【障壁をここに】!」
次に、残る2本をトランが結界魔法で完璧に防ぐ。
「おい、お前らも合わせろよ! ――はあああああ!」
そして、最後にケインズが思いっきり大戦斧を振り下ろし、残る2本を中ほどから切断した。
「よし――」
ここで指を咥えてみているようでは、冒険者を名乗る事すら出来ない。
俺は剣を構えると、ケインズが攻撃した直後に前へ出た。
「はあああっ!!!!」
そして、更に根っこを斬り刻む。
「【――押し流せ】【魔力よ。水を凍らせよ】」
直後、俺の背後から激流が襲い掛かって来たかと思えば、5本の根っこを絡めとった。その後、根っこを飲み込んだ水はそのまま凍り付き、根っこ全体に大きなダメージを与えて行く。
「上出来だ!」
すると、大剣に炎を纏わせたグーラが声を上げながら1歩前へ出た。
そして、凍り付いた根っこをズバズバと斬り刻んでいく。
凍らせた後に焼かれ、根っこはその温度差もあってか、へなへなと力ない動きに変わっていく。
「はああああっ!」
そこを、俺が更に斬り刻んだ。
すると、僅かに残っていた根っこの下部分が、シュルシュルと土の中へと戻って行った。そして、それに伴いあのぞくぞくっとした嫌な感覚も、消滅した。
「やったか?」
眼前から完全に消えたのを確認してから、俺はそう声を上げた。
すると、「おいおい、フラグって言うんだよそれ」とからから笑うトランにため息を吐くケインズが、大きく頷いた。
「ああ。今度こそ、完全に退いただろうな」
よしよし。ケインズが言うのであれば、まあ確実だろう。
ふと、シャリアの方に視線を向けると、シャリアは杖を両手で握りながら、こくりと頷いた。因みにこのやり取りに意味は無い。
「いやーにしても、リヒト。お前、中々動きいいじゃねーか。ちと、単調過ぎる気がしなくも無いがな」
「あーやっぱりそう思うよなぁ……」
グーラの弱点を意図せず当てられた俺は、肩を落としながらそう言葉を漏らした。
後方から「また落ち込んでる……」って声が聞こえてくる中、今度はケインズが口を開く。
「それは俺も思った。確かお前、Sランク冒険者にマジのマジでなる気なんだろ? あの時の気迫を見れば、それが本物だって事はよく分かった。だからこそ言うんだけどよ……今のままじゃ無理だぜ? Bランクまで登り詰め、頂点に立つことを諦めた俺たちが保証する」
「おいおい。勝手に俺も巻き込むなよ~」
ケインズの言葉にトランが笑う中、俺は内心でより深~くため息を吐く。
確かに俺って実戦になるとすぐ単調になっちゃうし……そもそも俺の剣術って、誰かに教わったやつじゃ無くて、教本読んで後は見様見真似だし……
すると、グーラが思わぬ提案を持ちかけてきた。
「ならさ。俺らが教えてやるよ。戦い方を」
その問いに、俺は思わず目を見開くのであった。
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