第二十二話 俺の魔法とは、こういうものです

「何者ですか?」


「あー落ち着け、シャリア。知り合いだから」


 杖を微妙に構えながら、胡乱げな目で3人を見やるシャリアを、俺はまあまあと手で制すると、口を開いた。


「久しぶり……だな。なんで、そこからずっと見てたんだ?」


 隠れてこそこそ見ようものなら、賊に間違えられて攻撃される可能性があるぞと言外に告げながらそう問いかけると、グーラがどこか気まずそうに後髪を掻きながら口を開いた。


「いやー……単純に、認識阻害の魔法を使っておけば、新人のお前らにはバレないだろっ……て、思いまして……はい。すみませんでした!」


「「すいませんでした!!」」


 そして、頭を下げられた。


「あ―……まあ、分かった。許すよ」


「悪意は感じませんし、リヒトさんがそう言うのであれば、一先ずは信用しましょう」


 まあ、悪意は無かったっぽいし、そんな彼らを下手に糾弾したく無いと思った俺は、恥も外聞の無く謝る彼らに何とも言えない視線を送りながら頷いた。そして、シャリアは丁寧な口調で、俺に分かる程度の警戒心を漏らしながらそう言う。


「ああ……いや、本当にマジで悪いな。それで、こんな事聞くのはあれなんだが……よく気付いたな? 認識阻害した俺らに」


「いや、単純にここへ向かう君たちを、戦闘開始直後にチラッと見てただけだよ。その時は、認識阻害されて無かっただろう?」


 ケインズの問いに、俺がさも当然の事のように答えると、3人は揃って「ああ~……」と、納得したように言葉を漏らした。

 すると、ここでグーラがふと恐ろしい事を思い出したかのように口を開く。


「リヒト。お前さ、さっき思いっきりフォレストウルフに左腕喰われてなかったか? あと、そこの嬢ちゃんに背中から撃たれてたよな? 見るからにヤバい筈なんだが……な、なんで血が一滴も付いてないんだ……?」


「そ、そうそう。危ないお薬、やってたりすんの?」


「おい、トラン。……まあ、そういう訳でな。実を言うと俺たちがお前らを見ていたのも、いざとなったら助けようと思っての行動だったんだ。まだ新人のお前が、Cランクのフォレストウルフと戦うのは、流石にキツ過ぎると思ったからな。それで、見てたら、なんかヤバいのを見てしまったと……」


 そして、トランとケインズもグーラに続けてそんな事を言った。

 あーなるほど。《不死の奇跡イモータル》を見たって訳か。

 まあ、Sランク冒険者を目指していれば、どうやってもこれだけはどの道知られてしまう事だし、隠す必要は無いか。

 勿論、奥の手とかはちゃんと隠すけどね。それは、自分の身を守る事に繋がるから、割と徹底してる。


「ああ。それは俺が作った魔法、《不死の奇跡イモータル》で即時治癒したからだ。俺が思いつく限りの傷は、全部治せると踏んでいる」


「へーそりゃまた随分と、大きく言うもんだなぁ」


「それで、喰われた腕を治したって事か」


「さらっと魔法作ったっていう地味に凄い事やってんなぁ。あれ、大抵の奴は基礎魔法の劣化になるって言うし」


 俺の言葉にグーラは感心し、トランは納得。知識人のケインズは自身の知識を踏まえて、そんな事を言った。こうして自分の努力の結晶が褒められると、なんだかいい気分がするな。

 村では、あまりこういうの無かったからさ。まあ、ずっと引き籠ってた俺のせいでもあるんだけど……


「へーならさ。ちょっと実演して見せてくれよ?」


 すると、グーラがいきなりこんな事を言い出した。その言葉に、トランとケインズも興味深げな表情で、俺の方を見てくる。

 ここで、俺はちらりとシャリアの方を見てみると、なんかため息を吐かれてしまった。だが、彼女の視線は俺――では無く、3人の方だった。

 ああ、そっちね。


「まあいいよ。それで、どこ斬る?」


 軽い口調で問いかける。

 すると、3人の中で一番お調子者なトランが、真っ先にこんな事を口にした。


「はいはーい。なら、首チョンパってやってみてよ」


「おい。そりゃ流石に死ぬって」


「おいおい。流石に悪い冗談だぞ」


 トランの言葉に、窘める様な口調で言うグーラとケインズ。

 いやいや、大丈夫大丈夫。

 だって――


 人の死とは、魂が輪廻の輪に還る事を、指すんだから。


「うん。分かった。はあっ!」


 俺は剣を鞘から抜くと、一切の躊躇無く首に刃を向けた。

 そして、勢いよく横へ引き抜く。

 結果――


 ザン!


 そんな音を立てて、俺の首は斬れた。

 だが、このままじゃ直ぐに繋がってしまって、さっき彼らが見ていたように分かりづらい。

 そこで、俺は剣をその場に落とすと、両手で頭を掴み、自身の腹辺りの所まで持って行って、抱きかかえた。


「うん。これで分かりやすいね」


 俺はそう言って、3人の方を見る。

 すると――


「は、へぇ……?」


「あ、へ……?」


「な、へ……?」


 なんか、急にへたり込まれてしまった。

 不思議に思ってシャリアが見える位置に顔をずらしてみると、なんか凄く呆れた顔をしていた。こんなシャリアを見るのは初めてだ。

 すると、ようやく正気を取り戻した3人が、口を開く。


「えーっと……人間だよな?」


「ん? 何言うんだよ。れっきとした人間だ」


 グーラの酷い言い様に、俺は少しムッとしながらそう答えた。


「えーっと……今、どういう状況? 首だけでなんで話せる?」


「そうそう。これ、結構苦労したんだよな。まあ、今は意図的に胴体から頭生やすの止めてるからこうなってるだけで、普通はこうしたら直ぐに胴体から生えてくるよ。で、こっちの頭は適当に吸収するって感じ。因みにこの状態だと、10分ぐらいで流石に死ぬ」


 トランのいい所を突く問いに、俺は思わず詳しく説明してしまった。


「分かったから……早く戻してくれ」


「ああ、分かった」


 確かにこの状態はリスクがある。

 俺はケインズの気遣い通りに首を持ち上げると、元あった場所にくっつけて、治した。


「とまあ、こんな感じだ……ん? シャリア。どうかしたのか?」


「……リヒトさんには後程、人間の死生観や倫理観について、じっくりお教えさせていただきます」


「お、おう。言ってる意味が良く分からんけど、了解した」


 何か言いたげな表情をしているシャリアにそう問いかけると、なんか説教するような感じでそんな事を言われてしまった。

 意図が分からないが……まあ、シャリアが必要だと思うのなら、きっと無駄な物じゃない筈だ。


「ま、まーおけおけ。ここでは何も見てないわー俺~~~~~!」


 グーラが、不気味なまでに元気いっぱいな声で、叫び声を上げた。

 そんな時だった。


 ざわざわざわ――


 全身がぞくぞくっとするような感覚を覚えると同時に、森が騒がしくなった。


「……ん?」


 なんだ?と俺が思う中、途端に静かになったグーラが、険しい顔で口を開く。


「マジかよ。俺らまだ目ぇ付けられてたのかよ」

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