第二十一話 血殺武具

 オークを討伐し、更に先へと進んでいた俺たちは、初めて見かける魔物に遭遇した。


「「「「「グルァアア!!!!」」」」」


 唸り声を上げながら突撃してくるのは、まるで森に擬態するかのように深緑色の毛皮を纏う、体長2メートル程の狼型の魔物――フォレストウルフだ。

 魔物のランクはCで、オークよりも1つ上。


「よし。やるか」


 俺は既に詠唱を始めているシャリアをその場に残すと、剣を構え、突貫した。

 そして、先頭にいるフォレストウルフを間合いに入れると、横なぎに一閃した。


「グルゥ!!!!」


 だが、素早い動きで躱されてしまう。

 くそっ 攻撃が単調過ぎたか……!

 頭では分かっていても、いざ戦いとなると単調になってしまう自身の戦闘パターンに顔を歪めながらも、俺は追撃の一振りを再び奴目掛けて振り下ろした。


 ザクッ!


 その一撃は、確かにフォレストウルフを捉えた。

 だが、毛皮を軽く斬るだけに留まってしまい、そのフォレストウルフはそのままシャリアに向かって突貫していく。


「くっ……!」


 焦る俺――だが次の瞬間、その焦りは消える事となる。


「【――氷の槍となりて彼方へ飛べ】!」


「ギャッ――!」


 終わる詠唱と同時に放たれる3本の《氷槍アイスランス》。

 それが横一列に並んで飛来した事で、フォレストウルフがその内の1本に貫かれ、為す術も無く倒れたのだ。


「すまん!」


 フォレストウルフを行かせてしまって――そして、咄嗟とは言え実力を低く見積もってしまってすみません……と、俺はその短い言葉に込めて謝ると、続く4頭のフォレストウルフに対して剣を向けた。


 ヒュン! ヒュン!


「「グルッ――!」」


 直後、俺の左右を掠め飛んで行った2本の《氷槍アイスランス》が、2頭フォレストウルフの半身を掠り、血を噴き出させた。。

 チャンスだ。

 俺はその攻撃によって生まれた一瞬の隙を突くように、フォレストウルフへ肉薄すると、片方の首を斬り落とした。


「グルァアア!!!!」


 だが、逆方向から迫って来る1頭のフォレストウルフ。

 そいつに対し、俺は即座に腕まくりをした左腕を突き出した。


 ガブリ!


 直後、喰われる俺の左腕。

 自身の腕が捥がれる感覚を覚えながら――俺は、笑みを浮かべた。


「貰った。【我が血よ、貫け】」


「ギャ――ッ!」


 直後、フォレストウルフの口内にある俺の血が刃となり、フォレストウルフの脳を内側から貫いた。


「よし! 成功だな」


 喰われた左腕を即再生させて、後ろへ退いた俺は思わず喜びの声を上げる。

 今のは、何気に実戦で使うのは初めての魔法――《血殺武具ブラッド・ウェポン》。

 ”邪神窟”に住まうSSランクの魔物――ヴァンパイアの固有魔法を参考に作った、俺の魔法だ。

 生きた血には本人の魔力が流れている故、上手く使えば強力な武器となる――だが、普通の人間がこれを使えば、直ぐに失血死するのが関の山。

 しかし、《不死の奇跡イモータル》によって自らの血すら魔力で生成する事が可能な俺なら、このように実戦でも使えるのだ。


「【――氷の矢となりて彼方へ飛べ】!」


 直後、俺が退いたと同時に放たれたいくつもの氷の矢が、残る2頭のフォレストウルフへ襲い掛かる。


「グルアアァ!!」


「グルァ!!!」


 身体に刺さるだけでは、あまり意味は無い――だが、顔は別だ。

 顔にブスリブスリと刺さる事で、フォレストウルフの視界から俺が消えた。

 よし――


「終わりだ!」


 そう言って、俺は2頭のフォレストウルフの首を斬り落とし、とどめを刺した。


「ふぅ……Cランクの魔物も討伐出来る……か。内容は微妙だけど」


 フォレストウルフの死体の前で、俺は深く息を吐くと、まるで自らを悔いるようにそう言った。

 うん。倒せたよ。倒せた。

 Eランク冒険者2人でCランクの魔物5体を倒すだなんて、間違いなく世間一般的には凄い事だ。


「だが、そうじゃ無いんだ……!」


 俺が目指すのはSランク冒険者。

 こんな、言ってしまえば魔法のゴリ押しで勝てたような戦いで満足なんて、出来ないんだ……!

 静かに、誰にも内心を悟らせないような顔で拳を握り締める中、背後で足音が聞こえる。


「リヒトさん。こういうのは何ですが……リヒトさんはまだ魔物と戦い始めて1週間しか経っていません。それで、自分の思い通りの動きが出来ると思うのは、傲慢が過ぎますよ」


「正論が過ぎるよ。シャリア……」


 そして、シャリアから唐突に飛んできた辛口ドストレート正論パンチに、俺は一周回って逆に力なく、そう言葉を漏らした。

 だが……シャリアの言葉は、ちゃんと考えられている。

 こういう時の俺に、安易な励ましは逆効果であると知っているが故の、厳しい言葉なんだよ。

 ここ1週間で、何度かあったからね。こんな感じのやり取り。

 そして、何度言われてもこうなってしまう俺……懲りねぇなぁ。


「……はぁ。分かってるんだけど、どうしても、ね」


「まあ、それだけリヒトさんが本気って事なんですよ。ですので、止めて欲しいとは思いませんよ。こうなったら、その都度私が声を掛ければ良いだけですし」


 俺の呟きに、シャリアはまるで冗談めかすようにそう言って見せた。

 シャリアの辛辣正論パンチ……次はいつ聞く事になるのだろうか。


「……それで、ずっと気になってたのだが……何やってるんですか? そこで」


 話が一段落付いた所で、俺は右斜め前方にある草むらに目をやると、そう言った。


「やはり、バレてたか~」


「おー流石じゃん」


「は~あ。あ、別に悪気は無いからな?」


 そんな事を言いながら出てきたのは、以前ここへ来る道中一緒だった3人組の冒険者――グーラ、トラン、ケインズだった。

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