第二十話 1週間が経ち――

 シャリアとパーティを組んでから、1週間が経過した頃――

 俺とシャリアは、今日も変わらず”魔の森”に足を運んでいた。


「ブフォオ!!!」


「ブフォオォ――!」


 前方から姿を現したのは、6匹のオーク。

 俺はそれを見るなり、即座に駆け出す。


「はああっ!」


 そして、恐れる事無く一気にオークの懐まで迫ると、剣を斜め上に振り上げて、オークの首を斬り落とした。


「ブフォオォ!!!」


 直後、右横から襲い掛かって来たオークがこん棒を振り下ろした。


 ボコンッ!


 俺はそれを右頭部で受ける。すると、鈍い音と同時に頭骨が破壊される感覚を覚えた。

 だが、俺はなんて事無さげな顔をしながら振り上げた剣を引き戻すと、こん棒を振り下ろした事で、隙を晒してしまっているオークの首を斬り飛ばした。

 とどめの一撃直後が最大の隙――そこを突くのは定石だ。


「【――氷の矢となりて彼方へ飛べ】!」


 すると、後方に居たシャリアがいくつもの氷の矢を放った。

 2週間前と比べて倍以上に増えた氷の矢は、ビュッと音を立てて、オークたちの所へ飛来する。


「「「「ブフォオオオオ!!!」」」」


 頭部を狙うように放たれたそれに、オークは頭を振ったりこん棒を雑に振ったりと、致命的なまでの隙を晒してしまった。


 ブスブスッ!


 なんか俺の頭にも2本、結構深めにぶっさ刺されたが……まあ、いっか。


「どうせ治るし」


 この1週間で”慣れてきた”俺は、シャリアに後頭部をぶっ刺されても、平然とそんな事を言ってみせながら、隙晒し放題なオークたちの首をチョンパしていった。


「【魔力よ。氷の槍となりて彼方へ飛べ】!」


「ブフォオ――」


 シャリアも《氷矢アイスアロー》を撃ち切ると、続けて《氷槍アイスランス》を放ち、俺の方に意識を向けてしまったオークの腹に風穴を開ける。

 こうして、6匹のオークは《身体強化ブースト》を使うまでも無く、全滅するのであった。


「よし。魔石取るか」


「そうですね。取りましょう」


 討伐を終えた俺は、シャリアの方に向き直るとそう言った。

 すると、シャリアは僅かに微笑みを見せて頷く。

 今思うと、ここ1週間でシャリアは大分柔らかくなった気がする。

 最初はなんかこう、警戒心が強めでさ。つんつんって感じではなく、物腰も凄く丁寧なのだが、そこそこ距離を置く……って感じだろうか。


「信用され始めたって事なのかな……?」


 シャリアをちらりと見やり、そんな事をほざきながら、俺は魔石の回収をする。


「……シャリア。ここ1週間でどうだ?」


 すると俺は、気づけばそんな問いを投げかけていた。

 俺の問いに、シャリアは一瞬魔石を取る手を止めると、口を開く。


「どう、と言われましても……まあ、言うのであれば”この15年間の中で最も成長した1週間”……といった感じでしょうか? あっという間にEランク冒険者になれましたし」


「そうか。それは良かった」


 シャリアの答えに、俺は気が付けば口角を上げていた。

 自意識過剰かもしれないが、俺のお陰で成長したと言われたような気がして、なんだか嬉しく思えたのだ。

 その後、魔石の回収を終えた俺は嬉しい気分のまま、シャリアと共にもう少し奥へと向かって歩いて行くのであった。


 ◇ ◇ ◇


 シャリア視点


「リヒトさん……凄い方ですね……」


 リヒトさんの後ろを歩きながら、私はぼそりとそんな言葉を漏らしました。

 彼との出会いは1週間ほど前、路地裏で不埒者に絡まれた時でした。

 リヒトさんは、なんの対価も得ずに私を助けてくれて――しかもその次の日にまた、今度は文字通り命を救われました。


(……あの時の私、本当に失礼でしたね)


 リヒトさんはただ、Sランク冒険者になる為に、本気で突き進んでいただけ。

 そんな彼を――助けてくれた彼を――あれだけ疑ってたなんて、今思うと恥ずかしい。

 ですが、あの時疑った事は、決して間違いでは無いと心に留めています。

 だって――


 身内だからという安易な理由で疑う事を放棄した結果、私はこうなったのですから。


(……今思っても、身が削られるように、苦しい……)


 あの日の事は、今でもよく覚えている。

 もう二度と思い出したく無い事なのに、こうしてふとした拍子に思い出してしまう事に、少し嫌気がさしてくる。

 でも、それだけあの日の事は衝撃的で、苦しかった。


 ……苦しい。気を紛らわせないと。


(彼の奇跡まほう……本当に、凄い)


 ここで、私は重くなってしまった気を紛らわせようと、脳内をリヒトさんの話題で塗り替える。

 リヒトさんが開発し、己に刻んでいる固有魔法――《不死の奇跡イモータル》。

 それは、その名に相応しくあらゆる傷を癒すどころか無かった事にする、恐らく歴代最強の回復魔法。

 首を斬られても、腹に風穴を開けられても、四肢を切断されても――血を流す前に回復――いえ、復元する。

 この2週間で感覚が麻痺してしまいましたが、よくよく考えてみれば本当に凄い事――それ故、下手に国に目を付けられれば、面倒事は避けられない。

 それで、彼の夢であるSランク冒険者への道が閉ざされるなんて、あってはならない。


(……私の居場所はもう、リヒトさんの隣だけ。でしたら、そのリヒトさんの為に、いざという時は私がやらないと……)


 幸い、私にはそういった知識はある。上手くやれば、きっとリヒトさんを守れる。

 すると、ここでリヒトさんが立ち止まりました。

 魔物か賊が、現れたのでしょう。


「……あ、あれは――」


 前方から4足で走って来る魔物。

 それを見据えた私は、リヒトさんに守られながら、そっと詠唱を紡ぎ始めました。

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