第十九話 事件の裏で蠢く闇
その後、俺は5人を死なない程度に治癒して、ロープで拘束すると、雑に担いで連れて帰る事にした。
本当は引きずった方が楽なのだが、そうしたら直ぐに起きて面倒だし、《
幸い、道中ではゴブリンしか出てこず、シャリアのみでも対処可能だった。
そうして無事テレンザに到着した俺たちは、多くの視線を頂戴しつつも、門の所に居る衛兵に声を掛ける。
「すみません。森で襲ってきた賊を捕らえたので、引き取ってくれませんか?」
「ああ、やはりそういう事だったか。わざわざ感謝する……おい、来てくれ!」
俺の言葉に、衛兵は全て理解したとばかりに頷くと、衛兵を追加で数人呼んできてくれた。そして、俺が担いでいた賊を掴むと、詰め所の方へと連れて行く。
「すみませんが、話をお聞きしたいので、付いてきて貰っても構わないですか?」
その頼みを、断る理由は無い。
俺とシャリアは揃って頷くと、その衛兵の後を追って詰め所に入った。
そうして詰め所に入った俺たちは、ある一室に案内される。
「どうぞ、そちらに腰を下ろしてください」
そこは、応接室のように見える部屋だった。
部屋の中央に見えるテーブルとソファ。
俺とシャリアは促されるまま中へと入ると、ソファに隣同士で腰を下ろした。
そして、テーブルを挟んで対面するように、先ほどの衛兵がソファへ腰かける。
「俺の名前はディフェス。ヒラステ王国衛兵隊テレンザ支部副隊長……と、長ったらしい肩書を持っているが、まあ若干偉い衛兵とでも思ってもらえればそれでいい」
ずっと田舎暮らしだったせいで、衛兵の副隊長って言われても、イマイチ想像できないが……副隊長って事は、この街で2番目に偉い衛兵って事なのだろうか?
まあ、それはさておき、こっちも自己紹介をしないと。
「俺の名前はリヒト。Eランク冒険者です」
「私の名前はシャリア。Fランクの冒険者です」
俺に続いて、シャリアも礼儀正しく自己紹介をする。
「ああ、ご丁寧にどうもありがとう。それで、早速聞きたいのだが……何があったんだ? 取りあえず、最初から全部説明して欲しい」
「分かりました」
ディフェスさんの言葉に俺は小さく頷くと、一部始終を話し出した。
歩いていたら、5人に囲まれて。
色々言われて。
戦って。
捕らえて連れ帰った。
それを、シャリアにちょくちょく補足して貰いつつ、説明した。
すると、ディフェスさんは険しい顔で、「そうか……」と声を漏らした。
「ありがとう。実を言うと、最近この手の犯罪が増えててな。こうして詳しい調書が取れたのは、ありがたい。これで、色々と調査に乗り出せる。それで、奴らは取り調べを行った後、恐らく犯罪奴隷として売る事になるだろう。これは、その時に手に入るであろう売却金と調査協力に関する謝礼だ。是非受け取って欲しい」
ディフェスさんはそう言うと、懐から小金貨を2枚を取り出し、テーブルの上に置いた。
おお、これは凄い。
合計で20万セルにもなるとは、流石に想定外だ。
これは、連れて帰って来て正解だったな!
相場をイマイチ理解していなかった俺は、想像以上の金額を前に、内心狂喜乱舞する。
「「ありがとうございます」」
金額に驚き、気を付けていたのにも関わらず若干浮かれたような声になってしまった俺と、いつも通りの落ち着いた声を出すシャリア。
ちょっと、恥ずかしいな……
「ああ。では、これで話は以上だ」
「分かりました」
こうして、予想外の大金を得た俺は、少し前まで首に剣を突き付けられていた事すら忘れたほくほく顔を見せながら、シャリアと共に衛兵隊詰め所を後にするのであった。
「ふぅ……予想外の災難があったが、何とかなったな」
「ですね。まあ、二度と御免ですが……」
「冒険者を続けるのなら、そうは言ってられないんだよな」
「ですね」
衛兵隊詰め所の直ぐ外で、俺たちはそんな事を言って、小さくため息を吐く。
いくら沢山金が手に入ると言っても、人と戦う時の、魔物とは違う何とも言えない恐怖感をまた感じたいとは、思えないな。
「ああ、それでさっき貰った20万セルだが、半々にしようか。はい」
「ありがとうございます」
そう言って、俺は貰った小金貨2枚の内1枚を、シャリアに手渡した。
シャリアはそれをニコリと笑って素直に受け取ると、自分の懐に入れる。
金欠気味だった事もあってか、ちょっと頬が緩んでいる。
可愛い。
すると、俺の視線に気づいたのか、シャリアはさっと顔を背けてしまった。
「あ、あの……魔石を売りに、冒険者ギルドへ行きましょう」
「ああ、そうだな」
そっぽを向いたまま、そんな事を言うシャリアの言葉に頷くと、俺は冒険者ギルドへと向かって歩き出した。
「……この調子で、頑張ろう」
そして、ボソリとそんな事を言うのであった。
◇ ◇ ◇
テレンザ某所にて。
数人の人間が、そこには集まっていた。
「……計画はどうだ?」
「順調だ。計画に支障が出ないよう、お守り程度の妨害もさせている」
「ああ。適当な賊に金を払って新人冒険者を襲わせるとかいうあれか」
「そろそろ異常に気付いて調査に向かうだろう。そうすれば、計画の邪魔がよりされにくくなる」
「尻尾掴まれないようにしているだろうな?」
「勿論だ」
闇の中で、話し合いをする彼ら。
すると、その集団の統率者らしき男が口を開いた。
「計画まであと2週間。ここにはあの方も来られる。世界の為――決して失敗は許されないからな」
「「「「「はっ」」」」」
男の威厳ある声に、その場に居る皆は一斉に頷くのであった。
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