第十七話 冒険者を襲う賊

 ちゃんと”連携”を用いてゴブリンの集団を討伐した俺たちは、手際よく魔石を回収すると、更に森の奥へと向かって歩き出した。


「はあっ!……シャリア!」


「【――氷の矢となりて彼方へ飛べ】!」


 直後、背後から飛来してきたいくつもの矢が、前方にわらわらと居たゴブリンどもをプスプス突く。


「はあああっ!」


「「「グギャアァ!!!」」」


 上下に両断され、崩れ落ちるゴブリンども。

 このように、道中何度かゴブリンどもが襲い掛かってきたが、難なく撃破する事が出来た。

 まだ、ゴブリンが目の前で武器を振り上げる時とかは、恐怖心から反射的に目を瞑ったり、一瞬動きを止めてしまうのは、大きな課題だが――それ以外は、特に見当たらないな。

 まあ、相手にしているのが、素の身体能力ですら割と余裕で優っているゴブリン相手だし、もっと強い相手じゃないと細かい課題は出てこないか。


「ん-そろそろオークが出てきてもおかしくないな」


「ですね。ちょっと不安ですが……やっぱり私も、強くなりたいですから」


 きょろきょろと辺りを見回しながら言う俺に、シャリアはぐっと拳を握り締めてそう言った。

 シャリアも俺も、強くなりたいって思いは同じだね。

 ふとそんな風に思い、思わず笑みにした俺は――次の瞬間、その場に立ち止まった。背後を歩いていたシャリアが、唐突に止まった俺の背中にぶつかって、「いたっ」と声を上げる。


「きゅ、急に止まらないでください……」


「ごめん。だが――」


 自身の鼻を擦りながら、抗議するような視線を送るシャリアに、俺は短く謝ると、周囲を警戒するよう目で促した。


「っ!」


 俺の只事では無い雰囲気を感じ取ったのか、シャリアは途端に気を引き締めると、杖をぎゅっと握り締めながら、周囲に意識を向けた。

 ……うん。やっぱり――

 嫌な視線だ。

 俺は眉を顰め、剣の柄に手を伸ばそうとした――次の瞬間。


「やー流石に視線向けたら、バレちまうかぁ」


「新人にしては、中々やるじゃねぇか」


「イヒヒヒッ――」


「おー近くで見たら、結構上玉じゃん」


、再起不能にしてやったら、その後でやろっかなー」


 外見上は、普通の冒険者のように見える5人の男が、左右の草むらから姿を現した。


「物資目的の賊……か」


 殺意のある5人を前に、俺は内心ガクブルしながらも、それを表に出さないよう、必死に取り繕いながら、ぼそりと言葉を落とした。

 マジかマジかマジか。

 流石にこんな早々、人間に襲われるなんて聞いてないよー!


「いや、落ち着け落ち着け」


 俺は剣の柄を握り締めると、自身に言い聞かせるように落ち着けと連呼した。

 こんな賊相手に怖気づくようでは、Sランク冒険者なんて夢のまた夢だ!

 俺には《不死の奇跡イモータル》があるじゃないか!

 それを駆使すれば、絶対に乗り越えられる!

 俺は心の中で声を上げ、心を少しでも強く持とうとする。


「リヒトさん、落ち着いて。やるしかありません」


 そんな中、シャリアはめちゃくちゃ冷静にそう言って、俺の背後を守る位置いついた。

 凄いな、シャリア。

 だったら俺も――負けていられないな。


「降参しろ! しないのであれば――殺すぞ!」


 俺は声を上げ、奴らを逆に脅してやった。

 因みに、この言葉は嘘じゃない。

 正直に言えば、人殺しはしたくない。だけど、時にはやらなくてはいけない事があるというのも、Sランク冒険者を目指す身として、十分に理解している。

 それに、ここで下手に躊躇い、そのせいでシャリアが死んでしまうような事があったら。

 そんなの――想像するだけでも、ゾクリとしてくるよ。


「ぶふっ 笑わせるぜ!」


「おいおい、舐めるなよ。お前らが新人だって事は、ちょっと調べれば直ぐに出てくる話なんだぜぇ?」


 ハッタリは通用しない……か。


「よし……シャリア。やるぞ!」


「はい。【魔力よ。荒く流れし水と――】


 そう言って、覚悟を決めた俺は素早く剣を抜くと、奴らに斬りかかった。

 そしてシャリアは、俺の言葉と同時に詠唱を始める。


「なあっ!?」


 ザン!


 俺の動きが想定よりも早かったのか、1人が為す術もなく突き出していた両腕をぼとりと落とした。そして、続けざまに顔面を殴り、気絶させる。

 そして、それを皮切りに他の4人が一斉に動き出す。


「死ねえええ!!!」


「【魔力よ――】!」


 俺は詠唱を続けながら、襲い掛かって来る男の剣を同じく剣で受ける。


「っ――!」


 どうやら向こうは先に強化魔法を使っているようで、肉体改造だけではほぼ互角だ。

 ギリギリと押し合いをする中、今度は横から斬りかかって来る2人の男。


「【――なれ。全てを押し流せ】!」


 だが、シャリアの詠唱が完了し、範囲こそ小さいながらもかなりの激流が、そいつらに襲い掛かった。


「【――我が身に纏え――】」


 その隙に俺は詠唱を継続すると、大きく後ろに下がって、一旦シャリアと合流する。


「【――強化せよ】!」


 そして、発動する《身体強化ブースト》。


「よし!」


 発動出来た今なら、恐らく身体能力で圧倒できる。

 そう、思った瞬間――


「――っ!」


 俺は気づいてしまった。

 いつの間にか気配を隠していた最後の1人が、シャリアのすぐ後ろに迫っていた事を。


「くっ!」


 声を出すよりも先に、身体が動いていた。

 俺は左手を突き出すと――ドン!と、シャリアの身体を突き押した。

 直後、俺の左腕が掴まれ、右手の剣を叩き落とされたかと思えば――


「狙いは違ったが――捕まえたぁ」


 首筋に、剣を突き付けられてしまった。

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