第十六話 2人の連携は如何に……?

 次の日の朝。

 窓から差し込む日の光で目を覚ました俺は、直ぐに準備を整えると、食堂で朝食を食べた後、宿を飛び出した。

 因みに、宿にあった時計は7時10分を指していた。まあ、7時30分集合なのだから、これくらいがちょうどいいだろう。

 そう思いながら、冒険者ギルドに到着した俺は中に入ると、きょろきょろと辺りを見回す。


「もう居るって事は無……居たぁ」


 集合時間よりも早く来たのだが、既にシャリアがそこには居た。

 俺は内心、「待たせちゃったかな……?」と心配しながらも、隅の方に居るシャリアへ近づくと、声を掛けた。


「シャリア、ごめん。待たせた?」


「あ、リヒトさん。私も、ついさっき来たばかりなので、然程待ってはいませんよ」


 俺の声にピクリと反応し、顔を上げたシャリアは、そう言って小さく首を横に振った。本当にそうならいいんだけど……本当はもっと早く来てて、気遣いの為にそう言っているのだとしたら……膝から崩れ落ちたくなるね。


「それなら、良かった。それじゃ、早速行くか?」


「ですね。準備は整っていますし、リヒトさんが良いのであれば、行きましょう」


 こうして、冒険者ギルドにて合流した俺たちは、”魔の森”へと向かうべく、西門へと向かった。

 そして、西門から外へ出ると、”魔の森”に入る。


「んー……やっぱりこの辺は、気配全然しないな」


「そうですね。遠くから、音はするのですが……」


 木々が立ち並ぶ”魔の森”を慎重に進みながら、俺たちはそんな言葉を呟く。

 だが、常に警戒態勢だ。近くに魔物が居ないとは言っても、ここは魔物が跳梁跋扈する”魔の森”である事に変わりはない。

 それに――物資を狙って人を襲う、悪しきが居る可能性も、大いにあるのだから。


「……シャリア。そろそろだ」


「分かりました」


 更に少し歩いた所で、俺はシャリアに硬めの声でそう言った。

 うん。これは……居るな。

 正確な数は分からないが、数匹のゴブリンが前方に居る。

 俺はシャリアが杖を構える様子を確認すると、自身も剣を抜き、歩き出した。

 そして――


「【魔力よ。氷の矢となりて彼方へ飛べ】」


「ギャギャ?」


「グギャギャ!」


 姿を視認できた直後、シャリアが即座に詠唱を唱え、《氷矢アイスアロー》を5本放った。そして、俺はそれを視認するや否や、《氷矢アイスアロー》の後に続くように、5体のゴブリンへ突撃する。


「ギャ!」


「ギャギャ!!」


「グギャギャ!」


 ゴブリンたちは、飛来する氷の矢を、こん棒を振り回すことで対処する。

 狙いも何も無い、雑な対処法に見えるが、今のシャリアには、これが案外効くんだ。

 現に、5本中2本は叩き落されてしまった。だが、逆に言えば残りの3本は叩き落されなかった訳で、3体の腹や腕にグサグサと刺さっていく。


「はあっ!」


 そして、刺さった直後に俺が剣を振り、3体のゴブリンを纏めて薙ぎ払った。

 俺1人であれば、奴らの意識は全て俺に向いていた――だが、今回は先に放たれたシャリアの《氷矢アイスアロー》に、それなりの意識が向いていた。

 故に、強化魔法無しでも、ここまで容易く撃破する事が出来たのだ。


「よっと」


 ここで、俺は一旦横方向へ退く。

 このまま身体能力と回復能力でゴリ押しても勝てるのだが、今回は”連携”を意識しているからね。


「【――氷の槍となりて彼方へ飛べ】」


 後方で終わる詠唱。

 直後、俺のすぐ横を氷の槍が掠め飛んで行った。


「ギャアァ!!!」


 今度は俺に意識を向けていたせいで、唐突に飛んできた1本の《氷槍アイスランス》に対応出来なかった1匹のゴブリンが、そのまま腹を貫かれて地に伏した。


「いいね!」


 俺はそう声を上げつつ、即座に残る1匹のゴブリンへ肉薄すると、すれ違いざまに首を斬り落として――撃破した。


「……ふぅ。これで終わりかな」


 まだ周囲にゴブリンが居ないか確認した俺は、そう言って小さく息を吐いた。

 いやー初戦闘にしては、中々上手くやれたんじゃないの?

 随分と単純な連携だったが、最初であれば、互いに足を引っ張り合わなかっただけでも、上出来だよ。


「ふぅ……どうでしたか? 私の動き」


 すると、後ろで魔法を撃っていたシャリアが、俺の所へ歩み寄って来るとそんな問いを投げかけてきた。少し不安そうな顔をしているし、自信なさげって感じなのかな?


「ああ。俺が無知なだけかもしれないが、足を引っ張られているような感覚は無かったな」


「それなら、良かったです……」


 俺の言葉に、シャリアは安心したようにほっと息を吐いた。


「ああ。特に、さっきの《氷槍アイスランス》は良かったな。タイミングばっちりだったよ」


 そうそう。退避した俺のすぐ横を掠め、ゴブリンを攻撃するだなんて真似は、相当練度の高いパーティで無ければ、やろうともしない芸当だ。

 それに対し、シャリアは途端にどこか気まずそうに口を開く。


「はい。こう言って良いのか分かりませんが……リヒトさんなら、当たる可能性を考慮しなくて良いからです……ね。それでも、さっきのは流石に運が良かっただけですが……」


「あー……まあ、ね」


 シャリアの身も蓋も無い発言に、俺は何とも言えない反応をするのであった。

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