第十一話 そういや自己紹介して無かった

「……ふ~そんじゃ、もうあんな言葉遣いじゃなくていいか。流石にパーティメンバーにあれじゃ、堅苦し過ぎる」


 彼女とパーティを組んだ直後、俺は言葉遣いを丁寧なものから、親しい間柄にのみ使う素の言葉遣いに変える。

 いやー癖で目上の人や知らない人には、あんな丁寧な言葉遣いをするのだが……正直に言えば、結構辛い。


「ああ、やっぱり普段はそういう口調なんですね」


 すると、彼女も先程より多少柔らかくなった物腰で、納得したようにそんな言葉を口にした。


「あれ? もしかして気づかれてた?」


「はい。何というか、無理をして言っている感が否めませんでしたね」


「あー……だね」


 彼女の的を射た言葉に、俺は腕を組みながら、うんうんと頷く。

 すると、ここでふとある重要な事に気が付いた。


「あ、そういやまだ自己紹介してないな」


「あ、言われてみれば……」


 彼女も、どうやら自己紹介していない事には気づいていなかったようで、口を半開きにして、俺と同じようにあっと声を上げた。


「えー……それじゃ、俺からにするか。俺の名前はリヒト。年齢は20。昨日冒険者になったばかりの新人で、ランクは当然Fランク。自己回復魔法で自身の傷を癒しながら戦う剣士だ。よろしく」


 そう言って、俺は自己紹介を締めくくった。

 自己紹介は、こんな感じで良かったのだろうか?

 何分、そういう経験が極端に少なくて……と思っていると、今度は彼女が自己紹介を始めてくれた。


「私の名前はシャリア。16歳です。5日前冒険者登録をした新人で、ランクはF。火属性……いえ、水と氷属性を扱う後衛魔法師として、リヒトさんのお力になれるよう、頑張ります」


 シャリアは、どこか気品のある仕草で自己紹介をすると、最後に小さく一礼した。


「ああ、よろしく。シャリア。それじゃあ、早速このオークから魔石を取ろうか」


 俺は再びよろしくと言うと、ちらりと背後に転がるオークの死体を見やった。


「そうですね。手分けしてやりましょう」


 こうして、俺たち最初のパーティとしての活動は、オークの死体漁りとなった。

 ……なんか言い方悪いな。

 まあ、そんな事はさて置き、俺は魔石を砕いていない死体の前に立つと、ゴブリンの時と同じように、右胸に剣を突き立てた。1つ違う点を挙げるとするなら、ゴブリンの時よりも強い力で……かな。


「よいしょっと」


 ゴロリ。


 すると、右胸から半透明で、紫色の魔石が地面へ転がり落ちてきた。

 大きさは、ゴブリンと同じく拳大だ。


「はあっ!」


 ちらりと背後を見てみると、シャリアも上手い事短剣を駆使して、オークの魔石を回収していた。

 要領もいいし、素晴らしい可能性も秘めている。

 こんな早々に、いい仲間を見つけられて本当に良かった。

 俺は内心そう思い、笑みを浮かべながらも、2つ3つと、魔石を回収していく。


「ふぅ。こっちはこれで全部だ」


「はい。私も2つ回収しました。そちらの革袋に入れますね」


 俺が3つの魔石が入った革袋を見せると、シャリアはそう言って、その革袋の中に自分が取った2つの魔石を丁寧に入れてくれた。


「ん? この中に入れていいのか?」


「はい。リヒトさんが倒したオークですし。流石に何もしていない私が、受け取るわけにはいきませんよ」


「まあ、確かにな」


 俺が何となくで問いかけた言葉に、至極真っ当な言葉で返され、俺は思わず苦笑いを浮かべると、その魔石が入った革袋をリュックサックの中に突っ込んだ。


「”魔の森ここ”なら、直ぐに喰われるから魔物の死体は放置でも良くて……よし。あと、依頼でパライズ花の葉をもう3枚採取しないといけないけど、それだけなら帰る道中で何とかなる」


「分かりました。因みに、私は特に受けておらず、この森へはゴブリンやスライム相手に戦う練習をしに来ただけですので」


「そうか。じゃあ、一旦帰るか」


「分かりました」


 そうして、俺たちは荷物を纏めると、街へ向かって歩き出した。


「……あの、リヒトさんって剣士……なんですか? 回復術師ではなく?」


 すると、歩きながらシャリアがそんな問いを投げかけてきた。

 なるほど。確かに《超回復ハイ・ヒール》を見たシャリアなら、そう疑問に思うのも頷ける。


「ああ。だが俺は、あくまでも自分自身の回復に特化しているからな。他者を癒す回復術師としては、本職と比べるとどうしても劣る」


「それは……凄く、珍しいですね。どうして、そんな魔法を?」


「それはな――魔物や死を恐れながらも、Sランク冒険者に憧れた子供の頃の俺が、ある日唐突に、自己回復魔法を極めて死なないようにすればいいんだって思いついたからだよ。そして、12年間毎日毎日研究実験をして、ようやく完成したという訳なんだ」


 シャリアの問いに、俺は昔を懐かしみながらそう答えた。

 我ながら、よく思いついたものだなぁと思ったものだよ。

 しかも、運よく光属性に適正があるという豪運っぷり。

 今思うと、俺は本当に色々な奇跡の上に立っているんだなと思えてくる。


「12年間毎日……ですか。リヒトさん。それは本当に凄いですね」


「……ありがとう」


 驚愕しつつも言う、シャリアの掛け値無しの称賛の言葉に、俺は小さく笑みを浮かべると、礼を言うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る