第九話 冒険中も助けていくスタイル
「んん……!?」
待て。
今、明らかに向こうから悲鳴が聞こえたよな?
すると、続けて――
「ぐっ うっ……」
相当小さく、毎度おなじみの肉体改造による五感の意識的な強化を用いらないと聞こえないが……明らかにこれは、ヤバい。
「ちょ、行ってみるか」
ただ戦闘しているだけだったら、獲物の横取りは御法度なのでスルーするが、死にそうになってたら、流石に助けよう。
そうと決まれば早速行こうと、俺は一度解除した《
そして、あっという間に声の主が居る所へ辿り着く。
「なんかやばそうな――て、やばっ!?」
気配から、何となくヤバそうだな~とは思っていたが、視界にその光景をとらえた瞬間、俺は思わず声を上げた。
そこには、5匹のこん棒を持つ豚頭人型の魔物――オークが居たのだ。
そして、そんな彼らの前には、全身血まみれの状態で、息絶え絶えとなっている魔法師らしき女性の姿があった。
まさか、ここまでとは……!
「う……や、めて……」
「ブフォオオオ!!!!」
オークは、弱々しく命乞いをする女性を、まるで嘲笑するかのように声を上げると、こん棒を振り上げた。
次に何が起こるのかは、もう明白だ。
「間に合えっ!!」
ここで、俺は更に速度を上げた。
そして、寸での所でオークと女性の間に割り込んだ。
ガン!
直後、頭部に衝撃が走った。
オークに、こん棒で殴打されたのだ。
ゴブリンとは比較にもならない程の威力。
だが――所詮はDランクの魔物だ。これぐらいなら、頭骨に罅が入る程度で済む。
「ちょっと痛てぇなぁ!」
まあ、痛みに結構慣れている俺でも、地味に痛く感じたが。
直後、俺は激しく声を上げると、隙だらけとなっているそのオークの右胸に剣を突き刺した。
「ブフォ……」
魔石を砕かれたオークは、そのまま絶命し、倒れ伏す。
勿体ない事をしたが、それで彼女の命が失われようものなら、目も当てられない。
「【魔力よ。癒せ】」
その後、俺は限界まで切り詰めた《
流石に細かい治療は後だ!
「ちっ はあああっ!!!」
治療の隙に、直ぐ近くまで接近してきた残りのオークを見据えると、俺は跳んだ。
そして、横なぎに剣を振るう事で、奴らの首をスパスパッと斬り落とした。
「よし。あと――なっ!?」
「ブフォオ!!!」
後は奥に居る1体だけ――と思ったら、そいつは俺の想像を超える速度で近づいてきた。
そのせいで間合いを見誤り、振るった俺の剣は、奴の左腕を斬り落とすだけに留まってしまう。そして、その隙にオークは振り上げたこん棒を、俺の右腕目掛けて振り下ろした。
バキッ!
鈍い音と同時に、俺は右腕が折られた事を悟った。
だが、俺は構わず
だって――もう、治ってるから。
「はあっ!」
「ブ、フォ……」
攻撃直後のオークが避けられる訳も無く、奴はそのまま首を落とし――落命した。
「ちっ まさか”
倒れ伏すオークを前に、俺はそう悪態をついた。
”
今回の場合は、敏捷性が高くなっていた……といった所か。
最初に見た時点で、気づけただろうに……
「まあ、それは一旦置いといて、さっさと治療しないと」
反省は後!
俺は振り返ると、仰向けで倒れてる女性の前でしゃがみ込む。
「あ、あの……ううっ」
彼女は俺を見るなり、上半身を起こそうとする――が、激痛が走ったのか、バタリと後ろに倒れてしまった。
「動かないで。まだ、止血しただけですから」
そう言って、俺は手を掲げると、魔法を唱えた。
「【魔力よ。我が願いに応え、生命へと干渉し、復元し、再生せよ。あるべき姿へ帰せ】」
直後、彼女の傷口が淡い光に包まれたかと思えば、一気に塞がって行き、あっという間に完治した。
上級光属性魔法――《
自己回復魔法に特化させたが故に、こういった他者を治癒する力量は、本職の回復術師と比べれば劣るが……これくらいなら出来る。
「ふぅ……どうですか?」
「あ……はい。大丈夫です。助けていただき、ありがとうございます」
彼女は一瞬呆けたような顔になった後、丁寧に礼を言ってくれた。
「それで、何を私に……て、あなたは!?」
続けて、彼女が何かを言いかけた――その瞬間、彼女は俺の顔を見ながら、これを上げた。
ん? 何かあったのか?
「えっと、どうし――あ!」
ここで、俺も思い出した。
そうだ! この人、昨日がらの悪い冒険者に絡まれていた所を助けた人だ!
「……こんな偶然、あるんですね」
すると、彼女はどこか気まずそうな顔をしながらそう言った。
「まあ、普通はありませんね。……えっと、あなたも冒険者を?」
気まずそうな彼女の気持ちを汲み取るように、俺は別の話題を振った。結構雑な話題転換だ。
すると、彼女は「はい」と、小さく頷く。
「数日程前に、冒険者になりました。なので、まだFランクですけどね……」
「そうですか……なら、早くパーティを組んだ方がいいと思いますよ。俺みたいな剣士はともかく、魔法師が1人で冒険者をするのは危険すぎる」
ここで、俺はお節介かなと内心思いつつも、またこのような目に遭って欲しく無いという思いから、そんな助言を呈した。
すると、さっき以上に気まずそうな顔し、目を背けながら、ぽつりぽつりと言葉を落とす。
「あの……ぱ、パーティを組んでくれる人が、居ませんので……」
もじもじと、まるで自分の汚点を隠すかのように言う彼女の言葉に。
俺は、「そうか……」と呟いてから、ある提案を持ちかけた。
「なら、一時的でも構いませので、俺とパーティを組みませんか?」
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