第八話 初めての殺し合い
パライズ花の葉の採取を始めてから、大体30分程が経過しただろうか。
冒険者とは1回だけ会ったものの、魔物との遭遇は意外にもゼロだった。まあ、結構浅い所だしな。こんなもんだろう。
で、肝心の葉っぱがどれだけ集まったかについてだが……
「よし。後10枚だな」
この時点で既に40枚を採取しており、残すはたったの10枚になっていた
多分、相当早いペースだと思う。
こういうのって、どういった所に生えているかなどをちゃんと知っていないと、本当に時間がかかるからね。対して俺は、知識を参考に生えていそうな場所に目星をつけ、そこを重点的に探した――まあ、効率が段違いって訳だ。
「これを思うと、薬草研究も無駄じゃ無かったんだなぁってなるよ……あ、あった!」
そう言って、俺は昔の事をしみじみと思いながら、更に採取を続ける。
すると、近くからガサゴソと、草木を掻き分けるような音が聞こえてきた。
「冒険者……じゃないな」
気配が、人のそれと明らかに異なっている。
これは――魔物の気配だ。
嘗て、魔物を恐れるあまり発現した、地味に不名誉な能力を存分に活用する事で、この気配が人間ではなく魔物だと判断した俺は、即座に動く。
「【魔力よ。我が身に纏え。強化せよ】」
手始めに、俺は魔法の詠唱を紡いだ。
身体能力を強化させる魔法の中では、最もオーソドックスな魔法――《
それをもって、俺は身体を淡い白色の魔力光で覆うと、腰に差していた剣を抜き――構えた。
「グゲゲゲ――グゲ!」
「「「グギャグギャア!」」」
直後、奥から姿を現したのは、小柄で人型の、手にこん棒や錆びた剣を持つ魔物――ゴブリンだった。
魔物の強さを表すランクとしては、SSSからFの内、下から2番目のEランク。
そんな奴らは、俺を視認するや否や、一斉に武器を振り上げながら襲い掛かって来る。
「……っ! はああっ!!!」
俺は奴らが放つ、純粋な殺意に気圧されて一瞬動きを止めてしまったが、気合で何とか動かすと、力のままに剣を振り下ろした。
ザン!
想像していたよりも、ずっと軽い手応え。
視界の隅で鮮血が飛び散る光景が視認できる中、俺は――やらかしたと思った。
「まず――」
ゴブリン相手には過剰すぎる力で振り下ろしたせいで、前屈みになってしまった俺は、焦りのまま、今度は剣を上に振り上げる。
ザン!
右胸を縦に斬り裂く一線に、もう1体のゴブリンもあえなく撃沈する。
「よし――っ!?」
「「グギャ!!」」
剣を振り上げたままの態勢で、俺はガッ!……と、両肩をそれぞれこん棒で殴打されてしまった。
それを前に、俺は顔を青ざめさせる――が、ここでふと、我に返った。
「待て。ゴブリン程度の攻撃じゃ、傷つかんだろ」
よくよく考えてみれば、肉体改造と《
現に、殴打された両肩にこれといった異常は感じられず、それどころか痛みもほとんど感じなかった。
「それに、あっても《
地面を蹴り、飛びずさった俺は、軽やかに着地をすると、追加でそんな事を言った。
「グギャ! ギャ!」
「ギャアア!!!」
一方、2匹のゴブリンはそんな俺が気に入らないのか、互いにこん棒を振り上げながら突撃してくる。
「はあっ!」
それに対し。
俺は若干心臓を高鳴らせながらも、冷静に間合いを見切ると、横なぎに剣を振り払った。
「「ギャ……」」
2匹のゴブリンは首を見事に斬られ――地面に倒れ伏した。
……全滅だな。
「……は~マジでドキドキしたなぁ……」
俺は、まるで力が抜けるかのようにその場でしゃがみ込むと、剣を杖替わりにしながら、そんな言葉を漏らした。
「にしても、ゴブリン相手にこれかぁ……先が思いやられる」
ややあって、立ち上がった俺は倒れ伏すゴブリンたちの死体を一瞥すると、そんな言葉を口にした。
本当に、今回はやらかしたなぁ。思い出したら、恥ずかしくなってくるよ。
まともに魔物と戦ったのは初めてなので、仕方無いと言われればそれまでなのだが……Sランク冒険者を本気で目指している身からしてみれば、今回の戦闘内容には目を覆いたくなる。
「だが、今ので魔物と戦う事を実感できた。次は、絶対にあんな真似はしないように頑張るか……んじゃ、魔石回収だな」
そう意気込んだ俺は、ゴブリンの死体――その右胸付近に剣を突き刺すと、中を抉り取るような感じで剣を回し、引き抜いた。
すると、ごろりと地面に転がる、半透明で暗い緑色の石。
拳大程の大きさのそれを、俺はそっと拾い上げた。
これは魔石と言い、言うなれば魔物の核のようなもので、これが破壊されればどんな魔物でも確実に死ぬと言われている。
「よし。この調子で残りも取るか」
ゴブリンの魔石は、売ると多少の金になる。
200セル程と結構安いが、今の俺からしてみれば良い臨時収入だ。
その後も、俺はゴブリンの右胸付近に剣を突き刺しては、魔石を抉り取っていく。
だが――
「……あ、やっぱこいつ、あの時砕いてたか」
2匹目に倒したゴブリンの魔石が、なんと砕けた状態で胸から出てきたのだ。
こうなってしまえば、もう売れない。
手応え的に、もしやと思ってはいたのだが……ああ、俺の200セル。
俺はがっくしと肩を落としつつも、最後のゴブリンから魔石を抉り取り、そしてリュックサックの中に放り込んだ。
「よし。残りあと少し、さっさと終わらせるか」
そう、意気込み、ラストスパートをかけようと思った――次の瞬間。
ザッ
「きゃあ!?」
どこからか、女性の悲鳴が聞こえてきた。
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