第七話 初めての依頼

 次の日の早朝。ちょうど日の出になったばかりの頃だろうか。

 俺は早々に荷物を纏め、食堂で手早く朝食を済ませると、宿を後にして冒険者ギルドへと向かった。


「……うん。まだあまり居ないな」


 冒険者ギルドの中は、朝早くという事もあってか、まだ少なかった。

 だが、掲示板をちらりと見れば、既に新しい依頼書が貼られている事が確認出来る。


「さてと。何を受けるか……」


 掲示板へと向かった俺は、そこに貼られている様々な依頼書の中から、今日受ける依頼を選定する。

 依頼書には、依頼内容と報酬金――そして、適正ランクが書かれており、余程の事が無い限りは、適正ランク以下の依頼しか、受けることが出来ないんだ。

 つまり、俺のランクはFランクだから、Fランク以下の依頼のみ――いや、Fランクが一番下なんだから、以下のくそも無いな。


「んー……どうせなら、森に行くやつがいいんだよなぁ」


 適正ランクがFの依頼は、やはり新人が受ける依頼という事もあってか、戦闘系よりも街のお手伝いをするようなものが多い。

 荷物の運搬とか、下水道掃除とか、街の掃除とか。まあ、大事なのは分かるのだが、とにかく地味だ。

 だが、流石に全く無いって訳では無く、こうして朝早くに来れば――


「お、あったあった」


 そう言って、俺が手に取ったのは、”魔の森”での薬草採取依頼だ。

 そこには、パライズ花の葉を50枚取って来て欲しいと書かれている。

 パライズ花とは、”魔の森”の最も浅い地域に自生している花の事で、その葉っぱには簡易的な麻痺作用があるんだ。


「報酬は2万セル。違約金があるが……まあ、悪くないな」


 最低限の知識が必要な依頼で、更にこのランク帯にしては高額の依頼という事もあってか、これには未達成時に違約金を支払う旨が記載されていた。

 だが、俺は迷わず手に取る。

 いやぁ……だって――


「俺、薬草の知識地味にあるぞ?」


 俺が《不死の奇跡イモータル》を開発する過程で、回復薬ポーション経由から薬草についても、専門家程では無いが、それなりに学んでいた。そんな俺にかかれば、それなりに知名度の高いパライズ花の葉の採取ぐらい、どうという事は無い。


「で、後はこれを受付に……か」


 そう言って俺は受付を離れると、前回来た時よりも少し賑わっている受付の列に、並ぶのであった。

 そうして、待つ事ものの数分。

 早々に俺の番が回って来た。


「おはようございます。ご用件は何でしょうか?」


「依頼を受けに来ました」


 笑顔を振りまく受付嬢に、俺は丁寧な物腰でそう言うと、受付に依頼書と冒険者カードを並べて置いた。

 その後、受付嬢は依頼書と冒険者カードの確認をし、問題が無い事を確認すると、口を開く。


「はい。確認出来ました。こちらの依頼は、未達成時に違約金7000セルが発生しますので、予めご了承ください。それでは、お気をつけて」


「ありがとうございます」


 俺は受付嬢に礼を言うと共に、依頼書を丸めてリュックサックの中に放り込むと、続けて冒険者カードをポケットの中に入れた。

 そして、受付を去って行く。


「さてと。依頼受けたし、早速”魔の森”に行くするか」


 いやー初めての依頼。

 いくら浅い場所とは言え、魔物が数多くいる”魔の森”に行くんだ。不安感が無いかと言われれば嘘になる。

 だが――それ以上に、この歳ながら、わくわくしているんだ。

 冒険者として、活動する事に――

 そうして期待感に胸を膨らませながら冒険者ギルドの外に出た俺は、西門へと向かうと、そこから街の外に出た。


「おー……鬱蒼としてて、流石に怖いな……」


 テレンザの北西部に広がる、ヒラステ王国三大魔境の一角――”魔の森”

 因みに残り2つは、最北端にある”龍の大山脈”と、隣国エリス教国との国境にある”邪神窟”だ。

 まあ、他2つの三大魔境はさておき、ここ”魔の森”が放つ何とも言えない気配は、村近くにあった森と比べると、明らかに異質なものだった。


「まーこの森の奥にはとんでもない魔物が生息してるって言うからなぁ……」


 もしかしたら、そいつの威圧感や存在感なのかもと内心思いつつ、俺は覚悟を決めると、森の中へと足を踏み入れた。


「……思ったより、陽光は入って来るな」


 草木をかき分けながら、先へと進む俺はふと天を見上げると、木々の間から差し込む光を眺めながら、そんな言葉を口にした。


「さて。そろそろ見つかる頃なんじゃないかな……?」


 ここで、俺は進路を90度変えると、下を注視しながら歩き始めた。

 すると、程なくして――


「お、あったあった」


 そう言ってしゃがみ込み、根を引っこ抜かないように気を付けながら摘んだのは、若干緑感の強い黄緑色の葉だった。

 大きさは俺の掌より1周り小さいサイズ。指の腹で強く押して見ると、静電気のようにピリッと俺の指が痺れた。

 うん。パライズ花の葉で確定だね。


「……ああ、革袋出さんと」


 俺は忘れてたとばかりに、リュックサックの隙間に手を突っ込むと、中から革袋を引っ張り出した。そして、パサッと3枚の葉を中へ優しく入れる。


「さてと。この調子で、魔物に気を付けつつ頑張るか」


 何気にスライム以外の魔物と戦った事無いんだよなぁと、地味に重要な事を漏らしながら、その後も俺はパライズ花の葉の採取に勤しむのであった。

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