第5話 投稿サイト
ブンゲイノモリで検索に引っかかったものは、『文藝の杜』という名の、文字通り文芸関連のサイトだった。
俺と紅はそれぞれにサイト内をざっくりと見て回る。トップページに表示された新着作品には小難しそうな詩歌、ファンタジー小説、闘病エッセイなど、あらゆる文字作品が節操なく並んでいる。
この手のアマチュアの文章作品を扱うサイトは、俺の知る限りでも四つは大手のものが思い浮かぶ。文藝の杜なんていうサイトは聞いたこともなく、利用者も大手に比べるとかなり少ないようだ。登録ユーザーは725人、総作品数は8842作品であることがトップページから確認できる。
なぜこの色を採用したのか疑問に思うほどにパッとしない黒とショッキングピンクのメンヘラだかヴィジュアル系だかよくわからないサイトデザイン、各作品や作者までたどり着くまでの絞り込みの難易度などウェブリテラシーが低そうな辺り、新しいサイトというわけでもないようだ。盛り上がってるのか? これ。とりあえず、コメント数の多い作品をいくつか開いて目を通す。
「なんか、アレだね」
紅が人差し指で眉間を抑えながらいう。詳細に説明してくれなくても、紅の言わんとする〝なんかアレ〟は俺にも伝わった。
「コメント、欄やばいな」
何気なく開いたら作品のコメント欄では、誰かのコメントに対して別の誰かが揚げ足を取る、言わば揚げ足取りプロレスのようなことが繰り広げられていた。知識マウント、煽る者、罵り合い。まるで無法地帯だ。せめて日本語警察の皆さんは日本語を誤った人間よりも、人道的におかしいやつから取り締まってくれよ。
「なんで寝子はこのサイトを貼ってきたんだろうね?」
紅は眉根を寄せて腕組みをしている。
「さあ? 何かの罠?」
「見た感じ、詐欺サイトではなさそうだけど……。何か見てほしい記事でもあるのかな?」
紅は眼鏡の中央に指を当て、推理を始めた。 仮に何か見てほしいのだとしても、俺たちがこの場で考えたところですぐに見つかるとも思えないが。
「本人に聞いてみようかな。返事が来るかは、わからんけど」
俺は再びXのダイレクトメッセージを開き、文字を打ち込む。
「そうだね。いきなりあんなサイト貼られても、意味わからなすぎて気持ち悪いもんね」
「うん。ちょっと暇つぶしにどうぞって感じではない気がするし」
早速出来上がったメッセージを寝子に送ってみたものの、すぐには既読が付かない。
「読まないな、あいつ」
俺は僅かに苛立っていた。
「社会人だったら、まだ働いてる時間なんじゃないの?」
紅は宥めるように俺の肩にポンと手を置く。
「とりあえず進展あったら教えてよ。それなりに興味深くもあるからさ、このサイト」
「うん。この中にもしかして寝子いるのかな?」
「さぁ。もしかしたら、いるのかもしれないね」
そんなやり取りをしていたら新たな通知でスマートフォンが震える。
「うわっ、返信来た」
俺は間抜けな声を出す。すぐに既読が付かないと苛立つくせに、返信が早いと「うわっ」なんて迷惑そうにしてみせるのだから、俺もなかなか身勝手な野郎だとつくづく思う。
「寝子は何て言ってる?」
紅が俺のスマートフォンに顔を近付ける。
「いや、それが……。ますますわからん」
寝子から届いたメッセージには、『狗』という漢字が一文字だけが書かれていた。
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