第44話 サリーさんとポーラさん
「ねぇポーラ、この年になってこんな経験すると思ってなかったわ」
「同感よ」とポーラは疲れた表情で答えた。
「確かにティーナはただのお嬢さんじゃないと思ってたわ。だけどね」とサリーは言い淀んだ。
「でもお似合いだし、このまま結婚したら・・・・あっもうしてるのね。このままでいいかしらね。王太子とか公爵とか芝居の世界の様ですもの」とポーラが自分を納得させるように言った。
「王都に戻っちゃうのね」とサリーが答えると
「そこよね。だけどジルはあれで、国の中枢にいる人ってことだから・・・その・・・いろいろ考えてくれるわよ」とポーラは希望を込めて言った。
「そうだといいわね。ねぇポーラ。ある年、急に冬を越せたの覚えてる?」
「うん、小麦がなくならなかった。毎年覚悟してたよね。春を迎えられないかもと・・・」とポーラが答えると
「そう。買いだめしようにも値が上がって・・・・」とサリーが思い出していると
「それが、なんの前触れもなく店に小麦がずっとあって・・・・パン屋も冬中商売した」とポーラが補足した。
「いつのまにか、飢えを心配しなくなり、薬も衣類も・・・・」と続けたサリーは
「どうしてかしらって、ふと思ったの」と言った。
「王宮になにかあったのかしら」とポーラが言うと
「ほら、わたしたち庶民でも優秀な息子が、お父さんに代わって商売を立て直したりするでしょ」とサリーが言った。二人ともその家をよく知っている。
「そうそう、なにか新しいやり方とか、外国の方法を取り入れたりとか・・・・そう、可でも不可でもないお店が急成長したり・・・・国もそうかもって思ったの。あのジルって王太子様の仲良しでしょ・・・・仲良し同士で協力しあってたりとか」とポーラが言うと
「その家を建て直す話は、割と聞くけど・・・・あの小麦の事って、あの人達、まだ子供だよ」とサリーが言うと
「そうか・・・・子供だよね」とポーラの声が小さくなった。
「まぁジルはいい人だし、もう結婚してるから身分がどうのこうのっていうのは、解決してるんだよね」とサリーが言うと
「だよね」とポーラが笑った。
「もしかしたら、私たちもお芝居に登場したりして」とサリーが、いたずらっぽく言うと
「あるかもーー」とポーラが受けた。
「頼りになる近所のおば様でさ・・・」とサリー
「そうそう、うじうじ悩むジル様にかつをいれるの」とポーラが言うと
「それいい」とサリーが言った。
『恋にもう遅いはありませんことよ』とポーラが芝居がかった口調で言うと
『そうよ、ジルさん。あなたの思いはあなたの足に翼を授けてますわ。さぁティーナの元へ』とサリーも言った。
「わたしたち、脚本家になれるかも」とポーラが言えば
「恋をしたらみんな詩人になるって聞いたことある?」とサリーが笑った。
「ある、ある。恋を囁かないといけないもの。後で恥ずかしいけど」とポーラが答えた。
「ジルの書いた手紙ってどんなだったでしょうね」とサリーさんが言えば
「くそばばぁはさぞ腹が立ったでしょうね」とポーラがあっさり言った。
「そう思うわ。殺してやるって思うほど」とサリーが呟くと
「わかるわ」とポーラが答えた。
二人はしばらくお互いの目を見つめ合った。
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