第45話 成人の儀 王太子目線

成人の儀が近づいた。名簿を確認する。おや、随分、遠くからやって来るのがいるな・・・・俺は名簿を見ながらかける言葉をどうするかれこれ考えていた。



だが・・・だが・・・・普段、清廉潔白を装う俺の心に染み出てくる考え・・・・・が・・・・あーーー俺は悪いやつだ・・・



百人近い若者が成人の儀で集まった。これからこの国を担って行く彼らからの挨拶を俺は受ける。すまんが付き添いの親は後ろに控えるだけにしてくれ。だが若者には一言だけ俺から言葉をかける。王太子からの声がけは誉れでもあるし。


大抵のものは今後俺と直接会うことなどないのだ。俺に関係ない所で幸せになっていくのだ。だから、人生にただ一度の今日、俺は一言を彼らに与える。


「その華やかさは王城の語り草となるであろう」とか、「山間の清水のような清らかさはまわりに慈しまれたであろう」とか「聞き及んでいたが勇猛さはわたしにも推測できる頼りにさせてもらおう」とか「その体にみなぎる覇気は素晴らしい、何事が起ころうとも動ずることはないと・・・楽しみにしている」



ふーーこれで終わりだ。後ろの親は皆、こっそり涙を拭いている。王室はサービス業でもあるんだせ。


その時、


「ウールン男爵。これは」と誰かが言うと護衛が一斉に剣を抜き


ウールン親子を取り囲んだ。


「父上・・・・ご気分は?」


「大事無い」


父親の腕や胸、背中をさわっていた息子は、きっとまわりの護衛を睨むと


「これは、なにかの事故。父もわたくしも害意はございません。剣をひかれよ」


と言い放った。


やるなこいつ。


俺は王座から降りると


「ウールン男爵、大事ないか?痛みは?」


「驚いておりますが、なにも・・・・違和感はございます」


「御子息はどうだ?」


「わたくしはなんとも・・・・すぐに下がらせていただきます」


「いや、待て。症状が心配だ。王宮で様子を見るほうがいい。すぐに部屋を用意させる。侍従が案内する」


「いえ・・・それはあまりにも・・・・」


「遠慮することはない。そなたは成人したばかり、大人を頼ってよい」


「こちらへ、ウールン男爵閣下」と侍従が二人を連れて広間を出た。



「皆の者、皆と言葉を交わせて光栄である。成人の儀をゆっくり楽しんでくれ」と言うと、


わたしを取り囲んだ令嬢の中から近くにいた者の手を取りダンスに誘う。


「王太子殿下、光栄でございます」


「わたしもあなたがたを寿ぐ事ができて感謝だ」


一曲、踊ると俺は会場を後にした。あの令嬢と踊った理由?


もちろん、親父の頭が見事なツルッピカだからさ。



毎日、俺はウールン男爵を見舞った。毛が邪魔でどうしても服が着れないとかで、バスローブを羽織っている。全身みごとに、ふっさふさで、こういうペットって人気になりそうだ。


息子は父親を心配してそばを離れないが、俺の質問に丁寧に臆することなく答える。




俺のように歪むことなく真っ直ぐに育ってる。王都のそばにあるレッド公爵家の領地が、余っているからこの男爵に預けよう。


そのかわり息子は俺が預かる。しっかり鍛えさせて俺のそばで働いて貰おう。



残念ながら、今日はごそっと抜けなかった。その瞬間を見たいのだが・・・・



明日も見舞わねばと思いながら、丁寧な見送りを受けて俺は執務に戻った。

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