第33話 妹のスーザン

わたくしは貴族には珍しく恋愛結婚をした。公爵令嬢と縁を持ちたい者は多く、家にたくさんの申し込みがあったが、格下でも良いと両親は認めてくれて、わたくしは伯爵夫人となった。


結婚生活は順調。彼は裕福でやさしくなんの不満もなかった。



姉とわたくしはよく実家に遊びに行った。母はおしゃれで、今でも美しく、未亡人となっても社交界の中心にいた。


大好きな自慢の母だ。



そんな幸せな日常がある日壊れた。兄のジルがおかしくなって、わたくしのダーリンがジルに気を使ってわたくしを叱ったのだ。


そんなジルごときに気をつかうことなんてないのに・・・・


平民の給料を取り上げただけよ・・・・薬師なら草でも食べていればいいのよ。



そして反省するように言い残して、ダーリンは出かけた。



そんなことやってられないから、お姉様と出かけたり、一人で買い物したり楽しく過ごしていたら、ある日戻って来たダーリンが凄く怒った。



使用人の部屋に閉じ込められて、仕方なくおとなしくしている時、あの女の声が聞こえた。


ポーラだ。うちのダーリンの親戚でわたくし達の邪魔をした女だ。


幼馴染を武器にダーリンと婚約していた女だ。実家の力も借りて撃退したけど・・・・・


わたくしがいない隙に、あの女が入り込んで来た。



ポーラに騙されてダーリンはわたくしを娼館に売ると決めた。最後の夜、部屋に来たダーリンは


「昔、君ほど美しく、心優しい女はいないと思っていた。だが、違っていた。君を見ると自分の間違いを突きつけられて辛い。

君がいなければ、僕は幼馴染のスーザンと結婚して穏やかな生活をしていたはずだ。間違いは正さねばならない。

借金がなければただ放り出せばいいが・・・・後のことは辛いのを我慢してポーラが引き受けてくれる。君もスーザンに感謝して欲しい。君が最後に示せる誠意だ」


そういうとダーリンは出て行った。


わたくしはやさしいダーリンが変わってしまったのが、悲しくてベッドに突っ伏して泣いた。


そこにあの女が入って来た。


「話をしましょうか。明日はここを出て貰いますから時間がないんですよ」


わたくしは、起き上がるとあいつを睨んだ。


「あら、娼婦が貴族を睨むなんて無作法ね。まぁ咎め立てする時間はないからいいでしょう。わたしもここに長居なんてしたくないですし」


「実家に言いつけてお前なんか・・・」


「実家は今、大変よ。あんたのことなんかに気を回せないよ。


えっとね、あんたは娼館に行く。ここまでは伯爵が言ったわね。


それで、あんたが行く娼館だけど・・・・まぁ貴族の奥様は喜ばれるのよ。貴族を抱いてみたい金持ちっているしね。運がよければ引き取ってもらえるかも・・・・・あんた器量もいいし」


「そう、それなら良いわ。たくさん相手しなくても良さそうだし」


「それがね。そうじゃないの・・・ふっふふ」



「なんですって?」


「あんたが楽するのとか嫌だもん。苦しんで欲しいの。伯爵があんたに優しくした分わたしが苦しんだ。それをお返ししたいの」


「あんたが行くのは、場末の娼館。そこにあんたは平民から盗みをした貴族って触れ込みで行くの。

人気出そうでしょ?貴族を恨む平民がたくさん来ると思うわよ」



わたくしは大声をあげてポーラに殴りかかろうとしたが、すぐにドアが開いて男が入って来るとわたくしを取り押さえた。



「あらら、残念でした」


「そうだ、お前この女に稽古をつけてやって、好きにしていいわよ」


すると男がうなり声をあげてわたくしをベッドに運ぶと、服を破ろうとした。


「ほら、服を破られちゃうと明日、裸で行くことになるわよ。自分から脱がなきゃね。がんばって」


そう言うとポーラは部屋を出て言った。




「ほら、待って、わたくしも早く抱いて欲しいのよ・・・・だけど・・・ちょっとお預け」


そう言いながら、わたくしは自分で服を脱いだ。




翌朝、あの女や使用人がずらりと並んで娼館からの迎えの荷車に乗るわたくしを見ていた。


「伯爵様、悲しまないで下さいませ、あのひと昨日の夜、自分から服を脱いで男を誘ってましたのよ。伯爵様が気にする価値はありませんわ」


「そうなのか・・・・・わたしの目はどれほど曇っていたのか・・・・」


「伯爵様」


「わたしの事は昔のようにルークと呼んでくれ」


「嬉しい。ルーク」


わたくしがこの家で最後に耳にしたのは、あの女の声だった。


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