異世界ゲームのモブに転生した俺は成り上がる。幸せという儚い物を手に入れる為に

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 異世界転生してみたいと思ったことはあるだろうか...

 とある赤い魔女が使っていた爆裂魔法を撃ってみたい。2つの刀に属性を付与して刀を自由自在に操る剣士になりたい。何なら五条Oみたいなチート能力を手に入れたいとか...たくさんあると思う。

 でもね...

「なにも...才能も未来もないモブキャラに転生したいとは一度も思わなかったよ」

 時は遡ること転生前だが。


「はあ、一部の残業代もらえてないな」

 俺は仕事から帰り、自宅で一息していたところだった。

 自宅は、仕事場から電車で通っていて、通勤時間は50分弱程だろうか...

 その為近いとは言えない。最寄りの駅から自宅まで20分、近くのスーパーまで徒歩12分、家は築12年という本当に良くも悪くもないまあまあな場所で暮らしていた。

 そして、俺の手の中には、茶色い封筒...給料が入っていた。

「何が出るかな...何が出るかな...」

 俺は、少しウキウキして、封筒の中身を確認する。

 先月の給料は22万ほどで、まあ必要最低限の生活はできていたし、娯楽も多少購入はできた。だが、近い未来に大地震が来ると、最近SNSでよくつぶやかれていた。まあ、つまりは災害時や自分になにかが起こったことを考えると、貯金や防災用は持っていたほうがいいと考えた。

 平社員から課長になったら給料も少しは増えると思っていたが...

「増えたのは2万4000円と1か2時間の残業か〜、めっちゃ最悪やん」

 正直のところ、5万くらいは増えるかなと思って期待していたが、蓋を開けてみれば手に入ったのは高校生が1ヶ月コツコツバイトして手に入れられる程度の金額だった。

 それと引き換えに手に入ったものは、1時間くらいの新入りができなかったことなどをする残務処理係と、睡眠不足が原因なのかめまいとかも手に入れた。

 クソ吉田...あいつが部長になってから仕事が多くなった。

「俺は子供が食べられなかったピーマンの残菜処理係じゃねえ」

 ...失敬失敬、つい大声を出してしまった。とりあえず今度職務を戻してもらえるか聞いてみることにしようかな。

 まあ、そんなことは後回しでいいだろう。

「栄光やって息抜きしようかな...」

 ゲーム名、アルカンシェルは現在のプレイ人口は2800万人、売上はなんと1億を突破(まあ、一つしかだいたいのやつはサブ垢だろうけど...)し、発売からすでに約7年が経過しているが、未だに人気が衰えておらず、新規ユーザーが年に百数万人単位で増えているオンラインゲームだ。

 PCやスマホを始め、家庭用ゲーム機などにも進出している為、どの年代の人でも遊びやすくなっている。

 しかも遊び方もプレイヤーと同じ数存在している。

 釣りや農業などをしてほのぼの生活したり、異世界にふさわしくワクワクするような冒険をしたり、シーズンごとにダンジョンがあり、新しい場所へと進出していくことなどもできたりする。その人の好きな事をすることができる為、ここまで人気が出た。

 女子高生も、ガキも、サラリーマンも...老若男女、誰もが楽しめる要素が多く詰まっている...まさにゲーム業界の鏡とも言えるゲームだ。

「さて、ログインしようかな...」

 俺は、パソコンとは真反対になっていた椅子との向きを正し、パソコンへと向かいあった。

 そして、パソコンを起動し、ログインをする。ログインするときに少し待ち時間があるが、それは許容範囲内だった。

「少しのどが渇いた...」

 そう立ち上がろうとしていた。

「ゔっ....」

 俺は無意識のうちにうめき声を発し、そして床へとうずくまる。

 胸が張り裂けるほどの痛みと、身体がもう自分のものでないかと錯覚してしまうほど、さっきの自分とは程遠い感覚だった。

 身体中からどっと異常な量の汗が流れ出し、心臓の鼓動が早まる。

 俺はすぐさま痙攣を起こしている手で、ポケットに仕舞っていたスマホを取り出し、救急車を要請しようとする。

「ぐっ...」

 あと一文字...あと一文字でかけられたはずだった。だが、あと一歩のところで身体の制御権を奪われてしまった。俺は息を大きく吸い、制御権を奪い返そうと試みる。

「......ぁ」

 ここで改めて死から逃れられないことを知った。息を吸おうとしても、吐こうとしても、出てくるものは...何もなかった。

 呼吸が完全に停止した......

「....」

 部屋の真ん中をひたすらのた打ち回る。たった一つ、息を吸うことを求め続けて.....俺は意識を失った。

 静寂の室内、主人が消えたにもかかわらず、PCからタイトル画面のボイスが部屋を満たし続けていた。


 *


 俺が意識を取り戻したのは、家...病院でもなくお屋敷のような場所だった。

「ここはどこだ?」

 俺はあたりを見回す。近くにメイドの数人が切磋琢磨と働いていた。

 一瞬夢の中にいるのかと思ったが、頬が痛いので夢ではないみたいです。

 そして俺は身体が全く上がらないことに気づく。そして、近くにあった鏡を覗いてみると、知らない身体、顔、そして乳児の身体であることに気づく。

 つまり、この情報で導き出せる結果は....

「あ、あ...転生か..........」

 何だよ、転生か.....っていう薄っぺらい反応。普通はもっと驚くべきなんだろうけど。

「それにしても、大きいお屋敷だ...まるで自分がゴミのようだ」

 最悪の自虐をあとにし、俺は少し進もうとする...だが、そびえ立つ柵に足止めされてしまう。

「......うん、登ればいいか」

 俺はとりあえず柵を登ろうと考え、よっせよっせとよじ登る。そのとき...

「危ないですよ、レイ」

 俺がよっせよっせ登っていたのを一人の少女に止められた。

 そして、優しい手つきで俺を持ち上げ、優しく包まれるかのように抱かれる。

 年齢はだいたい....何歳だ?

 なんというか、俺子供いないし子供持っている知り合いもいないしどれくらいの年齢なのか判別できない。まあ、高校時代超絶陰キャだった俺に嫁も友だちもいるはずないしな。

「もうしちゃだめですよ〜〜レイ〜」

 抱いたことで嬉しくなったのか...少女から笑みが一気に溢れ出る。

 おそらく俺の姉という存在になるのだろう。それにしても...それにしてもだ...

 少女に抱かれるとか普通にプライドが許せないというか...

「大の大人が少女に抱かれるとかやばいじゃん...」

 おっと、しまった。心の声が漏れてしまった......まあ、喋れる人はいるって思ってくれるよな。

 俺はそう思うことで、きりなおした。だが...

「お母様!レイが....初めて言葉を喋りました〜〜」

 ゔゔぁ〜〜やっぱり終わった〜

 開始早々少女にバレるというまずい危機が訪れてしまった。

 とりあえず口封じするか?いやそんな野蛮...ていうかことしたら生後間もないのに喋る赤子以上にやばい殺人赤子になってしまう。

 でも、それを弁解することも喋らなくてはならない。終わった。もう何なら天才赤子で生きてやるか...と、思いながら僕は諦めかけていた。すると...

「そんなわけないでしょ、レナ...まだ生後2日なのよ」

 レナと呼んだ人間...その人は、部屋の片隅で髪の毛を整えていた。俺の若いと言えるレベルの為、20代前半なのだろう。、そう少女へ言う。この子のお母さん...つまりは俺の母親だろう。

 きれいな肌と、少女と同じ水色の水晶のような美しい目、そして白い花のような...髪...白い花のような髪の毛ってなんだ?真ん中かっぱみたいにハゲで端っこだけ開いているのかっ!

 俺が心のなかでアホらしい話を考えていると、俺はぷつりと魂と身体をつなぐ糸が破れたかのように、眠りについてしまった。


「レイが寝ました...」

 私はレイの寝顔を見て、無意識のうちに笑顔になります。

 私の弟はどういった子になるのか...お姉様って言ってもらえるかもしれない。もしかしたらレイは天才児かもしれない...そう考えるだけで、胸が弾む。

「レイはいつくらいになったら喋れるようになりますか?」

「そうね、レイが喋られるようになるのはもう少しだけあとになるでしょうね...」

「とっても、楽しみです...」

 弟からお姉様って言われてる様子を思い浮かべるだけで私は笑顔になる。

「でもね、レナ...よく聞きなさい。」

 母様は、さっきまでの表情とは少し険しい顔へと変わる。それを見たレナは、母様の目をじっと見つめる。そして私は母様の話を聞き終え、母様に言った。

「大丈夫、私は1人じゃないから」

 私は...大丈夫、大丈夫だと自らの心に言い聞かせながら。

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