48:変わる世界【終】

 ザ・ラストワン・ショーが閉幕した。俺は、ラストワンになれなかった。俺は、教会にある病室のベッドで1人、聞こえないように泣いた。


「あそこで負けるか? 普通」


リオンが俺に見舞いに来てくれた。本当は、俺が顔向けできるわけもないのに......。


「ごめん、俺......」


「いいんだ。夢は自分で叶えることにした。できれば、お前が隣にいてほしいが、返事はやはりダメか?」


「俺、勇者じゃないのに......」


「お前のそのひたむきさが好きなんだ。それに、お前にはサプライズプレゼントもあるぞ」


そう言うと、リオンは外に誰かを呼びかけた。すると、目を負傷して眼帯を付けたニア姉さんと、全身包帯まみれの男が立っていた。


「ね、姉さん! と、誰?」


「ひでえな、ジュノ......。俺だよ、フィドル」


「ああ、フィドルか......。久しぶり」


カインが叶えたのは、俺が掲げていた「敗退し消滅した勇者全員を復活させること」だった。最後まであいつに持っていかれた。しかも、自分でアイドル活動始めやがったし......。


「結局俺は、なにも達成できなかった」


「そうでもない。少なくとも、俺の人生はお前に救われた。妹とも再会できたし、今十分に幸せだ」


「なら、ギャンブルもなし?」


「......そいつは、約束できねえな」


「お兄さん」


フィドルの背後から、ドスの効いた女性の声が聞こえた。きっと、フィドルの妹のライアさんだろう。その声に、フィドルもタジタジで委縮していた。


「あ、はい。辞めます、絶対にやめます。すいませんでした」


「ははは......。それなら、よかったでいいのかな?」


「......」


やはり、姉さんは不満そうだ。自分の手から、勇者を生み出せなかったからだろうか。それには、俺も少し賛同する。


「私は、喜べないかな。でも、あんたのことは家族だよ。ずっとね」


「姉さん......。うん、ありがとう」


「さあて、私は弟子探しでもしようかな。新たにショーを開催するみたいだし」


「国は、レオが仕切ることになったんだよね?」


「そうね。貴族も崩壊しちゃったけど、ティルちゃんもいるし何とかなると思うよ?   それより、ショーの方が楽しみなんだよね。じゃあね、ジュノ。私、旅に出るから! もう会えなくなるかもしれないけど、姉さんのこと、寂しがらない?」


その瞳には少し涙を浮かべていた。寂しがってるのは、どっちだよ。そう突っ込みたくなったが、俺はそれをグッと堪えた。


「大丈夫。だから、姉さんの好きなことをして」


「無論、そのつもり! バイバイ!」


そう言って、姉さんは消えていった。それを皮切りに、フィドルとライアも立ち去っていった。残るは、リオンと俺一人。


「寂しくなったな」


「リオンも、好きにすればいいよ」


「お前のやりたいことを聞いていない。それまでは、ずっと居座ってやる」


「姉さんより強情じゃない?」


「私はあの人ほど、お前を信用してない」


俺が今、やりたいこと......か。でも、必要としてくれる人がいると言うなら、俺はもう少し、勇者を名乗ってもいいかもしれない。


「まだ、勇者の枠空いてるかな?」


「それは、どういう意味かな?」


意地悪げにリオンは笑う。俺は、ベッドから起き上がって笑いかける。


「まだ、あんたの事あまり知らない。でも、あんたが必要なら、俺はあんたの勇者になる。隣に立って、国を支えよう」


「もう一息」


もっと、欲張っていい。そう言いたいのか?

俺の夢は諦めなくていいのか......? だったら、俺は、俺は!!!


「......俺は、まだ勇者を諦めねえ! 俺がお前に見合う勇者になってみせる!!」


「素直でよろしい」


俺はベッドを飛び出した。すでに体は治っていた。それでも飛び出す勇気はなかった。でも、一歩前に出したら、すごく軽くなった気がした。一歩前に踏み出す勇気。一番忘れていたかもしれないこの感覚。絶対に覚えておかないと......!


「よし、行くか!」


「元気になった途端、張り切りすぎだぞ」


「俺は元気だけが取り柄だって、姉さんが言ってたんだ」


「そうか。なら、間違いはなさそうだ。長い旅になっても、退屈にならなそうで済む」


そう言って、リオンは俺に微笑みかけてきた。俺も、それに応じて笑い、二人で教会から出た。同じ空なのに、空気も、町の雰囲気も変わった世界を背に、俺達は新天地を求めて......。自分だけの「たったひとつラストワン」を見つけるために!



『ザ・ラストワン・ショー』 完


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ザ・ラストワン・ショー! ~武術一筋の俺、たった一人の勇者に成り上がる~  小鳥ユウ2世 @kotori2you

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ