23:フロアボスの魔人
「それにしても、よく僕のあの姿を見ても受け入れてくれたよね?」
20階へ上る階段の途中、ここまでずっと喋ってこなかったカインが口を開いた。彼が悩んでいるような顔をしていたのはこのことだったのか......。
「俺に姉さんがいるって前に話したっけ?」
「ええ。たしか、血の繋がっていないお姉様でしたよね?」
「俺の姉さん、魔人なんだ」
「そうなの? だから、驚かなかったのか......。なんとなく、合点がいったよ。でも、君は? ティルは獣人なんて、見たことなかったでしょ?」
「私? 私は、別に普通に驚いていましたわ。でも、容姿は関係ありませんわ。あなたはあなた。ただの戦闘では役に立たないナルシストのカインに変わりありませんわ。それ以上も以下もない」
「手厳しい評価だね。でも、そう聞いて少し楽になれたよ。僕は、君たちに出会うために生まれたんだね! ああ、ならばこんな美しいのも説明がつく」
「相変わらずだな。早く20階に行くぞ。まだ80回階段を登らないといけないんだからね?」
「そうだね」
3人で20階へようやく上ると、そこはいままでの苔や草の生えた地面や自然的な壁面とは打って変わって人工的な鉄で覆われた床と、4面の壁画に覆われた四角形の空間であった。
「なんだ、これ......」
「どうやら、普通のダンジョンじゃなさそうだね。このフロアは......」
周りを見渡すと、奥になにか大きなものがいるのが見えた。その前に、3人ほど立ちつくしているのも見える。もしかして、ダンジョンのボスって奴か? いきなりワクワクしてきたな......。
「あの場所に行けば分かるかも! 行ってみよう!」
「うん」
「はい!」
3人と1体で向かうと、そこにはフィドルのパーティーとその前に立つ巨大なゴーレムのようなものが立っていた。
「よう、お前らか」
「フィドル! どうしたの、これ」
「どうもこうもねえよ。こいつをどかさないとどこにも進めなさそうな仕組みなんだ。ただ、ビクともしねえ」
「それでしたら、私とゼノの出番ですわ! ゼノ、ゼノバースト承認!!」
「いきなりネガいな......。仕方ない......。ゼノバースト!!」
ゼノバスターのゼノバーストがゴーレムに当たるも、そのビームをすべてをはじき返していく。となると、目的はこいつとの戦闘による破壊じゃない?
「じゃあ、他にやらないといけないことあるんじゃない? 起動とか」
「そうだね。探してみよう」
俺達はゴーレムの近くで色々と探してみた。すると、それらしき謎の文字が刻印されていた。
「なあ、見てこれ! なんか書いてるけど!」
俺の一声に、みんなが集まった。みんな首をかしげるばかりで誰もこの文字を知らないようだ。
「多分、王国時代の文字かもな。こんなの読めるの学者くらいだろうな」
すると、フィドルのパーティーメンバーであるキラーが少し前に出て来た。こいつ、顔もわからないようにしてあるし感情も読めないから怖いんだよなぁ......。
「”北風が吹くと、西にいる炎の魔人が揺らめいた。揺らめきは、東の森の水の精を躍らせた。炎と水の踊りは、南の大地の巨人を目覚めさせる” と記されている。そして、この石板には、取り外しの可能な魔石が4つあるようだ」
キラーの指さしたところには、確かにそれぞれ赤、青、黄、緑に色分けされた4つの石がはめ込まれていた。これが、魔族の原石と呼ばれてる魔石か......。それで、こいつをどうしたらいいんだ?
「この4つの魔石、よく見せてもらえませぬか?」
そう言ったのは、フィドルのパーティーの一人だった。初めて見る顔だが、アルバートのショーで勝ち上がった人間だろうか。
「君は?」
「失礼。拙者、アルバート様のショーで1位通過したノスケと申す。拙者、魔石ハンター見習いでして、それらの魔石を鑑定できます」
「それなら、教えてくれよ。これがなんなのか」
4つの魔石を取り出したフィドルが、ノスケに渡すと彼は目を閉じてその魔石を触り頬に当てて静かに鑑定を始めた。あれで何かわかるのか?
「なるほど、これは4つの属性を持つ魔石でございます。炎、水、風、地の力が封じられておるようです。つまり、この石を東西南北の壁画にはめ込むのがこの巨人の目を覚ませるのかと」
「東西南北? ......ああ、さっきの碑文のこと? 北風がどうこうっていう。たしかに、やけに東西とか方角を指定してたよね」
「そうだ。巨人、つまりこのゴーレムを目を覚ませるには北には風の魔石、西は炎の魔石、東は水、そして南に位置する巨人に大地の魔石をはめろということだろう。手分けしてはめ込むでござる」
俺、ノスケ、フィドル、キラーがそれぞれ魔石をもらい、4面の壁に分かれて魔石をはめ込んだ。すると、壁面が光だし巨人の目に光りが宿り始めた。
『勇者の試練を挑みしものたちよ。大地の洗礼を受けるがよい!!』
ゴーレムから発せられた声は、力強く響くものだった。俺達は耳を塞いでいると、ゴーレムは間髪入れずに俺達を簡単に押しつぶせるほどの大きさの平手を吹き下ろしていく。
「避けろ! ジュノ!!」
「勇者の試練は、真っ向から受けてやる! 破魔震伝流 ‐魂揺‐!!!」
逃げ惑うみんなに対して、俺はゴーレムの手を受けてそのまま力でじりじりと変えそうとしていた。だが、ゴーレムの腕は破壊されずその力は俺の力でも抑えることはできない。それでも、俺は諦めない! 何度も何度も、打ち返してやる!!
「破魔震伝流 ‐破魔百連掌‐!!!」
ゴーレムの手に少しひびが入っていった。だが、その力は衰えない。俺が先に疲れるのが先かもしれない......。くそ、ここまでかっ!!
「ジュノ!!」
「大丈夫! 震避で透過した......。にしても、硬すぎだろ!」
「じゃあ、どうすんだよ! お前ほどのパワー、俺達にはねえぞ!」
「一つだけ、方法がある!」
そういうと、ノスケは飛び出してゴーレムの胸元にある魔石まで飛び乗ってそこへ刀をガンガンと突き立てていった。
「今だ! 魔石を攻撃しろ! こいつらは魔石が唯一の弱点だ!」
「そうか、わかった!」
俺は彼の言葉を信用し、ヒビの入り始めていた魔石へ打撃を食らわせた。さすがのゴーレムもその一撃にひるみ、尻餅をつくとその衝撃で魔石が粉々に割れた。割れた魔石と同じようにゴーレムはボロボロと崩れ始め、しまいには砂と化した。
「意外とあっけなかったね」
「私たちの出る必要もありませんでしたわ」
「疲れた......」
長い溜息をつきながら俺が地面に座り込んでいると、東の水の精と西の炎の魔人の壁画がゴゴゴと動き始めた。しばらくすると、その二つの壁面は無くなり、二つの分かれ道となった。
「ダンジョンが変わったりするのかな、これ」
「パーティー別で分かれた方がいいかもな。どれだけ枝分かれしてようが、最後の道は一つなんだ。お前とはそこで戦えるさ」
そう言い残し、俺達は別々に分かれた。俺達は炎の魔人へ、フィドルたちは水の精の方へと、姿を消した。
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