24:炎の魔人と水の精
21階にたどり着くも、結局二つの道は1つのフロアに合流していてフィドルたちと再会することになった。ただ、気になるところは前に進めないようにしてある柵と、俺達のグループとフィドルのグループがちょうど別れるように分断された柵があるということだ。
「なんだよ、再会が早えな」
「こっちの台詞だよ。それで、これどうなってんの?」
全員が困惑していると、俺たちの目の前に二人の影が見えた。だが、その二人は人間のようには感じられなかった。一人は、炎を纏ったようなドレスを着た女性で、もう一人は青い衣装を着た妖精のようだった。もしかして、壁画の炎の魔人と水の精霊?
「どうやら僕たちの作ったパズルを解いたみたいだね。すごいや! 僕、水の精のプルリラ」
妖精がくるくると羽を使って自由に羽ばたき、炎のドレスの女性は拍手を送った。
「まずはおめでとうございます。ですが、ここで皆様の旅は終わりです。死という終着点に向かうので」
「あいにくだが、死ぬわけにはいかねえ」
フィドルの言葉にみんな頷いた。ここで死んだら夢も語ることもできないからな。それでも、炎のドレスを女性は引かずに俺達の前に近づく。
「死ぬのは決まっているのです。要は、運命なのです」
「運命はコイントスのようにひっくり返る。だから面白いんだろう? だから俺は死なない。俺はギャンブラーだからな」
「なんなの、この男......。私、賭け事なんて大嫌い!」
「大丈夫だよ、フレア。君の嫌いな人間は、みーんな僕がやっつけてあげる! だから、見てて!」
「お前、その首飾り......」
「どうしたの? フィドル」
俺が目線をフィドルに向けるも、彼はすぐにそっぽを向いてしまった。
「なんでもねえよ。それで、こいつはどうすればいいんだ? 俺達はさっさと上に上がりたいんだがな」
「君たち、どうしても頂上に行きたいの? じゃあ、僕と取引しようよ」
「精霊だろうと誰だろうと、取引はしない。俺は俺のルールで行かせてもらう」
俺は身体を十分に震わせて、目の前の柵を透過して水の精を殴りつけた。
驚いたのは水の精だけじゃない。俺自身も驚いていた。なんと、おなじようなことを向こう側のキラーもしていて俺と同じく柵の外に出ていた。
「あんた一体......」
「私は、勇者を殺すためティ・フォンに雇われた」
勇者を殺す? 一体何を言ってるんだ?
しかも、願いや夢があるわけじゃなくて雇われたのか? こいつ、一体なんなんだ? 誰もがキラーという存在に気味悪がるも、水の精だけは共感するように頷いていた。
「へえ。じゃあ、僕たちも同じだね。僕も勇者を足止めするためレオって人間に買われたんだ。面白い事考えるよね。人間って! 人間をさ、殺すと僕たち自由になれるんだ! だからさ、死んでよ! 僕たちの自由のためにさ!!」
「死んでたまるか! 俺は、俺達は勇者になる道を進み続ける!」
俺たちを筆頭に、フィドルたちは柵を越えて来た。全員自由になってしまったのが誤算だったのか、水の精はかなり怯えていた。
「ここは僕たちの部屋だ! 僕たちのルールに従え! こっちは等価交換を望んだだけなのに!」
「心臓のどこが等価交換ですの!? あなた達くらいの生物なら、私たちで十分ですわ! ゼノ! ゼノバースト 承認ですわ!」
「そんなにガバガバ撃てるもんじゃねえよ......。ネガい......。仕方ない、ミサイルを撃ち込む!!」
そう言うと、ゼノ・バスターの腕が変化し、無数の穴から弾丸を発射していった。そのミサイルは、魔人と水の精霊に当たっていく。だが、その威力に反して彼らはぴんぴんしていた。
「まじでさ、最悪だよ。たくさんゲームも用意してたのにさ。そこまでするなら、僕たちは戦うよ?」
「戦いなら、負けない!」
フィドルと俺とキラーが前方に出て、水の精プルリラと炎の魔人フレアを手分けして戦い始めていく。俺とキラーはプルリラを、そしてフレアをフィドルが相手し始めると俺に追従してティルとゼノバスターが後援で射撃を続けていた。
「破魔震伝流 ‐螺刹‐」
水、というよりこいつの体、ぬめぬめしてる!? 当てたいところに当てられない......。こいつ、自分の体を自在に変化させられるのか!?
「僕は水の精だよ!? 自在に自分の水質さえ変えられるんだ! この体では、君の振動は伝わらない!! 僕の配下達よ、あいつらを溶かしちゃえ!!」
プルリラは自分の体内から、スライムを生成し始めた。スライムは俺を無視してゼノバスターの方へ向かっていく。俺が彼女らの方へ振り返ると、ゼノバスターは腕から筒状のものを引き出し、そこから炎を繰り出した。炎はスライムを焼き尽くし、消滅させていく。あれなら、大丈夫だな。俺は改めてプルリラの方へ向こうとするとそこには彼はいなかった。しまった、敵を見失った!!
「勇者っていうのは他人のピンチにすぐ駆けつけようとする。でも、それが弱点なんだ」
いつの間にか、俺の体中に水がまとわりついていた。首も締まり始めて、息も苦しい......。しばらくすると、俺は水の精の体内に入っているようだ。水の塊で、身動きが取れない......!! 声も出せない。これじゃ、俺は何もできずに死んでしまう!!
それは嫌だ!! 俺は必死に体を震わせ、水からの脱出を試みた。 すると、カインがこちらに近づいて、狼の爪に変化した腕で俺を助けようとしていた。いつもヘラヘラしてて戦いもしようとしない彼も頑張っているんだ。俺も、やらなくちゃ!!
姉さんは言っていた。破魔震伝流の神髄は丹田だ。丹田を震わせ、自分の声すらも流派の振動に帰るんだ!!
破魔震伝流 ‐無声振動‐!!
口を開けた瞬間、俺にまとわりついていた水がはじけ飛び、拘束が解かれていった。
「ハァ......。ハァ......。死ぬかと思った......」
「ありえない! プルリラの拘束を破るなんて!!」
「やるな、ジュノ!」
「スライムはすでに攻略済みなんだよ! ていうか、水の方が振動は伝わりやすいんだよ! 破魔震伝流 ‐魂揺‐!!」
「無駄なことを!!」
無駄なことなんてない! 俺は俺自身の振動で拳を加速させる! そして、お前のその変化能力のスピードを越えて見せる!! これは新たな魂揺の形だ!
「こいつ、腕が伸びっ!!」
「ダメ押しの破魔震伝流 ‐魂揺‐!!!!」
拳は確実にプルリラの顔面を捕らえた。 崩れ行く顔面を、俺は押し出しさらに拳を振り下ろす。プルリラは吹き飛び、地面に何度もたたきつけられ、引きずられたかのように地べたを這いずっていった。
「ど、どうせお前たちにも自由は来ない! 僕がやらなくても他の同胞たちがやってくれるさ!! はは、ハハハハ!!!」
そう言いながら、プルリラは蒸発していった。その様子を見た炎の魔人のフレアの動きが止まった。
「プル! プル!! ああ、私のプルリラ......。 あなたたち、よくもプルリラを!! 無害な精霊を殺して、なにが勇者ですか! 囚われの私たちを悪だと決めつけ、殺すのが勇者なのですか! あなたたちは、勇者にふさわしくない! 絶対に殺します! 殺してやるぞ!」
「自分の夢通すために体張りあったんだ。俺達もお前らも死んでも怨んじゃいけねえんだ。俺達はそういう場所で戦ってんた。今更ギャーギャー喚くな。俺達はもう、夢のチケットを売り払ったギャンブラーなんだよ」
「そんなにギャンブルがお好きなら、私とひと勝負しませんか? 戦いではなく、賭けの勝負です。それで私が負ければ、私を好きにしてください。しかし、私が勝てばあなた達を殺し、その首を我が主に捧げます」
コイツの主もレオなのか? あいつ、勇者の邪魔をしたいのか応援したいのかどっちなんだ? なんにせよ、どうにかしてでも引きづりおろして一発ぶち込んでやる! そのためにも、この賭けを降りちゃだめだ!
「フィドル。俺はやる気満々だよ」
「俺だってそうだ。少し、聞きたいこともあるしな」
フィドルが気になっていたことは、きっと彼女の付けていた首飾りのことだ。それと彼の事と関りが......。そういえばこいつ、妹がいたよな。もしかして、妹の......?
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